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そのエルフさんは世界樹に呪われています。  作者: ぷぺんぱぷ
15.カイ・ウェルスと尻を叩く祝福
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15-28 シャル宿、異界を飼う

 カイがエリザ世界を訪れて一ヶ月後。

 町の付近で顕現した異界の周りに、樹木の壁が作り上げられた。

 これまでのような柵ではなく生きた壁。

 シャル壁だ。


『ぐぅおおあああ!』『わぁい』『ぎぃあああああ!』『わぁい!』


 突破しようとする異界の怪物はシャル枝でさっくり討伐。

 そのままシャルの腹の中だ。


『今日も豊作だー』「……そうか」


 弾んだ声で答えるシャルに、何とも歯切れの悪い返事をするカイである。


 壁に近付く = 死。


 なんとも殺伐とした牧場だ。


 まあ、顕現した異界は元の世界と繋がっているので相手も逃げる事はできる。

 それでも壁を越えたいのであれば世界を食うつもりで来たという事。

 食うか食われるかの戦いに挑んで来たのだから、この結果も当然。


「今日のご飯は何にする?」

「肉えう」「肉」「肉ですわ」

「「「おにくーっ」」」

『肉ですねぇ』「肉わふん」

「はいよ」


 それに選択肢があるぶん、牧場の牛や豚よりマシだろう。

 シャル食料庫から取り出した肉を切りわけながら、カイはため息をついた。


 この肉だって元は生きていた牛だ。

 それを食べるために殺して食肉に加工したのだ。


 さらに言えば植物だって生きている。

 気にしたら何も食べられなくなるので、どこかで割り切るほかはない。


 どこの馬の骨とも知れない異界よりは、友好的なエリザ世界。


 と、カイは割り切って、逃げられるんだから嫌なら逃げてくれよと責任を相手にぶん投げた。


「おまたせしましたー」「芋煮でーす」「わぁい」

『『『わぁい!』』』


 壁で囲まれた異界……異界牧場とカイは呼んでいるが……には、シャル宿が併設されている。


 牧場は異界。

 えう冒険者達の戦場である。


「「「ぶーさん、食べて」」」

『『『いただきます!』』』


 そしてイリーナ、ムー、カインが芋煮を運ぶシャル宿は、えう冒険者達の天国だ。


『ぬぉおお芋煮! 神の芋煮うまい!』『そしてお三方の尊さ半端無い!』『俺、ずっとここに住んでいたい』『俺は二週目に突入したぜ』『町よりも居心地いいよなぁ』

「……いや、たまには帰れよ? 祝福ズに空間を繋げさせてるんだから」

『ですから頑張って下さい』『穀潰しには尻叩きですよ?』


 ぶぉん、ぶぉん……

 祝福ズがえう冒険者達に平手を振る。


 シャルや祝福ズならば宿屋を空間で繋げる事も可能。

 そこら中の異界にシャル宿屋は鎮座しているが中はひとつ。


 神的には大赤字だと思うが先行投資らしい。

 祝福ズはオーク達が自力で戦えるまで世話するつもりなのだ……尻を叩いて。


『よし。芋煮も食った』『戦利品も町に送った』『では牧場で狩るか』


 ぽん。

 オーク達が腹を叩き、武器を手に立ち上がる。


「ぶーさん」「がんばって」「気をつけてねー」

『『『はぁい!』』』


 ちなみに宿代は、異界牧場での怪物討伐だ。

 ここで怪物を狩り、戦利品を願い、牧場の外の地を確かなものへと変えていく。

 それが宿代。


 シャル壁がある限り、怪物は外には出られない。

 勝手に湧き出す怪物は仕方ないが、異界の顕現という大きな穴を塞げばそれだけ周囲は安全。


 町の周囲に顕現して町を脅かしていた異界はシャル壁で全て囲み、中での収穫は周辺の地の強化に使われている。

 えう冒険者達は牧場で怪物を討伐する事で、ザル世界の目を埋めていくのだ。


『イージー、ノーマル、ハード、ベリーハードのどれにするーっ?』

『イージーで』『はぁい!』


 シャルが元気よく答え、枝葉で現れた怪物をベシベシ叩いて回る。

 半死半生の敵の討伐。これがイージーモード。


『楽。すっげぇ楽!』『命をかけなくて良いって、幸せだよなぁ』『芋の収穫と変わらねぇよこれ』


 えうえうえうえうえうえう……

 えう冒険者達はえうえう叫びながら怪物にとどめを刺していく。


 我ながら、ひでぇな……


 もはや戦いではなく、収穫。

 自分の思いつきにカイの後味の悪さ半端無い。


『余が聖樹教に諸々やっておったのと似ておるな』

「……そうだな」


 イグドラの呟きに、カイは頷く。

 世界樹の枝という、神の一部を素材に使った武器は人の手に余る武器だった。

 しかし、人が自らの足で立つ事ができたのはその力のおかげだ。


 あの力がなければ、人は今もエルフの奴隷であっただろう。

 世界樹の枝を人が手にした事で、人は自立できるだけの力を持てたのだ。


 そして世界樹の枝が失われた今も、人は自立できている。

 力を与えられている間に考え、足掻き、様々な技術や知識を手に入れた結果だ。


 彼らもそうなればいいが……


 と、カイは思うがエリザ世界はベルティア世界よりもはるかに過酷。

 人が二千年かけて今の自立を手に入れたように、長い時が必要だろう。


『仕留めた!』『俺もだ!』『俺たち下級えう冒険者でもすげえ楽だ』『町の奴らでもイケるんじゃね?』


 カイが見る窓の先、牧場の怪物達がえう冒険者に討伐された。

 まあ、地道にやるしかない。

 エリザ世界はザルなのだから。


『ちなみに、君たちのイージーモードは今月一杯で終了だよー』

『『『ええーっ!』』』


 怪物を仕留めてホクホクなえう冒険者が、シャルの言葉に驚愕する。


『そりゃそうだよー。僕が獲物を譲ってあげてるだけなんだから。早く自分で狩れるようにならないと来月は宿代が稼げないよーっ?』

『俺たちの芋煮が!』『芋煮三神との触れ合いが!』『イモニガー!』『俺の宿代!』『強くならねば!』『宿代のために強くならねば!』『宿代!』『ヤドダイガーッ!』


 ……宿代ではなく、世界を守れお前ら。


 と、ズレたえう冒険者達に思うカイである。


『あいつら……命のやりとりを舐めるな』

「ならお前も戦え」


 そして含蓄のある言葉を吐くめっさ使えない勇者に、カイはツッコミを入れた。

一巻「ご飯を食べに来ましたえうっ!」発売中です。

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世界樹エルフ
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