表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十三章 コウタ、ついに最寄りの街に行こうと決意する』

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

131/143

第三話 コウタ、この世界の「人里」にはじめてたどり着く


「着いた……これが、この世界の街……」


 コウタがクレイドル村を出てから7日目。

 道を知るカークとベルに先導されて、コウタはついにこの世界に来てから初めての街、その門前にたどり着いた。


 死の谷(デスバレー)を超えて岩の多い荒地を歩き、無理せず野営して。

 徐々に緑が増えていった先に、石壁に囲まれたその街があった。


 この世界に来てから初めての街。

 いや、コウタにとっては、元の世界を含めても人の多い街に来るのは数年ぶりのことだ。


「大丈夫。大丈夫だ、俺は【健康】だから。ここは日本とは違うから」


 コウタは足を止めてブツブツと自らに言い聞かせる。

 そうして5分……10分……30分ほど経ったのち、コウタはようやく歩き出した。


 決して短くない時間、コウタの過去を知るカーク、話を聞いていたアビーは、無言でコウタの決心がつくのを待っていた。

 何かを察したのか、知り合ったばかりのエルダードワーフ・ガランドもまた無言だった。


 なお、荷運び人(ポーター)のベルは先行して門の横にいる。

 なにしろ荷物が多く、チェックに時間がかかるので。




「ベルのお仲間さんか?」


「あっはい」


「話は聞いてるよ。通行料は一人銀貨1枚だ」


「えーっと」


 門番から話しかけられて、コウタはごそごそポケットを漁る。

 通行料についてはベルから聞いていて、これから通るべく門に近づいたのにもたもたしている。


「落ち着けってコータ。上着の右ポケットに入れてたぞ」


「あっそうだった! ありがと、アビー」


「たしかに受け取った。街で注意する点はベルから聞くように」


「ういーっす」


「アビー、そんな適当な」


「任せてください! 荷運び人(ポーター)は、ほかの人が知らない街の案内もするものです!」


「そっか、ありがとね、よろしく、ベル」


「いやそんなことなくねえか? まあ荷運び人(ポーター)が知ってる街だったらありうる、か?」


「カァー」


 胸を張って宣言するベルにアビーが首をかしげる。

 コウタはわかっているのかいないのか、緊張で言葉少なくなっている。


 ともかく、門番のチェックを終え、入場料を払って、コウタたちは石の壁を抜けた。


 背後の門番から声がかかる。


「ようこそ、最果ての街・パーストへ! 歓迎するぞ、旅人さん!」



  □ □ ■ ■ □ ■ ■ □ □



「なんかこう、赤茶けた感じだね。こっちではこれが普通なのかな」


「んなこたぁねえぞコータ! 帝国はヨーロッパ!って感じだったな。これは、なんていうか、その……」


 コウタとカーク、アビーがはじめてやってきた街、パーストの建物は土と石を中心に作られていた。

 荒野から土や石を活用したのだろうか、壁や屋根はたいてい暗めの赤か茶色だ。

 緑は街の周辺にあった程度と考えると木材は貴重なのだろう。


「西部開拓時代っぽい?」


「そう、そんな感じ! あとオーストラリアの都会以外とかな!」


「オーストラリアってそんな感じなの?」


「オレもよく知らねえけど。発展してるのは東の方ってのも似てるかもなあ」


「カアーッ!」


 知らないんかーい、とばかりにカークがつっこむ。が、アビーもコウタも気にした様子はない。カラスの言葉はわからないので。

 先頭を行くベルも、最後尾をどしどしついて歩くガランドもつっこまない。

 コウタとアビーがよくわからない会話をするのはいつものことだ。


 なおベルは街中でも大岩を背負って歩いている。

 建物より高く大きな岩が動いていても、街ゆく人はパニックになる様子はなかった。

 ベルはすでに何度かパーストを訪れている。

 街の人にとって見慣れた光景になっているらしい。


 そうして、四人と一羽が歩くことしばし。


「着きましたよ、コウタさん!」


 ベルが一軒の建物の前で足を止める。


 ほかより間口が広く取られた建物は、平屋が多いパーストの街にあってめずらしい三階建てだ。

 貴重な木材を柱に使っていて、そこだけアビーのいう「ヨーロッパっぽい」建物になっている。

 大通りに面していながら建物の横が空いているのは、馬車の待機場所兼荷下ろしスペースであるらしい。

 ベルは、建物の横、その荷下ろしスペースにためらいなく歩いていく。


「お待ちしていました、ベルさん!」


 と、建物から一人の男が走り出てきてベルを迎えた。

 見知らぬ人の登場に、コウタがピタッと足を止める。


「おひさしぶりです、会頭さん。今回もよろしくお願いします!」


「かいとう……? 解凍? 怪盗?」


「カァー」


「会頭、だ。商会のトップってことだな」


「じゃ、じゃあ、社長とか店長とかってこと……?」


「カアッ! カァ、カアー」


 立場のある人物を前に、コウタの腰が引ける。

 肩に止まったカークが、ほら、おびえるな、とってくわれるわけじゃねえんだから、とコウタの頭を突つく。


「ベルさん、そちらの方々を紹介していただいてもよろしいですか?」


「あっはい、もちろん! コウタさんとアビーさんです!」


 ニコニコとベルが紹介する。

 紹介された以上、コウタに逃げ場はない。


()()()()()()のアビー、男だ! よろしくな!」


 時間を稼ぐつもりなのか、さっとアビーが前に出て自己紹介する。

 じっと男の目を見ながら「ただの」と強調して、「男」だと性別を偽って。

 ちなみにアビーは、いちおうサラシを巻いて男性服を着ている。遠目で見れば男性に見えるかもしれない。


「そんでこっちが、オレやベルが暮らす村の村長の——」


 アビーの手が背中に添えられて、コウタが意を決する。


「コウタです。よろしくお願いします」


 ぺこっと頭を下げた。

 先まわって肩書きを伝えたのはアビーのさりげない優しさだろう。


「ご丁寧にありがとうございます。私はこのパークス商会の会頭、ハドリー・パークスです」


「その、いいんですか? お店のトップの人に相手してもらって……」


「いえいえ! ベルさんからお話は聞いております。こちらから挨拶に行きたいと思っていたぐらいなのですよ。わざわざお越しいただきましてありがとうございます!」


 もっと気楽な人と話したいな、と漏れ出たコウタの言葉を、ハドリーはあっさり退ける。


「当商会が大きくなったのも、ベルさんがお持ちいただいた魔石に武具、モンスター素材のおかげなのですよ!」


 人好きのする笑みを浮かべて、ハドリーは歓迎の意を全身で表現する。

 事実、ここ最近のパークス商会の躍進はベルの、ひいてはコウタたちの持ち込んだ素材のおかげだ。

 鏖殺熊ジェノサイド・グリズリーの爪を活かして作った剣は領主に献上するほどの出来で、スケルトンから剥ぎ取ったボロ武具は補修されて、新人・中堅冒険者に手頃な価格で販売されている。


 けれど、大岩からベルが次々に取り出していく取引予定の品々を見て。


「ただ……今回は、ほとんど買い取れないのです」


「えっ…………?」


 ハドリーは、暗い顔でコウタにそう告げた。



 コウタがこの世界にやってきてから十二ヶ月目。

 はじめて街にやってきたコウタは、いきなり「取引停止」という問題に直面するようだ。

 人里離れた場所で暮らすコウタにとって、現在唯一の取引先なのに。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ