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第23話 目の前の少女を助けるために

「ちょっと、大丈夫!? どうしたの!」

「この子が足を挫いちゃったみたいで……」


 咄嗟に出雲さんが駆け寄ると、一人の女子生徒が説明してくれた。ケガをした女子は教室で見たことがあるから、恐らくクラスメイトだろう。


 俺が前に住んでいた田舎と比べると、確かに山道は整備されているが、道路のようにコンクリートで固められている訳じゃない。きっとその辺に転がっている大きめの石を踏んで捻ったとか、そんなところだろう。


「先生は呼んだんか?」

「ええ……さっき連絡したわ」

「ならええねんけど……大丈夫か? もうちょっとの辛抱やからな」

「うぅ……痛いよぅ……」


 猿石君も駆け寄って心配する中、俺は遠巻きにその光景を眺めていた。


 もちろん心配じゃないわけじゃないが、昔のような正義感で人助けようとした結果、また昔のようにいじめられるきっかけになるかもしれない。


 でも……俺の手の届くところで、あんなに苦しがってて……!


「……くっそ!」


 気づいたら、俺は背負っていたリュックを腕に抱えながら駆け出していた。


 何故勝手に身体が動いたのか、俺にはわからない。ヒーローの気持ちがまだ残っていたのか、高校に上がって昔のような酷いいじめを受けなくなったからなのか……。


 まあいい。この際理由なんかどうでもいい。とにかく目の前で苦しんでいる彼女を助ける。今はそれだけだ。


「大丈夫か? ちょっと痛いだろうけど、我慢してくれ」

「え……? いたっ……!」


 俺はうずくまる彼女の前で片膝をつくと、ケガをしていると思われる右足の靴と靴下を脱がせた。


 周りの連中が驚いているが、そんなのは知った事ではない。早く応急手当てをしないと!


 ケガの状態は……赤く腫れてはいるけど、骨までいってそうな感じはしない。骨折してたら、もっと酷い見た目になっているはずだ。


「ちょっとヒーロー、何するつもり?」

「応急手当」

「ヒデくん、手当できるの……?」

「まあな。ガキの頃、母さんに自分で手当て出来るようになっておけって教えてくれたんだ」


 俺は姫宮と日和にそう答えながら、リュックから持参した包帯とタオル、そして冷えた水が入っている水筒を取り出した。


「猿石君、この水筒の水でタオルを濡らしてくれないか?」

「お、おう! 任せとき!」


 タオルと水筒を猿石君に手渡してから、俺は包帯で足が動かないように固定していく。


「いたっ……ぐすっ」

「すまない。でも酷くならない為だ……我慢してくれ」


 痛みで涙ぐむ彼女を励ましながら、手早く包帯を巻いていく。


 よし……うまく固定出来たな。あとはケガした部分を冷やしておけば、とりあえずは大丈夫だろう。


「桐生君! びっちゃびちゃにしておいたで!」

「言い方があれだけど……助かったよ。俺の飲みかけの水で申し訳ないけど、悪化しないようにするためだ」

「……あ、ありがとう……」


 猿石君から受け取ったタオルをケガした所に当てながら言うと、彼女は小さくお礼を言ってから、自分で足首を冷やし始めた。


 それから間もなく、連絡を受けて来てくれた養護教諭の先生が、俺の手当てに舌を巻きながら、彼女を背負って一旦山道を降りていった。


「……ふう。とりあえず大丈夫そうだな。って……」


 ケガをした彼女を見送った俺は、日和達と再度山登りを再開しようと振り返ると、班員達や彼女を心配していたクラスメイト達の視線が、俺へと集中していた。


 無我夢中になってたせいで、周りの注目を集めているのに気づかなかった……!


 こんな光景は、何回も経験がある。こっちに引っ越してから、俺が誰かを助けた時に、今みたいに注目をよく集めていた。


『なにあいつでしゃばってるの?』

『自分はヒーローって……ばかじゃねーの?』

『うっざ。きもいんだよ』


 過去に言われた事が脳裏に響き渡る。まるで今の俺を責めるかの様に。


 早くここから立ち去らないと、また何を言われるかわからない。そう思っていた俺の肩に、猿石君の腕が回された。


「桐生君凄いやん!あないに手際良く手当てができるなんて、めっちゃ驚いたわ!」

「ホントホント! 凄すぎて思わず見惚れちゃったよ!」

「え、え……?」


 猿石君と出雲さんに続く様に、周りのクラスメイトも「凄かった」ととか、「カッコ良かった」というお褒めの言葉を俺に投げかけた。


 貶される事は今までいくらでもあったけど、こんなに素直に称賛された事なんて一度もないせいで、俺はどうすればいいかわからなくなっていた。


 わからないけど……こんなに素直に褒められるのは、なんか胸が熱くなるっていうか……凄く嬉しいな。


「ヒーローすご〜い! カッコよくて惚れちゃいそう〜!」

「……ヒデくんに近づかないで」


 どさくさに紛れて姫宮が俺にくっつこうとしたが、間に日和が割って入って姫宮が近づいてくるのを阻む。


 日和、俺を守ってくれたのか……?


 それにしても、こんな時でも俺に近づこうとするなんて、ホントに姫宮の考えがわからない。


 春休みに俺を騙したんだし、俺をいじめたいのだろうか? それにしては、いじめっ子達とやり方が全然違うし……よくわからない。


「ヒデくん、咲ちゃん、猿石くん、いこっ」

「あっ、待ってよヒーロー!」


 日和は俺の手を握ると、山頂を目指してズンズンと進んでいく。


「前にヒデくんの迷惑になる事をしないでって言ったのに……」

「ありがとな、日和」

「ううん。ヒデくんは大切なこんやく——幼馴染だから。当然」


 日和は婚約者と言いかけたが、すぐに幼馴染と言い直す。きっとこの前、外では婚約者と言わないようにって伝えた事を思い出したのだろう。


 まったく、ホントに日和は健気で可愛くて……俺には勿体なさすぎる女の子……って、何回同じ事を思ってんだろな? それくらい日和は素敵な女の子って事だな。


「おーい! 待ってよー!」

「神宮寺さん、思ったより足早いんやな……」

「あっ……ごめんなさい」

「気にしないでいいよ! 姫宮さんってなんとなく感じ悪いし、さっさと離れて正解! それよりも……」

「ほう……」


 後ろからやってきた猿石君と出雲さんは、何故か俺達を見てニヤニヤしている。


 俺達を見てそんなに面白いのだろうか? 正直、ガキの頃に俺をバカにして笑っていた連中を思い出しちゃうからやめてほしい……いや、これは流石に俺が捻くれすぎか。こういう所も変えないとな。


「二人はいつまで手を繋いでるの?」

「あっ……!」


 そうだ、さっき日和に手を引っ張られてからずっと握りっぱなしだった! だからニヤニヤしながら俺達を見ていたのか!


 恥ずかしくなってしまった俺は、咄嗟に日和と繋いでいた手を離した。


「……むぅ」


 よしこれで大丈夫……って、なんで日和はほっぺを少し膨らませながらジト目で俺を見てくるのだろう?


「もっとヒデくんと手、繋いでいたかった」

「ご、ごめん」

「おうちで沢山繋いでくれたら、許してあげる」

「わ、わかった」


 そう言うと、日和は満足そうに頷いた。その隣では、猿石君と出雲さんが、まだニヤニヤしながら俺達を見つめて続けている。


「も~二人共見せつけてくれちゃって~」

「かーっ!仲がようて羨ましいわ! って……これ前も同じ事を言った気ぃするな?」

「初めて一緒にお昼を食べた日に言ってたじゃない。おバカだとそんなのも覚えてられないのね……可哀想に」

「覚えてなかったら言った気ぃせんわ! おバカ舐めるでないで!」

「猿石君、そこはおバカを否定する所じゃないのか?」

「はっ……言われてみればそうやな! ひょっとして桐生君は天才なんか!?」


 まるでとんでもない規模の秘密を知ってしまったかのように愕然とする猿石君に、俺は思わず面白くて笑みをこぼしてしまった。


 それに続く様に、猿石君と出雲さん、そして少し不満げそうな顔だった日和も一緒に笑ってくれた。


 こうやって、笑いながら会話して……ちょっとしたハプニングもあったけど、学校行事も満喫して……ああ、これが楽しい学校生活ってやつなんだろうか?


 できればこんな学校生活が、これからも続くと嬉しいな。






「ちっ……ヒーローのくせにちやほやされてんだクソが。見ててイライラするぜ」

「気持ちはわかるけど、今はおとなしくしてなさい。後でいい思いしたいでしょ?」

「うっせーな、わかってるっての」

「ふふっ。キャンプファイヤーの時が楽しみね」

ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は火曜日の朝に投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


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