神々はくっそ忙しい
「ふ、ふふふ……頑張りました。めっさ頑張りましたえう」
うふふふふえうえうえうえう…
ベルティア宅、仕事部屋。
資料が乱雑に置かれたテーブルに突っ伏し、エリザはしょぼしょぼの目を細めて笑った。
えう世界不可侵協定。
カイがエリザ世界でぺっかーと輝きぶん投げた仕事は、神々と世界の不可侵協定として結実した。
世界は食うか食われるかの関係。
マキナのような多くの世界を持った神の補助を弟子や依頼を受けた他の神が行うような連携はあれど、独立した世界の神々が連携する事は珍しい。
たいていはその中で争いが起こり、連携は内部から崩壊する。
隙あらば食う。それが神々の常識だからだ。
エリザはそれをアメとムチで解決した。
アメは神ベルティア・オー・ニヴルヘイム。
ムチは先輩である神マキナ・デウス・エクス。
マキナの世界ぶん投げの実績で神々の内紛を牽制し、ベルティアの世界構築ノウハウで神の世界の問題を解決する。
従えば儲け方を教えてやる。
しかし裏切ったらただじゃおかない。
まさにアメとムチ。
エリザ世界に侵攻した神々はマキナの世界ぶん投げアピールに土下座降伏し、ベルティアのアドバイスに土下座感謝する。
神々など現金なもの。
利がある限り協力する事だろう。
が、しかし……この協定、神々だけの都合で動くものではない。
異なる世界との相互理解はそれだけ難しい。
神々が利害を調整しても世界の者が神の思惑通りに動くとは限らないのだ。
しかしえう世界不可侵協定は、三つの要素によりそれらを解決した。
ひとつはもちろんカイ・ウェルス。
神々のはっちゃけ被害者がエリザ世界でブチ切れ暴れた事で異界の者達を牽制し、余計な戦いを戒めた。
神々の世界におけるマキナの役割を務めたのだ。
もうひとつは異界でも分け隔てなく接するイリーナ、ムー、カインの三人。
誰を相手にしても変わらぬ心を持つ三人が異界の皆と仲良くなる事で異界同士の繋がりを作り、遭遇即戦闘のような不幸な出来事を回避した。
三人を介する事で異界は全て友達の友達という関係となり、三人が泣くから無駄な戦いは避けようという心情が働くようになった。
そして最後のひとつは、えう。
芋煮三神に世界を救ってもらったエリザ世界は決してえうを裏切らない。
そんなオーク達の真摯なえうは異界の者が聞いても真摯なえう。
えうの言葉通りに異界を助ける彼らは異界の者達の心を動かし、異界にもえうが広がっていく。
神々の成果におけるベルティアの役割だ。
利があれば多少の不満は目をつぶるもの。
協定はまだ始まったばかりだが、やがては神々も世界の者も納得の安全保障体制が築かれる事だろう。
「盟主! 協定に新たな参加希望者が」「盟主! 協定世界に殴り込みが!」
「わぁい! 私、大人気!」
そんなえう世界不可侵協定の盟主は、エリザ・アン・ブリュー。
肩書きがあるとすごく見えるが実態は雑用係。そしてクレーム対応係。
実務ではベルティアに遠く及ばず、武力ではマキナに遠く及ばないため苦情係くらいやってくれと祭り上げられたのだ。
「はい。三日後の午後二時からのご予約ですね? 承りました」
「ベルティア、明日の午後三時の予約が二億を超えたのじゃ」
「その時間の予約は締め切ります。それ以上は受けないでくださいね」
「のじゃ」
ベルティアはくっそ忙しくなった。
異界にバンバン侵攻するような神々の世界は、どこかに問題を抱えている。
世界が耕せないから異界の略奪を画策する。
そして侵攻ばかりしているから世界を耕し方を学ぶヒマがない。
そんな事ばかりしている世界の神々だから、世界の問題は山積みだ。
そんな神々から問題を聞き、ちまちまと解決するベルティアはくっそ忙しいという訳だ。
「ああっ、イグドラに教えるヒマがありませんっ! カイさんを愛でるヒマもありませんっ!」
「ホホホ、働けー、働けー」
「……悪名高いと楽でいいですね先輩」
このベルティアコンサルタントのおかげで協定に参加する神々は増加中。
だからベルティアの忙しさは増すばかりだ。
対して世界をぶん投げる事で悪名高いマキナはイグドラと戯れのんびり生活。
ベルティアの不満も半端無い。
「マキナ先輩もヒマならコンサルタントを手伝ってくださいよ」
「私が働くような協定なら参加など絶対にいたしません。あ、でもイグドラちゃんに手取り足取り教える事なら喜んでじゅるり」
「ベルティアがんばるのじゃ!」「ひぇい!」
世界をぶん投げる神、協定で働く気なし。
「だいたい私は今でも多くの世界を管理しているのです。端から見て遊んでいるように見えてもひーこら働いているのです」
「えっ……先輩、働いてたんですか?」
「世界をぶん投げるくせにマトモな事言ってますよベルティア先輩」
「だまらっしゃい! あなた方の持ち世界はひとつだけなのですから協定の仕事くらい楽勝楽勝。町内会の清掃活動と大差ありません」
「「さすがにそれよりは忙しいです」」
そんな会話をしている間にもエリザには苦情が、ベルティアにはコンサルタント依頼がどんどん増えていく。
イグドラに振った仕事もそろそろ限界。
これ以上振ったらまた夜空の星が大ピンチだ。
膨大なコンサルタント依頼と苦情にベルティアとエリザが叫ぶ。
「ああっ、カイさん! カイさん助けてっ!」
「そうです! 私達にはカイさん成分が必要なのです!」
「アホですか!」
そして、いつものはっちゃけが発動されるのだ。
「のう、ベルティア……カイの祝福が、なにやらパワーアップしておるのじゃが」
「「へ?」」
「左手祝福が右手で賄えるようになりおった。ベルティア、仕事をぶん投げおったな?」
蛇口に水源が備わったと言えば良いだろうか。
元々万能だった左手祝福が、イグドラに頼まなくてもカイの思うがまま。
まさに現人神である。
「ええっ!」「先輩、やっちゃいましたね」
ベルティア、カイ愛でたさにカイに仕事をぶん投げる。
しかし、マキナは呆れてツッコミを入れるのだ。
「なんだ。今までと全く変わらないではありませんか」
「がぁん!」
ベルティアが叫んだ。
一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。
書店でお求め頂けますと幸いです。
誤字報告、感想、評価、ブックマーク、レビューなど頂ければ幸いです。





