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第13話 昔の夢とキスのおねだり

 ――夢を見ていた。


 それは、幼い頃の私がお家のベッドで寝ている光景を、傍観者ぼうかんしゃとして見る夢だった。


 幼い私は、生きてるのか死んでるのかわからないくらい覇気が無くて、今にも消えてしまいそうなくらいだった。


「これ……ヒデくんと会う前の記憶?」


 子供の私の見た目と、無気力にベッドに横になっている姿から推測していると、夢の中の私の広い部屋に、控えめなノックの音が聞こえた。


『お嬢様、失礼します』


 部屋に入ってきたのは、私のお世話係のメイドさんだった。切れ長の目とショートヘアーの黒髪がとても似合っている美人さんで、私の姉のような存在。


『お食事、今日も召し上がらなかったのですね』

『……たべたくない』


 この時の私は身体が弱くて、普通の子みたいに外で走る事も出来ず、ベッドの上で本を読むぐらいしか出来なかった。


 そんな灰色の生活の中で、どうして私は生まれてきたんだろうと思った事は、一度や二度ではない。


「この時の私は、本当に生きる希望がなかったな……」


 ぼんやりとその光景を見ていると、一瞬だけ周りが光って場面が切り替わった。今度は……あれ、またベッドで寝てる私だ。でも部屋が違う。


 ここは……もしかして五歳の時に少しの間滞在していた、山の中の別荘?


 お父様が環境の良い所なら少しは体調が良くなるかもしれないといって、ほとんど行けていなかった幼稚園の夏休みの間に連れてきてくれたところだ。


『ふう……』


 幼い私は、読んでいた絵本を閉じて、山の木々が生い茂る外を眺める。すると、何を思い立ったのか、幼い私は部屋の窓を開けて何処かへと歩き出していった。


 この日の事はよく覚えている。冒険物の絵本を読んでいて、私も冒険したいと思ったんだ。


 それで、どうせ私はこのまま死ぬだけなんだから、死ぬ前に一回くらい外で遊んでみたい……冒険したいと思って外に飛び出したはず。


「この日はいつもより調子が良かったから、こんな事が出来たんだよね……改めて見ると、凄い無茶な事してる」


 幼い私が出ていくのと同時に、私の身体は幼い私についていくように動き始める。どうやらこの夢の中の私が自由に動く権利はないようだ。


『うわぁ……すごい!』


 幼い私は、目を輝かせながら家の周りの森をズンズンと進んでいく。


 その途中、木の上で遊んでいる知らない男の子たちを見かけた幼い私は、何の恐れもなく近寄っていった。


『こ、こんにちは』

『なんだおまえ! みかけないやつだ!』

『なにかってにおれたちのやまにきてるんだ!』

『え……?』


 突然のよそ者である幼い私が気に入らなかったのか、男の子達に一瞬で囲まれてしまった幼い私は、恐怖で泣きながら、ぺたんっとその場で座り込んでしまった。


『だ、だれかたすけて……!』

『こらー! おんなのこをいじめるのはだめだぞー!!』


 怯える幼い私の助けを求める声に応えるように、一人の男の子の声が聞こえてくる。


 当時の私はまだ知らない。この出会いが、私の運命を大きく変えることになる出会いになる事を――



 ****



「んんっ……」


 私はカーテン越しに部屋に入ってくる、お日様の光に反応して目を覚ました。


 随分と懐かしい夢を見た。昔の事なんて全然夢に出てこなかったのに、なんで今更になって見たのだろう?


「……ヒデくん?」

「ぐー……ぐー……」


 私のすぐ隣で、ヒデくんが寝息を立てている。そっか、きっとヒデくんと一緒に寝たから昔の事を思い出して、それで夢に出てきたのかも。


 それにしても……ヒデくん、昨日からずっと一緒にいてくれたんだ……凄く嬉しい。ヒデくんは、自分はヒーローじゃないって言ってたけど、やっぱりヒデくんは私のヒーローで、命の恩人だ。


「……ヒデくんのおかげで、私……頑張れたんだよ」


 あの時ヒデくんに会って、初めてのお友達が出来た。初めて楽しいって事を知った。そして、ヒデくんがまた明日遊ぼうねって言ってくれた日は、初めて明日が待ち遠しいって思えた。


 毎日いろんな発見があって、時間を忘れてしまうくらい楽しい時間を一緒に過ごしてくれたヒデくんの事を大好きになるのに、それほど時間はかからなかった。


 でも……別荘にいられるのは夏休みの間だけ。だから……別れの日はすぐにやってきた。


 もしかしたらもう二度と会えないかもしれない。でもこの大好きって気持ちを伝えたい……そう思った私は、ヒデくんにプロポーズをした。


 今思うと、なんて突拍子もない事をしてしまったんだろうと思う。でも、ヒデくんはそれを快く受け入れてくれて……凄く嬉しかった。


 それからの私は、ヒデくんと結婚するために頑張って病気を克服した。ヒデくんがいなかったら、私はあのままずっとベッドの上で絶望しながら朽ち果てるのを待つだけだった。


 だから……私にとってヒデくんは世界で一番大切な人で、命の恩人なの。


「……もう、わかってるの?」

「んっ……」


 ちょっとイタズラがしたくなった私は、ヒデくんのほっぺをそっとぷにぷにしてみる。寝顔、初めてちゃんと見たけど……すごく可愛い。それに、思ったよりほっぺが柔らかくて気持ちいい。


 そうだ。今なら沢山くっついても怒られないよね。よし、ヒデくんが起きる前にたくさんくっついておこう。


「えへへ」


 私はヒデくんの胸に顔をうずめる。どうしよう、凄く嬉しいし安心するし、顔がニヤニヤしちゃう。


 やっぱり、ヒデくんとずっとずっと一緒にいたい……でも、それは私のワガママ。あんまりワガママを言うと、ヒデくんに嫌われちゃう……って、昨日たくさんワガママを言っちゃった気がするけど。


「もうちょっとだけ……」


 時計を見ると、七時を少しすぎたくらいだった。


 もう少ししたら起きないといけない。なんで今日はお休みじゃないんだろう。お休みだったらずっとこうしていられるのに。


「……離れたくない」

「んっ……」

「え?」


 何気なく呟いた私の一言に反応するように、ヒデくんは私の背中に腕を回して、そっと抱き寄せてくれた。


「ヒデくん……起きてる?」

「…………」


 試しに声をかけてみたけど反応がない。やっぱり寝てる……よね? もしかして、私の声に反応して、無意識にしてくれたって事?


「ヒデくん、なでて」

「…………んうっ」

「あっ……」


 本当に頭を撫でてくれた。きっと無意識に私のお願いを聞いてくれてるんだ。


 やっぱりヒデくんは優しい。いや、優しすぎる。こんな優しいヒデくんにプロポーズをした私の判断は、やっぱり間違ってなかった。


 そうだ、今のヒデくんは私の言った事をなんでもしてくれてるし、いつもなら出来ないお願いをしてみよう。


「……ヒデくん、ちゅーして」

「…………」


 ――してくれなかった。かなしい。


「むぅ……今日の所は、ヒデくんの可愛い寝顔に免じて、なでなでとギューだけで許してあげる」

「ぐー……ぐー……」


 ちゅーしてくれなかったのは残念だけど、昨日から沢山一緒いてくれているから、今日はここまでにしておこう。


 そう思った私は、いつも起きる時間までこの時間を堪能しようと、目を閉じてヒデくんにくっつくのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございました。今日はこのお話含めて三話投稿予定です。次のお話は今日の二十時ぐらいに投稿予定です。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、ぜひ評価、ブクマ、レビュー、感想よろしくお願いします。


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