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第24話 はじめてのカレー

「……想像以上にでかいな」


 ハプニングはあったものの、無事に俺達は全員揃って宿泊施設に到着できた……のはいいんだが、宿泊施設が想像以上にデカくて、思わず建物を見上げながら息を呑んでしまった。


 これ、普通に高級ホテルって言っても何の違和感も無いよな……すげぇな、こんなところに泊まれるなんて、うちの高校ってそんなに金があるのか? 別に金持ち御用達の私立高校じゃないんだが……。


「この建物、学校行事専用の施設みたい。林間学校の他にも、部活の合宿とか、勉強合宿なんかにも使われるんだって」

「日和、ずいぶん詳しいな。調べたのか?」

「うん。昨日の夜、楽しみで中々眠れなかったから、ちょっとスマホで調べたの」


 行事の前夜に寝れないって、まるで小学生みたいだ。それくらい林間学校が楽しみだったのだろう。


 そんな事を思っていると、猿石君が突然膝から崩れ落ちた。しかも表情を思い切り歪ませ、目からは血の涙を流している。


 普通の人が相手だったら何があったのかと心配するけど、相手はあの猿石君だし……またしょうもない理由とかいうオチもありそうだ。


「さ、猿石君? 大丈夫?」

「神宮寺さん……だ、大丈夫やあらへん……大変なんや」

「大変なの!? ど、どうしようヒデくん……!」

「あー……うん。とりあえず大変な理由を教えてくれないか?」


 日和は猿石君がホントに大変なことになっていると思っているのか、オロオロしながら俺に声をかけてきた。


 まったく日和は純粋でいい子すぎる。そんなんじゃ、いつか誰かに騙されて連れて行かれてもおかしくない。


 ……日和を連れていきたくなる気持ちは痛いほどわかるけどな。そんな奴がいたら絶対に許さないが。


「ワイはな……もっと質素というか、民宿みたいなのをイメージしてたんや……なのに、こんな縦にバカでかいうえに、セキュリティがしっかりしてそうなホテルじゃ、窓の外から女子の部屋に行けへんやないか! くっそー! 中学のスキー教室は一階が男子で二階が女子の部屋やったから、窓から侵入できたというのに! でかけりゃいいってもんやないで!」

「……はぁ」


 うん、案の定しょうもない理由でした。ていうか、中学の時に侵入済みなのか……猿石君の女子やエロへの執念は凄まじくて、心の底から凄いとさえ思ってしまうくらいだ。真似しようとは微塵も思わないけど。


「出雲さん、後はよろしく」

「おっけー。この後お昼ご飯だから、中の食堂に運べばいいんだよね」

「ああ。旅のしおりに確かそう書いてあったよ。先生についていけば着くはずだ」

「え、ちょっ、まっ……あふんっ」


 出雲さんは猿石君の首に手刀を入れて気絶させると、首根っこを掴んで食堂へと去っていった。


 やれやれ、猿石君にも困ったものだ。普通に話している分には面白いし悪い奴じゃないんだけどなぁ。色々と勿体ない。


「ヒデくん、猿石君は大丈夫なのかな」

「そんなに心配するような事じゃないから」

「そうなの……?」


 猿石君の大変発言を本気に捉えていたのか、少し不安そうな表情をする日和。


 純粋過ぎるのも少し問題だな……日和の為にも、今度ゆっくりと色々教えてあげないといけないな。


「は~い、これからお昼ご飯ですので、みなさん中の食堂へ行きますよ~。案内するのでついてきてください~」

「っと、先生が呼んでるな」

「うん。お昼ご飯楽しみ……ヒデくん、早く行こう」


 俺はお昼と聞いて一瞬で目を輝かせる日和に手を引っ張られて、建物の中へと入っていくのだった。




 ****



「ヒデくん……この茶色いのはなに?」


 建物の一階にある食堂に集まった俺達は、班ごとに分かれて着席していた。


 大きな目をパチクリとさせながら小首を傾げる日和の視線の先、そこにはいたって普通のカレーと味噌汁、サラダが置かれている。


「日和ちゃん、カレー食べた事が無いの?」

「カレー……名前は知ってるけど、現物は見たことない」

「日和の家でカレーって食べないのか?」

「うん。多分うちのコックさんなら言えば作ってくれると思うけど……」

「こ、コック……二人の昔の話を聞いた時に、神宮寺さんの家が金持ちっていうのは聞いてたけど、コックまでおるんか……」


 ついさっき復活した猿石君が、目を丸くして驚いている。


 まあ気持ちはメチャクチャわかる。俺も食卓にフォアグラとか出てるって聞いた時は、むせる程驚いたし。


「まあ食べてみればわかるよ」

「うん。いただきます」


 日和は少し緊張しながらカレーを口に運ぶ。それから数秒後には日和の笑顔――は見られず、ちょっと苦い顔をしていた。


 あ、あれ……カレーて基本的に万人受けする食べ物だと思ってたんだけど……日和の口には合わなかったのだろうか。


「美味しくなかったか?」

「ううん、味は美味しいの。でも……ちょっと辛い……」


 そうだった、日和は辛い物が好きじゃないって前に言ってたな……ならカレーは口に合わないっていうのにも納得だ。


「あたしも食べよっと。いただきま~す……うーん、辛いかなぁ? ちょっとピリッと来るくらい?」

「ワイは辛い物が大好物やから問題ないわ!」

「あんたは辛いものじゃなくても何でも好きじゃないの」

「せやで! 好き嫌いなく何でも食べる間猿様とはワイの事や! まあ一番大好きなのはねーちゃんやけどな!」


 さっきも出雲さんに粛清されたのに、猿石君も懲りないなぁ……それが猿石君の魅力の一つなのかもしれない。真似したいとは微塵も思わないけど。


 さて、そんなに辛いのか俺も食べてみるか……うん、出雲さんの言う通り、あとからちょっとピリッと来る。辛い物が苦手な日和には厳しいかもしれないな。


「せっかく美味しいのに……悲しい」

「日和、今度家で辛くないカレーを作ってあげようか?」

「え、辛くないカレーがあるの?」

「ああ。甘口のカレーがあるから、それに少し手を加えて、日和専用のカレーを作るよ」

「ヒデくんのカレー……楽しみ」


 美味しくカレーを食べれない悲しみで顔を俯かせていた日和は、俺の言葉が嬉しかったのか、微笑みながら頷いてくれた。


 ここまで素直に喜んでくれると作りがいがあるってものだ。けど、カレーって数回しか作った事がないし、味付けも辛めのものだ。甘口のカレーの作り方も調べておかないとな。


 まあ……カレー粉を辛口から甘口に変えれば済みそうだけど。っと、調べても無いのに決めつけるのは良くないか。


「日和、無理して食べなくてもいいんだぞ。ダメそうなら俺の味噌汁とかサラダ食べてもいいからな。あっでも、野菜もあんまり好きじゃなかったな……」

「ありがとうヒデくん。でも大丈夫。食べないと元気出ないから、頑張って食べる」


 ふんすっと握り拳を作って気合いを入れた日和は、カレーの辛さて涙目になりながらも、頑張って口に運び続ける。


 せっかく美味しいのに、辛いせいで食べるのが大変なんて可哀想すぎる……家に帰ったら、絶対に日和が美味しいって笑顔で食べられるカレーを作ってあげようと心に誓いながら、俺は自分の分のカレーを口に運ぶのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は金曜日の朝に投稿予定です。


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