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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十章 コウタ、また増えた新たな仲間とともに僻地で訓練に励む』

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第四話 コウタ、日課を終えて森の北側の探索に出発する


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから間もなく八ヶ月。


 コウタはいま、自ら森を伐り拓いて耕した畑にいた。

 朝の日課、農作業である。


「ん? ああ、帰ってきたら収穫するよ。うん、ありがとう」


「カァー」


 コウタの独り言にカークが呆れたように鳴く。

 いや、コウタは独り言を言っていたわけではない。


 コウタの腰に巻き付いた植物がうねうね動いている。

 返事に納得したのか、植物はしゅるしゅると腰紐に戻った。

 この畑から生まれたイビルプラントのここ最近の定位置である。


 コウタはイビルプラントに魔力を与え——吸い取られ?——かわりに、イビルプラントは植物の生育状況や世話の仕方を教える。

 あとモンスターの存在を教えることもある。


 コウタ、カークに続いて変わった相棒? ペット? との共生である。

 人や動物、モンスター、コウタは変わり種から好かれるタチなのか。

 カークが呆れたように鳴くのも当然だろう。


「よし、今日はこの辺にして戻ろうか」


「カア」


 コウタは朝の畑仕事をそこそこで切り上げた。

 さっと荷物をまとめて、湖から引かれた水路沿いを歩くことおよそ5分。


 最初に見えてきたのは、別経路の水路の横にある木陰のシャワースペースだ。

 はじめは一つだったシャワースペースは、いまでは二つになっている。

 心が男のアビーや、小さな里育ちのディダも「気にしない」と言ったのだが、コウタが気にしたのだ。

 結果、時間で分けるのではなく男女別のシャワースペースとなった。

 まあタイル状の床は共通で、周囲と間に目隠しのための板を立て、頭上の桶から水を流せるようにしただけのものなのだが。

 お湯を希望する場合はアビーかクルトかカークに頼めば魔法で温めてくれる。

 なお、現在はアビーがクルトに魔法を教わって、湯船を備えた「お風呂」を検討中である。


「あ、ディダも作業を終わりにしたところかな?」


「んだ! 今日は出発だべな!」


 小さな湖のほとりには、巨人族(ギガント)の少女・ディダがいた。

 コウタに遅れること少々、ディダも本日の作業を終わりにしたようだ。


 この小さな拠点でディダがやっている仕事は多い。

 スキル【木工】で木材を加工する。

 巨人族(ギガント)の大きな手で、人間用の小さな道具を器用に扱って日用品を作っている。

 コウタたちが使っている木皿も木のカップもディダの作だ。

 ディダ自身の木盾に棍棒、家づくりに必要な柱や板、簡単な家具などもディダが作ったものだ。

 鉄製品や魔法が必要なもの以外はすべてディダの手が入っていると言っていいかもしれない。


 ディダの仕事は【木工】だけではない。

 本人が一番望んでいた漁は、数日に一度のペースで欠かさず行なっている。

 獲りすぎると魚がいなくなるかもしれないとコウタとアビーが止めなければ、毎日でも漁をしていたことだろう。

 投網漁で、けっこうな重労働なのに、嬉々として。


 木工、漁。

 くわえてディダは、コウタとアビーのアドバイス——またはそそのかし——で、二つの大仕事をはじめていた。

 いま、湖畔には枝を落として先を尖らせた杭が並んでいる。

 さらに、かたわらには未加工の丸太が積まれていた。


 まずディダが作ろうとしているのは桟橋だ。

 もちろんそこがゴールではない。

 桟橋、さらに杭を打ち込んで魚の養殖場。

 そして、大木をくり抜いたカヌー。


 水辺で投網をするもよし、カヌーで沖に出て漁をするもよし、養殖場で手軽に捕まえるもよし。

 ディダは、もっと漁を楽しもうと夢見ていた。

 里では「一番小さいから」と漁を任されなかった反動だろうか。あるいは、好きに生きるコウタやアビーやベルやクルトやエヴァンに流されたか。

 ともあれ、ディダ本人は忙しくも幸せそうであった。


「おかえりコータ、ディダ。探索の準備はバッチリだぞ!」


「え? アビー、荷物多くない? これ全部持っていくの?」


「平気ですよコウタさん! 今回は荷運び人(ポーター)の僕も同行しますから!」


「あ、うん、よろしくベル」


「なあ信じられっかコウタさん? ベルはこれ背負ったまま走れんだぞ? さっき見してもらって腰抜かしそうになったぜ」


「『スキル』とは誠に不思議なものよ。ふむ。もしや理想の女性を創造するのにスキルが必要な可能性も……」


 精霊樹と、小さな湖のほとりにある広場。

 そこには、逸脱賢者のアビーに荷運び人(ポーター)のベル、先代剣聖のエヴァンに、古代魔法文明の生き残り魔導士・クルトが集まっていた。


 クルト以外は、絶黒の森の中央にあるこの拠点で暮らす人々だ。


 湖の一番近くにあるテントはディダの住まいだ。

 テントといっても、木材で柱を立てて補強しているもので、野営用の簡素なものではない。

 コウタやアビーから住居の建設を持ちかけられるも、ディダは断っていた。

 ひとまず、季節がひと巡りするまではこの暮らしを続けるつもりらしい。

 雨季や冬、湖の状況を確認してから、家の場所を決めたいようだ。


 広場と湖の間には、5メートルを超える大岩が鎮座している。

 天然モノ、ではない。

 荷運び人(ポーター)のベルの「運搬用の入れ物」にして住まいである。

 スキル【運搬】を持つベルは100トンを超える大岩を軽々(かるがる)運び、なんなら走れる。

 最近やってきたエヴァンは、初めて走る姿を見たのだろう。


 逸脱賢者のアビーは自身が中心になって建てた家に、先代剣聖のエヴァンはその横にある倉庫予定の建物に暮らしている。

 次に建てるのはエヴァンの家の予定で、いまは仮住まいである。

 本人はいまの暮らしでも楽しそうなのだが。

 鑑定で見つけられた【アルコール中毒】を治すためにも、酒の保管場所である倉庫予定地から一刻も早く引っ越すべきだろう。

 いまのところ、わずかに存在する共有の酒に手を出したことはない。幸いなことに。


「みんながよければ、そろそろ出ようか」


「カアッ!」


 コウタがぐるりと広場を見渡すと、精霊樹がさわりと揺れた。


 コウタとカークの住まいはちょっとずつ変化している。

 この世界にやってきた時は、根元のウロに入り込んでそのまま住まいとしていた。

 アビーが来てからは人生初のDIYでいまにも崩れそうな犬小屋っぽい何かを建てた。

 スキル【木工】を持つディダが暮らすようになると、コウタとカークの小屋は大きくて立派な犬小屋に建て直された。

 場所は精霊樹の根元のまま。

 寝床はいまでもウロの中だ。コウタとカークは、狭い空間の方が落ち着くタチらしい。


「うっし! いやあ、コータが自分からモンスター退治に出かけるようになるとはね! 人間、変われば変わるもんだぜ!」


「そこはほら、『健康で穏やかな暮らし』には『安全』が大事だからね」


「僕は準備おっけーです! 荷物の【運搬】も倒したモンスターの【解体】も任せてください!」


「うん、頼りにしてるよベル」


「おら、みんなを守るだ。おらの実力じゃ足りなくても、せいいっぱい」


「ありがとう、ディダ。気負わなくていいよ、やれることをやっていこう」


「くくっ、手に入れた義手で初めての実戦が、絶黒の森の探索とはねェ。腕が鳴るぜ、カチャカチャってな!」


「え? 大丈夫、エヴァン? クルトに調整してもらう?」


「コウタ殿、あれはエヴァン殿なりの冗談であろう」


「あ、そうなんだ。……よろしくね、クルト」


「うむ。現在、コウタ殿たちと精霊樹は我が研究の要である。死力を尽くして、何者からも守ってみせよう」


 コウタが出立の前に言葉をかわす。

 初めてコウタとカークがこの地で目覚めた時は、一人と一羽だった。

 まだ集落と呼ぶにも微妙な規模だが、人は集まり、生活も安定してきた。


 この暮らしを発展させて、安全を高めるために。


「よし。じゃあ、出発だ!」


 コウタは、モンスターはびこる絶黒の森の北側に向かう。

 五人と一羽で、戦う覚悟を決めて。


 ちなみに。

 先代剣聖のエヴァンは竜殺し(ドラゴンスレイヤー)で、逸脱賢者のアビーはダンジョン踏破者で、拠点の防衛を担当するクルトは失伝した魔法を使いこなす古代魔法文明の魔導士だ。

 攻守ともに戦力過剰である。

 みんなを守るというディダの決意はムダかもしれない。

 まあ、悲壮な決意がムダになるのはいいことだろう。たぶん。




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