第16話 運命のくじ引き
会いたくもない奴に会うというトラブルが起こったけど、健康診断は滞りなく終了し、俺は制服に着替えて教室に戻ってきていた。
やっぱり六クラスもあると、待たされる事が多くて時間がかかる。三十分くらいで終わるかなと思っていたのに普通に一時間以上経ってるな。
「ふー……」
「ヒデくん」
自分の席に座って一息入れていると、日和が微笑みながら俺の元へとやってきた。
やっぱり日和といると安心するし、自然と顔が笑顔になる。まだ再会してそんなに経っていないのに、俺の中で日和の存在はかなり大きくなっているんだな。
「健康診断、どうだった?」
「特に異常なし。日和は?」
「私も大丈夫。あっ、でも……」
「でも?」
「身長……去年からほとんど伸びてなかった……」
そんなにしょんぼりするほどの事なんだろうか? まあ俺にはわからない、日和の価値観っていうのもあるだろうし、変に詮索のも野暮ってやつか。
「俺はこんな感じだったよ。はい」
「見せてくれるの? ありがとう。ほわぁ……身長が百六十八センチもある……私より二十センチ以上も大きい。いいなぁ」
俺は健康診断の結果がまとめてある紙を日和に手渡す。
確かに小柄な部類だとは思うけど……俺は別に、大きくても小さくても日和は魅力的だと思うけどな。
「はい、これ」
「これ……日和の健康診断の紙?」
「うん。ヒデくんが見せてくれたから。私のも見て」
いやちょっと待て。日和はわかってないかもしれないけど、そこには恐らく日和の身長以外にも、体重やスリーサイズが書かれているはずだ。さすがにそれを俺が見るわけにはいかない。
「……見ないの?」
そ、そんな悲しそうな顔をしないでくれ……。
「……日和、ちょっと耳を貸してくれ」
「……? うん」
日和は小首を傾げながらも、俺に顔を近づけて耳を向けてくれた。
流石に周りにクラスメイトがいるのに、おおっぴらにスリーサイズが書いてあるものなんか見れない! なんて言うのはあれだし、こうやってこっそり教えるのがベストだろう。
「男の俺に、日和の体重やスリーサイズが書いてあるものなんて見られたら恥ずかしいだろ?」
「……? ヒデくんは婚約者なんだし、体重とかスリーサイズを知られても、私は気にしない」
「っ……! そう言ってくれるのは嬉しいけど、誰かに覗き見られるかもしれないだろ?」
「そ、それはヤダ」
よしよし、うまく見ない方向に誘導出来たな。このままうまくやり過ごして見ない流れを作ればなんとかなりそうだ。
「じゃあ、お家に帰ったら見て。それなら問題ない」
「…………」
それは完全に盲点だった。
そうだよな……覗き見られるのが嫌なら、その可能性がゼロの家で見ればいいだけだよな。
なんで日和はそんなに俺に見てもらいたいんだろうか。日和は凄くいい子で俺を慕ってくれるけど、普通恥ずかしがるような事を、恥ずかしがらずに平然とやってのけることがある。
例を上げれば、バスタオルで出てきたり、今回みたいな事とか。普通の女の子ってこういうのは恥ずかしいものじゃないのだろうか?
でも婚約者ってずっと言ってくれてるし……日和の気持ちをしっかり理解するには、ずっとぼっちだった俺にはまだまだ時間がかかりそうだ。
「は〜い、みんな席について。ホームルームするわよ〜」
「あ、先生来た。ヒデくん、また後で」
日和は小さく手を振ってから、自分の席に戻っていく。その姿を見送っていると、俺の事を見ている……というより睨んでいる姫宮の姿が視界に入った。
……何見てんだあいつ。気分が悪くなるから見ないで欲しいんだけど。
そんな事を思っていると、前の席から一枚のプリントが配られた。なんだこれ……なになに? 林間学校のお知らせ……?
「みんな、プリント行き渡りましたね。ではそこに書いてある通り、林間学校の説明をします」
担任の先生はコホン、と咳ばらいを一つしてから林間学校の説明を始める。
「今月末……三十日と一日の一泊二日で林間学校が行われます。主に新入生同士の交流を目的としています」
交流か……俺は日和と一緒にいられればいいから、別に他の生徒との交流なんていらないんだよな。
「目的地や林間学校中のスケジュールは各自プリントを確認するように」
「せんせ~!」
「はい、なんでしょう?」
「プリントには四人で班をつくるみたいな事が書いてありますけど~班は好きな人と組んでいいんですか?」
随分と元気そうな女子が手を上げて質問すると、先生は軽く頷いてからとある物を取り出してから、黒板に一から十までの数字を書いた
なんだあれ……缶の中に、割りばしが何本も入っているな。そして黒板に書かれた数字……これはもしかして……。
「すでに仲のいい友達とでは交流は広がりません。なので班はくじ引きで決めます!」
やっぱりか……それだと日和と一緒になれない可能性があるじゃないか。他のクラスメイトも不満なのか、「えー!」という声やため息が聞こえてくる。
「苦情は受け付けませんよ~。あ、ちなみにこのクラスは四十人いるので、男女二人ずつの四人、合計十班を作ります。では男子と女子、どっちが先に引くかじゃんけんで決めます。我こそはと思うじゃんけん立候補者いる~?」
「…………」
先生が聞いても誰も立候補者は出なかった。ここで出てへんに悪目立ちするのは嫌だと思う人が大多数という事だろう。
そんな中、一人の勇気がある男子生徒が手を上げた。高身長のイケメンで、体中から爽やかなオーラが出ている男だ。名前は……なんだったか?
「誰もいないなら、オレが出ますよ」
「お、さすが氷室君! じゃあ男子は決定ですね~」
「さすが氷室! クラス一のイケメンは伊達じゃない!」
「翔くんカッコイイ……」
クラスメイト達から、氷室翔にむけて称賛の声が浴びせられる。
そういえばそんな名前だったな……日和以外の人間と仲良くするつもりがなかったから、全く名前を覚えようとしてなかった。
「じゃあ女子からは誰が出ますか~?」
「ならアタシがやろうかなぁ?」
氷室に続いて手を上げたのは、姫宮だった。少し照れたように頬を赤らめながらおずおずと手を上げるその姿は、いかにも男心をくすぐりそうな感じがする。
まあ俺はあいつの事なんて眼中にないからどうでもいいんだけどな。
「うおおお姫宮さん!」
「こういう時にすぐに出てこれるのは流石だぜ!」
今度は姫宮を称賛する声が聞こえてくるが、さっきと違って男子の物しか聞こえてこない。それどころか、どこからか溜息のような物が聞こえてきた。
「出たよでしゃばり女……」
「ほんとうざっ」
さっきは氷室を称賛していた女子達から、姫宮を悪く言う言葉が聞こえてくる。
別に姫宮を擁護する気は微塵もないけど、こういう陰口は聞いていて気分が悪くなる。
「はいはい、文句があるなら自分が出れば済む事です。それが出来ない子は静かにね~」
「うっ……」
パンパンと手を叩きながら放たれた先生の言葉に、陰口を言っていた女子達は一斉に黙ってしまった。
この先生、ぽわぽわしてて頼りないと思っていたけど、結構ズバズバと言う人なんだな。ちょっとビックリしてしまった。
「それじゃ順番を決めますよ~」
「姫宮さん、よろしくね」
「こちらこそぉ」
爽やかに挨拶をする氷室と、にこやかに返す姫宮。こうして美男美女が並ぶと絵になるな。
「はい、いきますよ~じゃんけんぽん!」
先生が指揮するじゃんけんの結果、姫宮が勝ったことにより、女子が先にくじ引きを引くことになった。
正直俺としては日和と一緒になれればあとは誰でもいい――あ、いや姫宮と一緒は嫌だな。希望としてはそれくらいだ。
そんな事を考えながらボーっと見ていると、いつの間にか女子のくじ引きが終了していた。
さて、黒板に書かれた名前を確認しよう。日和は……四班か。姫宮は八班か……八班にだけはなりたくないな。
「じゃあ男子、出席番号順にどうぞ~」
女子が引いた割りばしを缶に戻してシャッフルしてから、順番に引いていく。
俺の苗字は桐生だから、割と早い順番に来る。枠が埋まる前に引けるのはありがたいな。まあ残り物には福があるとも言うし、後の方がいいかもだけど……。
「あ~……姫宮さんと一緒になれなかった……」
「くそ~! なんでお前となんだよ~!」
「うるさいわね!」
なんか既に落ち込んだり一緒になりたくなかったと喧嘩したりと、カオスな空気になってるな。気持ちはわからなくもないけど。
っと、そろそろ俺の番だな……今の所、日和の班にも姫宮の班にも男子の名前は書かれていない。どっちを引いてもおかしくないな。
「…………」
前に出る前に、ふと日和の事を見ると、日和と視線がぶつかった。表情は相変わらず乏しいけど、どこか不安そうな顔をしている。
こればっかりは運だからな……大丈夫なんて言えない。それでも、俺は日和の不安を少しでも払拭しようと、控えめに頷いて見せた。
「は~い、一本引いてね~」
「は、はい」
教壇の所にくじを持って立っている先生の元まで行った俺は、深呼吸をしてからくじに手をかける。
背後からは、男子達からの「お前わかってんだろう?」と言いたげな視線や気配を感じる。もし日和と一緒になった結果、男子達から妬まれるのは嫌だけど、俺はそれよりも日和を悲しませる方が嫌だ。
絶対に日和と同じ班になってみせる。俺はそう決意をして、缶の中央にあったくじを手に取り、勢いよく引っこ抜いた。
そこに書いてあった数字は――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は明日の二十位時ぐらいに投稿予定です。
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