15-20 カイ、エリザ世界へ
『前回の異界討伐の反省会はこれで終わります』『カイさん、尻叩きが少なくて良かったですね』
「……ありがとよ」
宴会から二日後。エルネの里、カイ宅。
カイは居間で尻を突き出し突っ伏したまま、祝福ズに呟いた。
宴会までは報告書やら何やらでシスティにダメ出しされ、宴会後は祝福ズにダメ出しされる。
どこでもダメ出しされるカイである。
『最近、私達の尻叩きも成長したと思いませんか?』『手首のスナップが効果的になってきましたね』『祝福エリザもそう思いますか』『このまま成長すれば芸術的尻叩きに』『『すごい!』』
「……そんな成長、お前らに望んでる奴いねえよ」
「まったくですわ……ぷるっぱぴーぷ」
メモでも取っていたのだろうか、ダメ出しはやたらと細かく尻叩きは超痛い。
まあ、一時間くらいで終わるだろう。
と、開始時にカイが思っていたら、まさかの徹夜で二日目突入。
夜通し叩かれる尻に悶絶半端無いカイである。
夜更けに響く尻叩きの音とカイの悲鳴はシャルがしっかりシャットアウト。
そしてメリッサとピーがつきっきりで回復する。
ダメ出し、痛い、ダメ出し確認、ダメ出し確認のダメ出し、尻叩き、痛い……
まさに恐怖のスパイラルだ。
『しかし本番はこれからです』『異界の訓練討伐はいわば卒業試験。人生は学業を終えてからが本番のようにカイさんの願いもこれからなのです』『前座グッバイ』『ウェルカム本番』
「……」
これまでが、前座だったとは……ダロスら新生勇者が聞いたら卒倒するぞ。
と、意気込む祝福ズにため息半端無いカイである。
願い(端がカットされています)は『身をもってエリザ世界を助けないといかん』なのだから本命はたしかにエリザ世界。
そんな訳で、ミリーナとルーはカイズと共に旅の準備中だ。
まあ、何度も通ったエリザ世界。
老オークもアーサーも一緒だから心配する事はないだろう……
いや、心配する事がひとつあった。
と、カイは子供部屋の扉を見る。
「子らも連れて行かんといかんのか」
カイは老オークとアーサーの土下座懇願を思い出す。
『『ぬぅおおおおおカイ様がお越しの際は是非とも芋煮三神の皆様をご一緒に、ご一緒にお願いいたしますぅううううう……』』
と、涙まじりに懇願されてはカイも「そんな危ない所に子らを連れて行きたくありません」とは言えない。
ミリーナ、ルー、メリッサはカイはへなちょこと言いながらどこまでも付いて来るだろう。それはもう仕方ない。
しかし子らはまだ幼い。
エルネの里には友達もいる。
カイの都合で飛び回らせてはどうかと思ってしまうのだ。
しかし今回は行商とは違い、少し長くなるだろう。
その間、子らとなかなか会えないのはカイ一家としても辛い。
「ぶーさんの世界?」「ぶーさんがいっぱい?」「すごい!」
「「「お願いいたしますぅうーっ」」」
なにより、子らもアーサーと老オークのマネをするほど乗り気。
だからカイは子らを絶対に守れと念を押しまくり、その希望を受け入れた。
オーク達の気持ちもわかる。
彼らエリザ世界は子らを神と崇めるオークらの世界。
通路ダンジョンのえう神殿で子らを崇めるにも限界がある。
生まれ変わったイリーナ、ムー、カインをひと目見たいと信者達の圧力が凄まじく、老オークもアーサーも苦労しているらしい。
「お前らも、子らの安全を頼むぞ」
『『貴方の願いを叶えます』』
ぶぉん、ぶぉん……
カイの頼みに平手を振って祝福ズが答える。
『危害を加えようとする者には容赦いたしません。尻が砕けるくらいに尻を叩いてみせましょう』『冴え渡る尻叩きの技、とくとご覧あれ』
「それは尻を叩くというのか?」
叩いて砕く。
もはや殺人技である。
まあ、祝福ズにまかせておけば安全だろう……
周囲は惨憺たるありさまだろうが。
と、カイが想像して暗くなっていると、シャルが声をかけてくる。
『僕も行くから大丈夫だよーっ』
「そういやそうか。お前、とんずら上手だもんな」
『えへーっ。家ごとしゅぱたととんずらだよー』
シャル家ごと移動。
もはや旅ではなく引っ越しだ。
シャルはどこでも生きていける世界樹。
その気になれば宇宙でも水中でもどんとこい。
腹の中だがこれ以上安全な家もない。
『まあ、空間も渡れるけどねー』
「それすると食うんだろ?」
『そりゃそうだよー。お腹が減ったら力が出ないものー』
「いざという時には、頼む」
『はぁーい』
カイは尻をさすりながら立ち上がる。
エリザ世界は不安定。
オーク達は子らを守ってくれるだろうが世界はあまりに脆弱。どこに異界が顕現してもおかしくはない。
どれだけ気をつけても足りない世界。
それが、エリザ世界。
「本当に、子供達だけは守ってくれよ?」
『『おまかせ安心!』』
「いや、元々お前らの厄介事だからな?」『『がぁん!』』
何を胸を張って答えてやがる。
カイは思わずツッこんだ。
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