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【健康】チートでダメージ無効の俺、辺境を開拓しながらのんびりスローライフする  作者: 坂東太郎
『第十二章 コウタ、鍛冶に励むドワーフと出会って村に誘う』

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第四話 コウタ、出会ったドワーフに愛用してきた鹿ツノ剣を見せる


 コウタとカークがこの世界で目覚めてから十ヶ月と少し。

 コウタたち一行は、絶黒の森の北にできたダンジョンにいた。


 探索のために、ではない。

 コウタたちと交流のある三体のモンスター——ドリアードとアラクネと鹿——とカークに案内されて、である。

 一羽と三体はなにかを発見したらしい。


 その()()()は、いま、コウタの目の前にいる。


 狭い通路の奥、壁が崩落してあいた穴の向こう。

 そこに一人の男がいた。

 背は低いがガッシリした体つきで、口まわりから頬、顎にかけてヒゲでおおわれている。


「はじめまして。俺はコウタって言います」


「お、おう」


 ドワーフである。

 とつぜんの遭遇にもかかわらず平然と挨拶してきたコウタに驚いている。


「カァー」


「まあいいんじゃねえか? オレもベルもディダも、コータのこういうとこに助けられてんだからよ」


「コウタ殿の胆力なのか、あるいは【健康】ゆえの油断なのか……だが、我はそれで救われたのだ」


「僕もです! だからコウタさんはそのままでいいと思います!」


「カァー……」


 コウタの背後で控えていたアビーとベル、クルトに驚きはない。

 長く過ごしてきた三人にとって、コウタがこうなのはいつものことである。

 肩を落とすのはカークのみだ。肩はないが。カラスなので。


「なっ、その漆黒の鳥は!?」


「あれ? カークのこと知ってるんですか?」


「あ、ああ。見かけた時は死を覚悟した」


「え? カークは賢いし大人しいですよ?」


「そ、そうか。ならいいんだが。もう一体モンスターがいてな」


「えーっと、誰だろ」


 コウタの言葉に応えるかのように、天井に張り付いていたアラクネがススッと顔を出す。

 コウタとドワーフの間、あいた穴から逆さで。


「ぐっ! そ、そう、こいつだ」


 ドワーフが思わずあとずさる。

 無表情な逆さの女性というのもさることながら、モンスターの膨大な魔力を感じて。


「そっか、だから俺たちを呼びに来てくれたんだね。ありがとう」


 一方でコウタはのんきなものだ。

 持った剣ごとサッと挙げて挨拶すると、アラクネはまたススッと引っ込んでいった。

 黒い剣の禍々しさに恐れをなして、ではなく、顔を見せたら用は済んだと思ったのだろう。


「モンスターですけど、襲われない限り人間を襲わないようにって言い聞かせてます。だから大丈夫ですよ」


「そ、そうか、それで儂らは無事だったのか」


「でもどうしたらいいかわからなくて俺たちを呼びに来たみたいです」


「ずいぶん賢いんだな……ならば安心か。安心か?」


 戦槌をおろして頭を抱えるドワーフ。

 小さく首を振り、気を取り直してコウタに向き直る。

 と、その目が見開かれた。


 アラクネへの挨拶のためコウタが掲げた、黒い剣を見つめて。


「おっ、おい! お前さん、その剣は!?」


「これですか? 鹿がくれて、クルトが形を整えて、ディダが柄を作ってくれたんです」


「そうか。そうかではなくだな! その剣を持って正気を保てるのか!?」


「ああ、そういえばそういう剣なんだっけ。大丈夫ですよ、俺は【健康】ですから」


「お、おう。そうか……」


 そうかと言いながらも納得できないのか、ドワーフは首をかしげている。

 そのまま、熱に浮かされたようにふらふらとコウタに近づく。

 コウタはぼーっと見守っている。

 ドワーフが手を伸ばして、あとわずかでコウタに届きそうなところで。


「カアッ!」


「待て待ておっさん。敵意はなさそうだし近づくのはいいとしてよ、その剣に(じか)に触れたら危ねえだろ」


「おおっ! 儂としたことが、すまない」


 カークとアビーが声をかけた。

 大人しくドワーフが止まる。

 だが、視線はコウタの剣から離れない。


「な、なあお前さん、その剣を見せてくれないか?」


「はあ、別にいいですけど。あ、触れないんでしたっけ?」


「剣はそのままでいい、儂が動く」


「じゃあどうぞ」


 コウタが見やすいように剣を持ち上げる。

 ヒゲ面のドワーフは目を爛々と輝かせて至近距離で剣を眺める。


 奇妙な光景である。

 ダンジョンの奥、見知らぬ相手との初遭遇で、たがいに武器を持っているのに。


「カァー」


「ほら元気出せカーク。平和な出会いになりそうだしいいんじゃねえか?」


「そうですよ! 本当はわかりあえるのに戦うのは不幸なことです!」


「ふむ。初見であの剣の本質を見抜くか。このドワーフは、もしや……」


「なんだこの瘴気の濃さは!? 信じられん!」


「森の瘴気を凝縮して固形化したようなものだってクルトが言ってました」


「柄は粗い、だが剣に触れずに作業するとなれば仕方あるまい。木材も変質しているか。むっ、これは人族以外の紋様?」


「あ、ディダは巨人族(ギガント)なんです。大変そうでしたけど助かりました」


「それにしても剣身の凄まじさよ! 圧倒的な存在力と禍々しさ。これは金属ではあるまい。モンスター素材、それもかなり強力な」


「森の鹿がツノをくれたんです。最初はツノの形なんで使いにくかったんですけど」


「待て。お前さん、元の素材はツノだと言ったか? ではこの形にしたのは」


「そこのクルトです。魔法? 魔力? でこう、ぐにゃーっと」


「なんと!?」


 ヒゲ面の奥から、ドワーフがくりくりした目をクルトに向ける。

 クルトはベルとアビーの横をすり抜けてコウタに並んだ。

 ちなみにクルトは黒い骨のアンデッド形態ではなく見た目人間に見えるようにしている。

 いまは不健康そうに痩せこけた壮年の姿である。


「この気配、この魔力。お前さん、アンデッドか?」


「うむ。そうして、それを見抜ける貴殿は単なるドワーフではあるまい?」


「くっ、くははははは!」


 クルトに問われると、ドワーフは笑い出した。

 大口を開け、腹を抱えて。


 コウタはぽかーんとして、クルトは訳知り顔で頷く。

 アビーは「あ、こいつ驚きすぎてキャパ超えたな」などと呟いて、ベルはニコニコしている。

 そして。


「カア?」


「なんという日だ! 死を覚悟したかと思えば、ありえぬ瘴気の剣と使い手を(まみ)えて! 儂らを知り、儂らの技術を持つアンデッドと出会うとは!」


 首をかたむけるカークの前で、ドワーフはうれしそうに叫んだ。



 コウタとカークがこの世界で目覚めてから十ヶ月と少し。

 ひとまず、新たな出会いは友好的なものになりそうだ。

 モンスターを従えている?ところを見られても、クルトがアンデッドだと知られても。



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― 新着の感想 ―
[一言] 瘴気の塊みたいな剣持った奴が「俺は【健康】ですから」とか理由付けで言われたら増々正気を疑うよ!w
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