クリスマス特別編1
私はそろっと、リビングを覗く。
そこには母がテレビを見ながら、おせんべをパリポリと食べていた。
今日は母はオフの日。
因みに父は、クリスマスにライブがあるらしく、その準備やらリハーサルやらで忙しいようだ。
姉も、店をクリスマス仕様にするんだと言って、張り切って店内を改装している。
よって、今家にいるのは、私と母の二人きり。
私は作っておいたロールケーキ(母の好きなフルーツてんこ盛り)を持ってリビングへ。
「母、ロールケーキを作ったので、一緒にどうですか?」
すると母は、嬉しそうにテーブルの上を片付ける。
「いただきまーす」
ホクホク顔でケーキを頬張る母。
「んー、おいひー」
「は、母……」
「んー?」
私も母と共にソファーに座り、ロールケーキを前にしていたのだが、膝の上に置いた手は、緊張して少しばかり震えている。
母は何事かと首を傾けながら私を見た。
「あ、あのですね……クリスマスの事なんですが……」
「んー、確か、呉羽君とデートよねー」
「は、はひ! そ、そうなんですけど……あの、その……」
私は手をイジイジさせ、体をモジモジさせてしまう。
はうっ、暑くもないのに汗がべったり……。
「お、お泊り…します……」
キャー、言っちゃったー!
本当なら秘密にする所なのだが、ここはどうしても聞いておきたい事があったのだ。
私は顔を真っ赤にさせながら母を見る。
母は、頬張ったロールケーキをモゴモゴさせた後、ゴクリと呑み込み、そして一言、
「お赤飯?」
と、首を傾け聞いてくる。
私は更に顔を赤くさせながら、コクリと頷く。
「あ、あの……父や姉には絶対に言わないで下さいね……この前みたいに大騒ぎされるのは嫌なので……」
私がそう言うと、母はまたロールケーキを口に運びながら頷く。
「あ、あの! それで……やらなきゃいけない事とか……知っておかなきゃいけない事とかあったら、教えて欲しいな、と……」
予備知識は必要かなと思い、本屋に行って、ちょっとエッチなコーナーを覗いてみました。
……なんですかアレ。まさに未知の世界でした……。
私はそれらをまともに見る事も出来ず、勿論買う事も断念したのでした。
ならば、人に聞こうと思い立った私。
まず、そういった知識と言ったら真っ先に父が思い浮かぶ訳だけれども、当然の事ながら却下。姉も同様。
姉に話したらまず、お喋りなので、絶対に回りに言いふらすに違いありません。
杏也さんに知られた日には、何を言われるか分かったもんじゃありませんからね。
一番身近な友達乙女ちゃんは、この前呉羽君をノックアウトする勝負下着を見繕うと言って、私に散々試着させた挙句、自らがノックアウト(鼻血ブー)してしまったのだが、その日から彼女は、私を見る度に興奮して鼻血を出すようになってしまった。
なので、彼女に相談というのも無しと言う事になりました。
と言う事で、結局母に相談する事に相成った訳であります。
母はまた、ロールケーキを口に運び、モゴモゴとしながら首を傾け考える。
そしてゴクリと呑み込むと、
「無駄毛の処理……」
「………」
シーンと静まり返る室内。
「……いや、うん。まぁ、それは普通に……というか、そーゆーのじゃなくてぇ……」
「………」
またもやケーキを口に運んでモゴモゴ。
そして考えるとゴクンとして、
「勝負下着?」
「そ、それはもう用意してるから!」
そして母は最後の一口を口に放り込み、モゴモゴ……そしてゴクン。
「避妊?」
「いや、それって、凄く大事だけどね?」
私が真っ赤になって喚く中、母はズズッと紅茶を啜る。
「わ、私が知りたいのは……その、本番ってなった時、私は一体何をすればいいのかって事で……」
あう~、いくら考えても分からないし、思い浮かばないし~……。
そもそも大した知識もないのに、分かる訳が無いのです……。
すると母は、ティーカップから口を離すと、一言言った。
「それはただ、相手を愛せばいいのよ……」
いつもの気の抜けた母とも、仕事モードの母ともちょっと違う、そんな顔で微笑んだ。
「……相手を愛する? ぐ、具体的には!?」
ドキドキとして尋ねると、母は微笑んだまま、軽く首を振る。
「愛しいという想いがあれば、事は自然に進んでゆくわ」
「え、でも……」
「その気持ちが本能を呼び起こし、本能は自然と体を動かしてくれる。それはもう、ずっと昔から人の中にあるものよ。それに、余計な知識で変に意識してしまったら、失敗しちゃうわよ?」
「し、失敗?」
な、何ですと!? 失敗とな!
失敗と言うものがあるんですか!? 知りませんでした……。
「何も心配する事なんてないわ。だってミカは呉羽君の事を大好きで愛しちゃってるんでしょ?」
母の言葉に顔がカァッと熱くなって、私は「う、うん……」と頷いた。
「だったら呉羽君を信じて、全てを委ねなさい。ミカが何かするとしたら……そうね、大好き、愛してるって気持ちを込めて、彼の名前を何度でも呼んであげなさい。そしたらきっと、彼も返してくれるはずよ」
母の言葉を聞いて、ドキドキが止まらなかった。
「あのっ、あのね! 私、クリスマスに呉羽君の事を、呉羽君じゃなくて、呉羽って呼ぼうと思ってたのっ! プ、プレゼントになるかなっ!」
すると母は、優しく微笑んで、私を引き寄せ頭を撫でてくれた。
「ええ、大丈夫。きっと喜んでくれるわよ……」
「うん。ありがとう、お母さん……」
それから私は、べったりと母に甘えてしまった。
何故なら、今日の母は、仕事モードでもオフモードでもない。母親モードの母だったからだ。
「エヘへー、お母さん」
「あらあら、ミカはまだまだ甘えん坊ね……」
だってこんな母は滅多にお目に掛かれない。
私の子供の時からずっと忙しくて、たまに家にいる時は父とべったりで、母親としての母とはこんな風に過ごす事なんて稀だ。
なので、今までの分と、これからはもう二度と無いなぁと言う思いを込めての甘えだった。
でもまぁその後、母に膝枕してもらっている私を、帰ってきた父と姉に見られ、
「あー、そこはオレの特等席ー! ずるいぞミカたん!」
「やーん、ミカちゃん! お姉ちゃんもミカちゃんに膝枕したいぃー!」
などと騒がれ、いつもの母と私に戻ってしまったのだが、それはおまけの話である。
~おまけ・オレの幸せ家族(ハーレム)計画~
「ただいまー、オレ! お帰りオレ!」
「ただいまー」
「おう! お帰り、マリっぺ!」
「もう、パパったら、一緒に帰ってきたのに」
マリっぺが苦笑してオレに言った。
我が愛しのMyドーター、マリっぺとは、入口の所で鉢合わせた。
そこで、
「あれ? パパも今帰り?」
「おー、マリっぺもか!」
てな感じで、一緒に玄関に入ったのだ。
って事は、今日はコトちゃんとミカたんも居るから、オレってばハーレムじゃん!
ヤッタネ!
そんで、めくるめく、幸せ家族(ハーレム)全開なのだ。
『パーパ、大すきー』
『あーん、パパー、私もー』
『大和さん、膝枕してあげる』
『ははっ! ミカたん、マリっぺ、コトちゃん。そんなにいっぺんに来られても、皆大好きだから選べないぜ! オレ様、体は一つだからな!』
そんなめくるめくって、オレの幸せ家族(ハーレム)計画!
いやー、いーなー……。
「もー、パパ? 何デレッとした顔してるの? もしかして、またエッチな事考えてるの!?」
「ハハハ! オレは一人しか居ないのだ!」
「何言ってるの、パパ……当たり前でしょ?」
マリっぺが呆れ顔で、リビングのドアを開けた。
そこで見た光景。
オレは「あー!」と声をあげた。
ミカたんが、コトちゃんの膝の上に頭を乗せている!
しかも、ミカたんがコトちゃんに甘えまくっている!
「そこはオレの特等席ー! ずるいぞミカたん!」
ああ、オレのめくるめく幸せ家族(ハーレム)計画が……。
オレの隣では、マリっぺが、
「お姉ちゃんもミカちゃんを膝枕したいぃー!」
オレはそれならばとある提案をする。
「ここはそう、まずオレがコトちゃんに膝枕をしてもらって、寝転がったオレの膝の上にマリっぺが座り、ミカたんはそのマリっぺに膝枕をしてもらうというのは!?」
そのオレの提案は、あっさりと却下され、ミカたんはいつもの様にオレに冷たい視線を送ってくる。
おおぅ……何ともゾクゾクするその視線……パパ、癖になりそうだぞ。
それにしても、またもやオレの幸せ家族(ハーレム)計画は叶う事はなかったな……。
いつかはこの計画、絶対に遂行させてみせるぜ!
ミカの心の準備1といった所です。
大和の事は……何も言うまい……。




