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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第九章 コウタ、流浪する先代剣聖と出会って戦い方を教わる』

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第七話 コウタ、先代剣聖を拠点に連れて帰る


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。

 コウタは、絶黒の森北側の探索を一時中止して、拠点に戻ってきた。


「巨大な樹に、湖。はあ、美しい景色の穏やかな集落だねえ。……場所を考えなければな!」


「エヴァンさん?」


「絶黒の森に人が暮らすなんてよォ! 俺ァ夢でも見てんのかねぇ!」


「ははっ、それを言うなら『酔ったのか』じゃねーか?」


「わかるだ、ここはいいとこだべ」


「ありがとう。ディダや、みんなのおかげだよ」


「カァー」


 うんうん頷くディダ、照れ笑いを浮かべるコウタ、呑気な二人に呆れた様子のカーク。

 アビーの言葉をもっともだとでも思ったのか、エヴァンは水筒を出してバシャバシャと水を頭からかぶる。

 酔いを覚まそうとしたらしい。

 が、じゃっかん覚醒した頭でも目の前の景色は変わらない。


 ちなみに、ゲストのエヴァン——剣聖——のほかに、ここにいるのは森の北側を探索したコウタとカーク、アビー、ディダだけだ。

 ベルは街まで買い出しに行って帰路の途中、クルトはダンジョンで研究でもしているのだろう。


「それで、エヴァン。先代剣聖で元剣術指南役? だった人が、なんで一人で旅してるか聞いてもいい?」


「ん? だいたい説明しなかったか? 俺ァすっかり衰えたかんな、お役御免になってフラフラ旅してんのよ」


「ひと振りであれだけ倒したのに、ですか?」


「はっ、これでも先代剣聖だぜ? 全盛期の頃にゃあんなもんじゃねえって!」


「そりゃ竜殺し(ドラゴンスレイヤー)だもんな」


「はあ、あれよりもっとすごかったんですねえ」


「おう! いまじゃ勇者サマの防御を抜けなかったぐれえだかんな」


「勇者? アビーと、ベルが言ってたのと同じ人?」


「おいおい何してんだおっさん。防御抜けたら死にかねないだろ」


「いやあ、あのハーレム野郎がしつこくってな、ついつい!」


「わかる、わかるぞおっさん!」


「ええ……? ついついで、モンスターを倒しまくった奥義を……?」


「ははっ、大丈夫だって(あん)ちゃん。斬れそうなもんは斬れるし、斬れなそうなもんは斬れねえ。殺す気で行っても斬れそうになかったからよ、平気だろってな」


「は、はあ……剣の極意、みたいなヤツなのかな」


「極意ってほどじゃねえよ。たぶん、な。まあ剣の道を進んだら違う答えにたどり着くのかもしれねえけど……俺ァわかんねえだろうな」


「おい、衰えたから旅に出たっておっさんまさか」


「実戦で、モンスターを斬って斬って斬りまくる。果てに倒れたら俺の剣の道はそこまでだったってな」


「そんな、まるで死にたいみたいな」


「安全な場所で、道を後ずさりながらただ生きるなんて耐えられねえ。剣聖は弟子に継がせたし俺ァ独り身だかんな、こうしてフラフラ放浪してたわけだ」


「なんとなく、わかる、けど。でも行動に移せるエヴァンは強いなあ」


「カァッ!」


「そうだぞコータ! 理解してしかも褒めてどうする!」


 その生活が無為だったわけではない。

 コウタの心と体を癒やすには必要な日々だった。

 けれど、ただ生きる時間を経験したコウタは、多少なりエヴァンの気持ちを理解したようだ。

 まあ、先代剣聖エヴァンは「後進を育てる」ことに生きがいを見つけても良さそうなものだが。


 しばし無言の時が流れて。

 コウタが口を開いた。


「それで、これからどうするつもりなの? 剣の道? を進むならその、腕を治す薬を探したり」


「ずいぶん優しい(あん)ちゃんだなあ。けど、失った肉体を取り戻すのは不可能だってよ」


「でもこの世界には魔法があって、魔力も、不思議な素材だって」


「無理だ、コータ。断面がキレイならすぐ治癒すりゃ繋がることもあるけどな。失ったら生やせねえ」


「そんな……」


「ってことでその辺は諦めてんだわ。体の方にもいろいろガタがきてるしな!」


 カラッと笑って、エヴァンがまた酒を飲む。

 さっき頭から水をかぶって酔いを覚ましたのに。

 表情だけ見れば、エヴァンよりコウタの方が沈痛な顔をしていた。


 うつむいたコウタが、やがて顔を上げる。


「アビー。クルトを呼んでほしいんだ。それに、アビーにも相談に乗ってほしい」


「ん? そりゃまあいいけどよ、って呼ぶまでもねえな。ほら、コータ」


「カアッ!」


 アビーがすっと指を差し、カークがバタバタと飛び立った。

 コウタが伐り拓いた道の先。


 5メートルを超える大岩が、ひょこひょこ近づいてきていた。


「な、なんだありゃ……巨人族(ギガント)が岩背負ってんのか!?」


「おらじゃ持ち上げるくれえしかできねえだ」


「ははっ、こういう反応も懐かしいな」


「ベル? 無事に帰ってきてくれたのはうれしいけど、アビー、いまはベルじゃなくて」


「ほら、よく見ろコータ」


 ついつい目を引く大岩のふもとを見る。

 アビーの指摘通り、そこには二人の人影が見えた。


「あ、ほんとだ、クルトもいた。よくわかったねアビー」


「そりゃな、クルトの魔力量ならこの距離でも気付くって」


「なあおっきい嬢ちゃん、ずいぶん禍々しい気配のヤツが近づいてくるんだが? 逃げた方がいいんじゃねえかこれ?」


「心配いらないよエヴァン。クルトはその、ちょっと変わってるけど悪い人じゃないから」


「マジか? マジで言ってんのか? 斬れる気がしねえんだが? 全盛期の俺でも斬れるかわかんねえんだが?」


 なにやら談笑しながら近づいてくるベルとクルトを、エヴァンはたらりと冷や汗を流して見つめていた。

 無事な右手は剣の柄にかけられている。

 が、抜く気配はない。

 コウタの「悪い人じゃない」を信じたのか、あるいは斬れないと悟ったからか、その両方か。


「カァー、カアッ!」


「ただいま、カーク! あ、みなさんお揃いですね! ただいま戻りました!」


「ちょうどそこで出会ったのでな。む、新たな客人か?」


 ニコニコとベルが帰還の挨拶をして、クルトは興味深げにエヴァンに視線を走らせる。


「なんだこれ。絶黒の森が魔境だってのは、場所じゃなくて人のせいだったのか……?」


 クルトと相対したエヴァンは、ぽつりと呟いて。


「いやあ、俺たちが暮らしはじめたのはここ半年ぐらいのことだから。たぶん、森の瘴気のせいだと思うよ」


 呑気なコウタの言葉に、また酒を(あお)った。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから七ヶ月。

 先代剣聖という強者であっても、ベルの【運搬】とアンデッドのクルトの存在は驚くべきことらしい。

 もはやお約束である。




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― 新着の感想 ―
[一言] 良かったねアビー、ツッコミ枠が一人増えたよ!w
[良い点] あれだけ破天荒な元剣聖も常識人側でツッコミ枠かw
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