第19話 婚約者は言っちゃダメ
「——というわけなんだよ」
婚約者だって事を言ってしまった以上、変に隠していると勘違いをし、誇張されたら面倒だと思った俺は、日和との関係や出会いの経緯を簡単に二人に説明をする。
すると、二人はそれ以上驚くどころか、むしろ納得するように頷いていた。
あれ、もっと驚かれるものだと思っていたんだけどな。
「驚かないのか?」
「ん~そりゃ一緒に住んでたり婚約者だっていうのはびっくりしたけどね。でも話を聞く感じ、そりゃずっと離れてたなら一緒にいたいよねっていうのが感想かな~」
「お隣さんな」
「ほとんど一緒に住んどるのと同じやろ! まあ、入学式から仲がいいのにも納得したわ。せやけど……ずるいねん!」
猿石は俺の肩を両手で掴むと、何故か大号泣をしながら声を荒げ始める。い、一体何がズルいというのだろうか?
「こんなおしとやかで超絶かわいい幼馴染がいてズルいねん! ワイの幼馴染とかゴリラやで! 頼むから交換してってゴリラ女の手がワイの頭にめり込んどるうううう!!??」
「いっぺんこの頭カチ割ってやろうかクソザル! あたしだって、あんたみたいなエロザルと幼馴染なんて、人生最大の汚点よ!」
この二人も幼馴染だったのか。だから助けに来てくれた時も息がぴったりだったのだろう。
それにしても……こんな幼馴染の関係もあるのか。俺と日和とは全然違うな。
「羨ましいなぁ……あたしもこんなエロザルじゃなくて、桐生君みたいな人が良かったわ~」
「はん! その言葉そっくりそのまま返したるわゴリラ女が!」
「なんですって!?」
「け、ケンカはだめ……!」
バチバチと火花を散らす猿石君と出雲さんをなだめようと、日和はおろおろとしながらも声をかける。
なんだかこの二人は仲が良いのか悪いのかよくわからないな。いや、これだけ好きに言い合えるんだから、実はすごく仲がいいのかもしれない。
「あはは、ケンカじゃないから大丈夫だよ!」
「せやな。こんなやり取りは日常茶飯事やからな」
「そ、そうなの? ケンカじゃないなら……よかった」
「~~~~っ!! 神宮寺さん可愛すぎない!? 桐生君、この子あたしにちょうだい! ちゃんとご飯もあげるしお風呂にも入れてあげるから! あ、お散歩もちゃんとするよ!」
「それ完全にペットでは!?」
ホッと胸をなでおろす日和に抱きつきながら頬ずりをする出雲さんは、とんでもない事を俺に要求してきた。
出雲さんなら日和の面倒をちゃんと見てくれそうだけど、だからといってあげる事はできない。
「ちぇ~……じゃあ日和ちゃんって呼んでいいかな? あたしの事も咲でいいからさ!」
「うん、いいよ。咲ちゃん」
「あぁ~~~~っ!! もう全部がかわいい!! こんなかわいい子がこの世に存在するの!? ていうかむしろ尊い!!」
「むぎゅう……苦しい……」
ついに限界を迎えたのか、出雲さんはヨダレを垂らしながら日和を抱きしめる。
さっき猿石君にあれだけの馬鹿力を発揮したのを見た後だと、もしかしたら日和も馬鹿力の被害者になってしまうかもって思ってしまう。早く助けないと!
「出雲さん、日和が苦しそうだから放してあげてくれないか」
「え……あ、ごめんね日和ちゃん! 痛かった?」
「ちょっとだけ苦しかったけど、大丈夫」
まるで姉妹のように笑い合う日和と出雲さん。大人しい日和とは、良い友達兼お姉ちゃんになってくれそうだ。
一方、猿石君は息を荒くしながら二人をガン見していた。ちょっと目が怖い。
「さ、咲が神宮寺さんと同居……ほんで夜にイチャイチャし始めていけない展開に……!? さ、最高やないか……!」
「…………猿石君?」
「じょ、冗談やって! そんな睨まんといて!」
俺は目を思い切り見開きながら、猿石君の事を睨みつけると、猿石君は顔を青ざめさせながら震えていた。
俺の大切な日和を性的に見るのは絶対に許さない。まあ冗談だと思うけど……猿石君は見てる感じ、冗談じゃなくて本当に興奮してるかもしれないからな。
その後、適当に喋りながらごはんを食べていると、気付いたら昼休みも残りわずかとなっていた。
「そろそろ昼休みおしまいだね。教室に戻ろうか~」
「せやな」
「あ、ちょっと日和と話したい事があるから、先に戻っててくれないか?」
「内緒の話……? はっ……きっと誰にも聞かれたくないエッチな会話がふべあ!?」
「じゃああたし達は先に戻ってるね~」
出雲さんは、また変な想像をして息を荒くしていた猿石君の頭に、手刀をめり込ませて気絶させると、首根っこを引っ張って教室に戻っていった。
こわっ……出雲さんは怒らせないようにしたほうがよさそうだ……猿石君と同じ目にはあいたくないし。
「ヒデくん、話って?」
「ああ、さっき日和が俺との関係を言っただろ? あれはあまり人に言わない方が良い」
「……? どうして? 私がヒデくんの婚約者なのは事実」
「そうなんだけど……」
俺の言葉の真意が理解できないのか、日和は小首を傾げながら言う。
俺と別れてからの日和の生活はちゃんと聞いてないが、きっと人間関係で不自由はしてこなかったんだろう。だからこそ、こんなに純粋なんだ。
俺は知っている――人間というのは、少しでも他人と違うものを見つけたら迫害する生き物だ。それどころか、軽蔑する対象にする事もある。
現に俺はヒーローという普通と違う生き方をした結果、何年にも渡っていじめ抜かれた。
そんな連中の前で、高校生でもう婚約者がいるんですーなんて堂々と言ってみろ。獲物を見つけたハイエナのように、日和をからかおうとする連中が集まってくるだろう。
それだけならまだしも、馬鹿にしていじめの材料にする奴も出てくるかもしれない。
あんな地獄を、日和に味合わせてなるものか。だから日和が人前で俺を婚約者と言えなくなって悲しくなったとしても、俺は心を鬼にして言うんだ。
「俺達の歳で婚約者は普通いないんだ。普通じゃない事をすると、変な目で見られたり、好奇心で変な奴が近寄ってきたり……いじめられたりする。俺は日和が心配で……そんな目にあってほしくなくて……」
俺は視線を落としながら言うと、急に右手が少しひんやりした柔らかいものに包まれた。それに反応するように顔を上げると、日和が俺の手を取りながら、俺を見つめていた。
「ヒデくん、そんな悲しそうな顔しないで」
「日和……?」
「ヒデくんが悲しそうな顔をしてると、私も悲しくなる。ヒデくんが悲しくなるなら、婚約者ってもう言わない」
少し寂しそうに微笑む日和の姿に、俺の胸が痛むのと同時に、酷い罪悪感が襲ってきた。
「その……ごめんな」
「いいの。それに、私の事を考えてくれたんだよね。ありがとう」
俺が申し訳なさそうに視線を少し反らしたからか、日和は俺を安心させるように、優しく微笑んでくれた。
日和を守るためとはいえ、日和にこんな顔をさせてしまったんだ。もうこんな顔をさせないように、俺が日和を守らないと……そう強く思いながら、一緒に教室に戻るのだった。
「婚約者……ふふっ、面白そうなこと聞いちゃったわね」
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は日曜日のお昼ぐらいに投稿予定です。
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