第22話 楽しい登山
二時間ほどバスに乗り、山のふもとに到着した俺達は、バスから降りて一度クラス単位に集まって登山の説明を受けていた。
まあ説明と言っても、登山ルートから逸れないようにとか、何かあったらすぐに旅のしおりに書いてある番号に連絡しろといった簡単な内容だ。
ちなみにだが、大きな荷物はバスが上の宿泊施設まで運んでくれるらしい。だから生徒達は、水筒やタオルといった、必要最低限の物が入っているリュックしか持っていない。
寝巻きやバスタオルとか、人によっては他にも色々入っている大荷物を持っていかなくていいのは助かるな。
ちなみに俺はそれらのアイテム以外にも、ケガをした時用の応急セットも持っている。
「では出発しますよ〜。他の班同士が一緒に動くのはいいけど、なるべくバラバラにはならないようにね〜。あと、これは競争では無いのでマイペースで登るように〜。あ、でもお昼までには到着しないとご飯が食べれないので注意してくださいね~」
担任の先生の号令を合図に、俺達一組から登山を始める。
少し歩いてみて思ったんだけど、道はそんなに急じゃないし、整備もしっかりされている山道という印象だ。山自体がそこまで大きいものじゃないから、当然と言えば当然かもしれないが。
ちなみに俺の住んでいた田舎は急斜面が多かったし、こんなに整備もされてなかったから、ちょっぴり羨ましい。
まあ、過疎化が問題視されるほどの田舎に整備する金なんて無いだろうけどさ。
「う〜〜〜〜ん! 天気も良いし程よく暖かいし、空気もおいしくて静か! 将来は素敵な旦那さんとこういうところに住みたいなぁ……」
「はっ! 咲にそんな男が現れると思うてるなんてわろてしまうわ! もしかして高等なギャグか?」
「あぁ? そこの猿、なんか言ったか?」
二人のコントに苦笑いをしつつ、俺は隣を歩くと日和に視線をやると、楽しそうに山登りに興じている日和の姿があった。
「日和、楽しいか?」
「うん、楽しい。それに山の中を歩いてるとね、子供の頃にヒデくんと一緒に遊んでた頃を色々と思い出せて、すごく嬉しいの」
「たくさん山の中で遊んだもんなぁ」
探検したり、段ボールで作った俺の秘密基地に行ったり、木登りしたり、川で水遊びをしたり……山の中だけでも、色んな遊びをしたもんだ。
「あの時は私の身体が弱くてたくさん遊べなかったけど、今ならたくさん遊べる」
「そっか。なら夏休みにでも一緒に行けたらいいな」
「うん」
日和と楽しく話しながら順調に登っていたが、途中から疲れてきてしまったのか、日和の息が少し上がってきていた。
昔に比べれば丈夫になったとはいえ、日和は元々身体が弱い。無理をしたらこの後に響くだろうし、少し休んだ方が良さそうだな。
「猿石君、出雲さん。日和が少し疲れたみたいだ。休ませたいから、先に行ってていいよ」
「私は……大丈夫……」
「そんな息が上がってる状態で言われても、説得力無いって」
「ありゃ。山登りって結構体力使うし、仕方ないね」
「……あー、ワイも疲れてもうたなー。咲、オノレも疲れてるやろ?」
「んー……そうだね。よし、少し休憩してから、のんびり登ろう!」
二人共気を遣ってくれたのか、わざと自分達も疲れてるから休むと言って、日和に負い目を感じさせないようにしてくれた。
ホントに優しいというか、気がきくというか……ぴったりな表現が思い浮かばないけど、良い奴だっていうのだけは分かる。
「ふっ……気を利かせられるワイ、イケメンすぎんか……? これは世の中のねーちゃんがワイを放っておかんな!」
「寝言はその欲望丸出しになってる猿顔をどうにかしてから言ったら? あ、ついでに永眠してくれたら凄く嬉しいんだけど」
「生まれつきの顔をどうにかできる訳あらへんやろ! あとちゃっかりワイを殺すな!」
「整形すれば一発じゃん?」
「整形する金がどこにあるねん! 咲が出してくれるんか?」
「あんたなんかに一円も投資したくないんだけど」
二人共元気だなぁ……っと、それよりも日和の事を見てあげないと。
「日和、水飲めるか?」
「うん……」
「一気に飲まないで、ゆっくり飲むんだ」
俺の指示を聞く余裕はまだあるのか、日和は持参した水筒を口にしてゆっくりと喉を潤す。俺はその隣で、旅のしおりをうちわの様に使って扇いであげた。
純粋に疲れただけなのか、それとも日差しにやられたのか……?
「気持ちいい……ありがとう、ヒデくん。少し楽になった」
「それならよかった」
「みんなに迷惑かけられないから……そろそろ行こう」
「まだ回復しきってないんだから、無理はしちゃダメだって」
「でも……」
申し訳なさそうに、顔を伏せながら言う日和。
きっと日和の事だから、自分のせいで到着するのが遅れてしまう事に、後ろめたさを感じているのだろう。でもさっき先生が言っていたように、これは競争ではないし、昼までに到着すればいいだけだ。
だから別にそんなに気に病むことは無いと思うんだけどな……。
「日和ちゃん、さっきも言った通り、あたしも間猿も慣れない登山で結構疲れてるんだ。だから休憩したいのはあたし達も同意見! だから気にする必要はなし!」
「そういうこっちゃ!」
「な? 休んでから出発しよう」
「……うん、わかった。みんなありがとう」
俺達の言葉に頷いた日和は、安心したのか表情を緩めてくれた。
「あ~~~~もう! 日和ちゃんは素直でホントにいい子だねぇ! 可愛すぎて食べちゃいたいくらい!」
「わわっ……た、食べないで……!」
またしてもだらしない笑顔を浮かべる出雲さんは、日和を抱きしめながら頬ずりをし始めた。
日和、ホントに食べられたりするわけじゃないから、そんな不安そうな顔で俺を見なくても大丈夫だぞ。
「さ、咲が神宮寺さんを食べるやって……? じゅるり……ぜ、是非ワイもご相伴に……」
「猿石君??」
「冗談やって!!」
「……冗談を言うのは構わないけど、日和が悲しむような事をしたら……」
「す、すんませんっしたぁ! 絶対そんな事はしないと誓うっす!」
俺は満面の笑顔でそういうと、猿石君は勢いよく頭を下げてみせた。腰がきっちり九十度曲がった、まさに完璧と言える姿勢だ。
それにしても……そんなに怯えなくても良いと思うんだけどな。口調も部活の後輩キャラみたいになってるし……俺の顔、そんなに怖かったか? ちょっとショックだ。
「……? あれ、なんかあっちが騒がしい」
「ん~? ホントだ。どうしたんだろうね?」
くっつき合っていた女子二人の視線の先、少し登ったところから何やら声が聞こえる。それは普通の話し声や笑い声とは違い、何やら切羽詰まったような感じだ。
「何かあったんとちゃう?」
「そうっぽいな」
俺達は首を傾げながら少し登っていくと、何故か人だかりが出来ていた。その中の中には、姫宮の姿もあった。
一体何があったのかよく観察すると、輪の中心には、暗い緑色の髪が特徴的な女の子が、うずくまりながら右足首を抑えていた――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼に投稿予定です。
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