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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十二章 コウタ、鍛冶に励むドワーフと出会って村に誘う』

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第十話 コウタ、ドワーフの二人が精霊樹に受け入れられるのを見届ける


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから十ヶ月と少し。

 コウタたちは連れてきたドワーフとともに、精霊樹と小さな湖のほとりにある広場にいた。

 クレイドル村の集会所である。野外だが。


 エルダードワーフの二人とコウタたちは、切り株のイスに座って広場の中心を見ていた。

 ありふれた鉄の剣を構える先代剣聖・エヴァンと、クルトが喚び出したアンデッドを。


「見せ物じゃねえけどよ、愛剣を打ってもらえるかもしれねえってなったらそりゃ張り切るわなァ」


 ブツブツ言いながら、エヴァンが大上段に剣を構える。

 体にバチバチと魔力がほとばしる。


「よーく見とけよ! 全盛期より魔力が上がって! ()()()左手を得た俺の剣を!」


 細い目が見開かれる。

 臨界に達した魔力は左手の義手に伝わり、剣をおおう。


「くたばれアンデッド!」


 おっさん——エヴァンの——咆哮とともに、剣が振り下ろされた。


 鎧を着たスケルトンナイトはまだ剣の間合いに入っていない。

 だが、エヴァンに向けた盾ごと、ずばっと左右に断ち切られた。


「お、おお……この時代に魔法剣が存在していたとは……」


「うむ、その通りだグリンド氏。先代剣聖は魔法剣の使い手よ」


「はっ、感心するのはまだ(はえ)えぞ!」


 振り切った剣を片手で持ち、エヴァンが義手の左手首を折り曲げる。

 がちゃっと音を立てて、空洞をスケルトンナイトに向ける。


「オラァ!」


 おっさんらしからぬ声を出すと、義手から魔力が放たれた。

 崩れ落ちるスケルトンナイトにぶつかり砕き、破片が左右に飛び散った。


「い、いまのは……?」


「おっ、長年生きてるエルダードワーフを驚かせられたか! やったなクルト!」


「コウタ殿とアビー殿の発想のおかげである。ふむ、威力は申し分なさそうであるな」


「な、なんだありゃ。儂らが知らない技術、だと……?」


「オレとクルト、コータの自信作。魔力を変換して魔法の弾丸を放つ、『魔砲』だ!」


「魔法剣と同じ原理?らしくて、使えるのは魔法剣ができるエヴァンだけだけどね」


「だが、剣士が遠距離を攻撃する手段を得たのか……」


「くっくっくっ。長生きはするもんだなあ、クルト氏」


「うむ。コウタ殿たちと出会って以来、驚きと発見の連続である」


 先代剣聖の模擬戦闘を見て、エルダードワーフの二人は目を丸くしている。

 まあ、精霊樹を目にした時から、二人は目を丸くしっぱなしだ。

 長き時を生きるエルダードワーフであっても、精霊樹を見るのは初めてなのだという。

 驚いてる間にさっそく先代剣聖の腕を、と模擬戦がはじまったのだった。


「エヴァン氏。その腕にふさわしい剣が欲しくないか?」


「欲しいに決まってんだろ! 俺ァよ、一時は腐ってたんだ。けどこうしてまた剣を振れて……欲が出ちまった。いまの俺にぴったりの、剣が欲しいってよ」


「よし」


「師匠?」


 エルダードワーフの一人、グリンドが歩き出す。

 行き先は精霊樹だ。


「コウタ氏。『想いを込めて願えば応えてくれる』のだったな」


「え? はあ、たぶんですけど……」


 充分だ、と呟いて、グリンドは精霊樹の前に立つ。

 両ヒザをついて樹を見上げる。


「神が見守りし精霊樹よ。土精霊の卵であるエルダードワーフのグリンドが誓う。この地の使い手に、儂の生涯最高にして最期のひと振りを打つ」


 じっと樹を見つめる。

 がっしりした両腕を宙に差し出す。


「願わくば、御身の一部を賜らん」


 ざわざわと、風もないのに精霊樹の枝葉が揺れる。

 まるで樹が思案しているかのように。

 グリンドは動かない。

 コウタたちも、とつぜんはじまった儀式っぽい何かを静かに見守っていた。


 やがて、バキッと大きな音が鳴る。


 グリンドの手に、大振りの枝が落ちてきた。

 巨大な精霊樹の枝は、絶黒の森に生える一般的な木の幹ほどの太さがある。

 枝の先には精霊樹の果実(アンブロシア)がひとつなっていた。


「これほどの……感謝します。必ず、死力を尽くして仕上げてみせましょう」


 グリンドがうやうやしく頭を下げる。

 立ち上がろうと片ヒザを立てたところで、隣にズザザッとガランドが滑り込んだ。

 エルダードワーフの弟子は、先ほどの師匠と同じように地に両ヒザをつく。


「ならば儂は! 弟子として、師匠の最期のひと振りに相槌を打つことを誓いましょう!」


 叫ぶと、今度は精霊樹の果実(アンブロシア)がひとつ、ガランドの手に落ちてきた。

 師弟が顔を見合わせて口の端をあげる。控えめな笑顔である。


「えっと……?」


「急にすまぬ、コウタ氏。そしてエヴァン氏。どうか、儂に剣を打たせてほしい。儂はいまいるエルダードワーフの中では最古参。鍛冶の腕は一番だと自負している」


「打ってもらえるかもって期待して模擬戦闘を見せたんだ。そりゃ打ってくれんなら願ってもねえ。ただその」


「ビビんなおっさん、らしくねえぞ! なあ、グリンドさん。聞き間違いじゃなければ『最期の』って聞こえたんだけどよ、あれはどういうことだ?」


「儂らエルダードワーフに定命はない。満足いくものを創った時が、真に精霊となる時だ」


「……アビー、わかる?」


「オレもわかんねえ。たぶん、エルダードワーフは寿命がないけど死はあって、そんで想い残すことがなくなったら、エルダードワーフじゃなくて自我のない精霊になる、ってことか?」


「我はそう理解している。だが、エルダードワーフでもドワーフでもない我らが、真に理解することは不可能であろうな」


「はあ……グリンドさんもガランドさんも、いいんですか? エヴァンは? 重い剣になりそうだけど……」


「これほどの使い手、これほどの素材に恵まれた。儂は本望だ」


「師匠が望んだこと。弟子として、師匠の望みを叶えるべく邁進するだけだ」


「俺ァ剣を振るしか能がねえ。どんな剣でも振るだけよ。剣に、打った鍛冶師に、恥じることがないようにな」


 本人たちから説明されてもコウタの顔は晴れない。

 アビーも、頭では理解できても感情が追いついていない。

 だが。


 遺作を打つと決めたグリンド、師匠を見送ることになるガランド、重い剣を受け取ることになるエヴァン。

 当事者たちは晴々とした表情だ。

 荷運び人(ポーター)のベル、巨人族(ギガント)のディダ、アンデッドのクルトは微笑んでいる。

 使命が見つかって取り組める、おめでたいことだ、と言わんばかりに。


「カアッ、カアー!」


 コウタとアビーの間を、カークが飛びまわった。

 ほらほら、しけた顔してねえで祝福しようぜ!とばかりに。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから十ヶ月と少し。

 コウタがこの世界で生まれ育った人々の価値観に馴染むのは、まだまだかかるのかもしれない。

 なにしろアビーは転生して18年経つのに、エルダードワーフの決意を納得できていないので。




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― 新着の感想 ―
[一言] 生命の価値は長さではなく質ってことか……。 とは言え、長生きを目指す地球人には飲み込みづらいのもある。 結局満足できることが一番なんだろうけども。
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