第15話 いじめられたくないんです
――花園こころ。
彼女はずっと一人で本を読んでるような、凄く大人しい子だった。
確か……小ニの夏の昼休みだったか。既にいじめられていた俺は、教室にいたくなくて、図書室に行った時に彼女を見かけた。
最初は特に話す気もなかったんだけど、ある日彼女から俺に声をかけてきた。
最近よく見かけるけど、君も本が好きなの? って――
それをきっかけによく話すようになって……好きな本の話をしてくれたな。
この本は面白い、この本はここが感動する、この本はここがオススメだから読んでみて……そんな内容の話を、目を輝かせて力説する彼女の話を聞くのが好きだった。
別のクラスという事もあってか、昼休みと放課後に図書室で会う事しか接点はなかったけど、一人ぼっちになっていた俺には幸せな時間だった。
それからしばらくの時が経ち、とある日の放課後に、俺は彼女に呼び出された。
すごく真剣な雰囲気だったから、もしかしたら何か悩み事があるんじゃないかと思った。
もし悩みがあるなら助けなきゃ。なんてったって俺はヒーローだから。
馬鹿なガキの頃の俺は、そんな事を思いながら放課後に彼女が待つ屋上へと向かったんだ。
そして……俺はそこで突然、彼女に拒絶された。
『わたし、本当はきみのことがキライ。だからもう話しかけないで!』
そう言われた時、俺は言葉の意味が理解できなかった。
俺は何か嫌われるような事をしただろうか。そう思って思考をグルグルさせていると、あいつらが――黒鉄とその一味が出てきたんだ。
『おい見ろよ! ヒーローがきらわれたぜー!』
『なあヒーロー、ずっとナカヨシだった女にきらわれるって、どんなきもちぃ?』
『やっとこんなキモイやつとバイバイできるわね!』
『う、うん……』
黒鉄と男子一人、そして鬼塚の三人がそんな事を言ってたけど、俺はもう悲しくて……とにかく悲しくて、泣きながら一目散にその場から逃げ出した。
それからはあまり覚えていない。気が付いたら俺は家に帰ってきていて、布団に潜り込んで泣いた。
この時から、もう俺の味方はこの世界にはいないんだと思うほど絶望し、一人ぼっちの生活を始めた。
それからも地獄は続いた。いや……むしろ今までの地獄が悪化した。
俺は黒鉄達に、女にフラれた情けないヒーローだとか、女子に話しかけられて勘違いした馬鹿だとか、散々いじめのネタにされ、それが燃料になるかのように、いじめはヒートアップした。
そして、彼女とはその後一切交流のないまま小学校を卒業した。
もう会うことは無い。思い出したくもない過去の人間だと思っていたのに……まさか同じ学校だったなんて思ってもみなかった。
「よかった……英雄君とお話したかったから、会えて嬉しい」
「…………」
どこか嬉しそうに笑う花園。
一方俺は、身体の不調など忘れてしまうくらい、一つの感情に心を支配されていた。
それは、いじめっ子を前にした時に感じる恐怖でも、陰口を叩かれている時の怯えでもない。
「わたし、あなたにずっと謝りたくて……仲直りしたくて……」
「謝る……? 今更なにを言ってるんだ」
「え……」
「俺とあんたはあの時に終わったんだ。もう関わることは無い。わかったらどっかいってくれ」
俺の言葉が信じられないのか、花園は目を大きく見開きながら呆気にとられていた。
今更そんな事を言われてももう遅い。はっきり言って、俺を裏切るような奴とは関わりたくもないし、こいつのせいでいじめは悪化した事実は変わらない。
「待って……お願い、聞いて……!」
俺は花園に背を向けて歩き出そうとするが、諦めの悪いこいつに呼び止められてしまった。
もしかして、謝れば俺が簡単に許すとでも思っているのだろうか?
――冗談じゃない。俺はこいつのせいで心をボロボロにされたし、いじめもヒートアップした。
そりゃ当時は悲しかった。仲直りしたいとも思ったさ。
でも、再会したこいつに対しての今の俺の感情は……怒りしかなかった。
「あの時は事情があって……」
「……だから?」
「え?」
俺は眉間に力を入れながら振り返ると、そのまま花園の顔を睨みつける。
何が事情だ。そんなのがあったら、仲良くしていた相手が傷つくような事をして良いというのか? ふざけんな。
「事情とか俺には関係ない。俺はあんたに拒絶された。それを黒鉄達にいじめのネタにされて、更にいじめられた。そして俺は孤独になった。その事実はどうあがいても変わらない」
「そ、そうかもしれないけど……」
「はっきり言う。俺とあんたはもう友達じゃない……赤の他人だ。だからもう俺には話しかけないでくれ」
花園を完全に拒絶してから、今度こそ俺はその場を後にした。
俺は変わるんだ。その為に花園こころという過去を断ち切る。そして、日和と一緒に幸せに過ごすんだ――だから、頼むから俺の邪魔をしないでくれ。
****
「英雄君……」
英雄君に拒絶されたわたしは、その場でなにも出来ず、ただ茫然とその場に立つ事しか出来ませんでした。
わたしはあの時の事を謝りたかった。そして、前みたいに仲良くしたかっただけなのに……どうして英雄君は話を聞いてくれなかったのでしょうか。
あの時、確かにわたしは英雄君に酷い事を言ってしまいました。けど、それは深い事情があったんです。
当時、わたしは人見知りな性格のせいで、お友達がいませんでした。
ずっと一人で図書室で本を読んで過ごしていました……来る日も来る日も、休み時間はずっと図書室にいて……孤独な毎日でした。
ずっとこんな日が続くのかと思ってたけど……ある日、英雄君が図書室に来てくれました。
最初は特に何も気にしてませんでした。でも、その日から休み時間にはいつも来て、本を読むわけでもなく、ただ椅子に座っているだけでした。
そんな彼が気になって、思わず声をかけました。君も本が好きなの? って。
その時、英雄君は本は好きじゃないと答えましたね。だからわたしは、図書室に来るなら本を好きになって欲しくて、本の話をたくさんしました。
その時は凄く幸せで……はじめて友達が出来たと思いました。
でもそんな幸せは長くは続きませんでした。ある日、登校してすぐのわたしの元に、別のクラスの知らない女の子が、男の子を数人を連れて、私の元に来ました。
そしてその女の子は言いました。お前が仲良くしてる男と絶交しろ、断るならお前をいじめるぞ、と。
英雄君と絶交するなんて嫌でした。嫌でしたけど……いじめられるのは、もっと嫌だったんです。
そしてわたしは英雄君を呼び出して、絶交しました。本当は一緒にいたいのに……わたしは心にも無い事を言わされたんです。
わたしに酷い事を言われた英雄君は、わたしを脅し、更に拒絶する所を覗いていた子達に馬鹿にされて、泣きながら走り去っていったのを鮮明に覚えています。
本当に申し訳ない事をしたって今でも思います。
でも、どうしようもなかったんです……わたしがいじめられないようにするには、ああするしか方法がなかったんです。
その後、わたしは英雄君が酷いいじめを受けている事を知りました。
きっといじめっ子達は、英雄君がわたしと楽しくしているのが気に入らなかった。だからわたしを脅して、英雄君を再び一人ぼっちにしようとしたのでしょう。
本当に最低な人達です。わたしはそんな人達に利用されたんです。
ずっと謝らなきゃと思ってましたが、いじめられ続ける英雄君に話しかけると、わたしもいじめられると思って……ずっと話せないうちに、小学校を卒業してしまいました。
もう謝ることは出来ない……そう思っていたのに、入学式で転機が訪れました。
そう……クラス分けの掲示板の前で、英雄君を見かけたんです。
久しぶりに会うけど、わたしには彼が英雄君だってすぐにわかりました。それに、クラス分けの名前にも、英雄君の名前がありました。
わたしはその時にいろいろ思いました。
本当に英雄君が同じ学校なんだ。昔よりも英雄君が元気になっていてよかった。もしかしたら謝るチャンスがあって、昔みたいに仲良くできるかもしれない。
――そんな前向きな事を思った後に、わたしの中の悪魔が顔を覗かせたのです。
あの女は誰? どうして英雄君と一緒にいるの? 英雄君はあんなに仲が良かったわたしを捨ててその女を選んだの?
考えれば考える程、わたしの中の黒い何かが膨れ上がっていきました。
「そうよ。さっき英雄君がわたしを拒絶したのも、あの女のせいだ」
なんだ、わかってしまえば原因なんて単純なものですね。
ならやる事は一つです。英雄君に今度こそちゃんと謝って、また仲良くなって……そして、あの女を排除して、英雄君を取り戻す。
待っててね英雄君。今度こそ一緒に楽しい学校生活をしようね――
ここまで読んでいただきありがとうございました。次のお話は今日の二十一位時ぐらいに投稿予定です。
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