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【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
第三章

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姫様との対面

 リンベルから発せられた言葉に、カルミナは一瞬時間が停止する。


 ――――え? 生きてる? アリシアが??


「リ、リンベルさん……それ、本当なの……?」


「ああ、確証はないけど、()()()()()が感じ取ったんだ。アリシアちゃんの気配を。かなり小さくなっているけど、まだ消えてはいない」


「アリシア……良かった、良かったああ……」


 カルミナはあまりの嬉しさに涙を流す。身体がほぐれ、いくらか楽になってきた。


「カルミナちゃんには、()()()に会ってもらいたい」


「ある人?」


「ここ、ヒノワ村の首長――――姫様にだよ」


「えっ!? ここ、ヒノワ村なの!?」


「そりゃあ、君たちヒノワ村の近くまで行っただろう?」


「ああ、そうだった……」


 意識を失う前のことを思い出すカルミナ。そして、再び周囲を見渡した。


「ここが、お母さんの故郷……ヒノワ村なんだ」


 自分の母親の故郷に足を踏み入れ、感慨に浸るカルミナ。アリシアが生きているかもしれないという希望を知り、多少落ち着きを取り戻したようだ。それを見たリンベルが、安堵の笑みを浮かべる。


「どうやら、少し落ち着いてきたようだね」


「リンベルさん……さっきはごめんなさい」


「気にすることはない。どのみち……僕は君たちとの約束を守れなかった。責められても文句は言えないさ」


「他の皆も……無事なんだよね?」


「オルトスが君と同じくらい重傷だったから、今も身動きとれないでいるけど生きてる。バンクとボンクに関しては軽傷だ。大丈夫、皆生きてるよ」


「そう……よかったぁ」


 カルミナは深いため息を吐き、肩の荷がストンと下りた気持ちになる。


「ここはヒノワ村の中央部にある()、つまりは首長の家なのさ。アリシアちゃんが消えてしまったから、君が寝ている間に探していたんだけど――――」


 そして、リンベルは床にドカッと座り込み、苦い顔をした。


「どうやら、アズバはまだ()()()()()()にいるみたいでね――――」


「こっちの、世界……?」


「そう、今僕たちがいるこの世界とは別に、もう一つの世界があってね……かつて、竜が鎮座していた聖域さ」


「そこに……アズバは向かっているの?」


「もしアズバがアリシアちゃんと一緒にいたらの話だけどね。けど、アズバと共に消えたんだからその可能性は高いだろう」


「なるほど……それで、その場所はどこにあるの?」


「それは――――」


「――――そこから先は、拙がお話しいたします」


 突如、二人の会話に入り込む女性の声。二人が振り向くと、そこにいたのは――――厳かな白い上衣と赤い下衣を身につけた黒髪の美女だった。煌びやかな花型の髪飾りに、首からぶら下げられた神秘的な宝石。しかし、そのどれにも負けないくらい、その女性は美しかった。

 黒く光る髪は床まで垂れ下がり、何色にも染まらんとする白亜の瞳。しかし、顔色は死人のように青白く、カルミナは思わず不安げな瞳で見つめた。女性の後ろには、数人の付き人らしき人たちが頭を垂れて突っ立っていた。

 カルミナは一目見て確信する。この黒髪美女こそが、ヒノワ村の首長――――姫様であると。


()()()ちゃん!? 起き上がって大丈夫なのかい?」


「この非常事態に伏せっている訳にはいきません。我らが()()()()()の危機なのですから……あなたが、カルミナ様でございますね?」


 カグヤ、とリンベルから呼ばれた女性は完成された笑顔を浮かべながらカルミナに視線を向けた。思わずカルミナもドキッと胸を一瞬ときめかせてしまう。


「ダ、ダメよカルミナ! 私にはアリシアという人がいるのだから……! 浮気ダメ、絶対!」


「何を言ってるんだいカルミナちゃん……」


 リンベルとカグヤは首をかしげながら、ブンブンと首を横に振っているカルミナを見つめた。


「あ、いえ……こちらの話で……コホン! そうです、私がカルミナです。あなたが……皆が話していた、()()ですか? ヒノワ村の首長の……」


「ふふ、カグヤで結構です。その呼称は、ヒノワの民が勝手に呼んでいるだけですので。拙自身、そんな大層な器ではありませんよ」


「姫様……そのようにご自分を卑下なさることは――――」


 付き人の一人が聞き捨てならないと言いたげに口を挟む。すると、カグヤは自嘲気味に笑った。


「事実ですよ。病弱な拙は、ここから出ることも叶わず、挙げ句の果てに多くの民を死なせ……アリシア様を敵に奪われてしまった……これが無能といわず、何といいましょう?」


「姫様……」


 付き人は悲しそうな声を上げて黙り込んでしまった。他の人たちからも、すすり泣くような声が次々あがっている。暗いムードが、辺りを包み込んだ。


「カグヤちゃん……」


「ああ、すみません。今は落ち込んでいる場合ではありませんでしたね……」


 リンベルの呼びかけを受け、カグヤはコホンと咳払いをして、改めてカルミナに向き直る。


「カルミナ様、これまでアリシア様をお守りいただいたこと、我らヒノワ村も心からお礼申し上げます。本当に、ありがとうございます」


「いえいえ! お礼されることなんて! 私が勝手に好きでやっただけなんで! 気持ちよくなりたいからやっただけなんで!」


「気持ちよく……というのはよくわかりませんが、どうかこの礼は受け取ってくださいませ。アリシア様がどのようなお方かわからなかったにも関わらず、命を懸けて守り通した行為は、尊敬に値します」


「でも、最後は……」


 カルミナはアズバとの一戦を思い出し、グッと力を込める。それを見たカグヤは再びカルミナに笑いかける。


「まだ、悲しむ必要はありません。拙には、あの方を感知する力があります。代々、受け継がれてきた力なのですがね」


「アリシアは、まだ生きているんですよね?」


「ええ、確かに弱くはありますが、まだ感じ取れます。このヒノワ村の……()()にいるようです」


「えっ!? ならすぐに行かないと――――ッ!」


 そう言って思わず立ち上がろうとしたカルミナに、激痛が襲う。カルミナは現実を思い出しながら、苦しそうにその場にうずくまった。 


「落ち着いて、カルミナちゃん。気持ちはわかるが、君は見ての通り満足に動ける状態じゃない」


「でも、でも……アリシアが……このままじゃ!」


「カルミナ様のお気持ちは、拙にもよくわかります。しかし、なればこそ今は回復に努めてください。おっしゃるとおり、時間はあまりありませんから……」


「カグヤさん……」


 カルミナは悔しそうに歯ぎしりしながら、再び横になって安静の状態を整えた。フゥと一息ついて、平静を取り戻す。


「カグヤさん、近くって言ってたけど、具体的な位置はわかるんですか?」


「はい、今部下に監視もさせています。どこまで監視できるかはわかりませんが……」


「アズバは聖域に向かっているってリンベルさんが言ってましたけど――――」


「はい、アズバが向かっている方角……その先には――――」


 そう言うと、カグヤは一息置いてから、その場所を告げた。


「ヒノワ村が管轄している離れの島にして聖域――――神島(かみしま)に向かっていると思われます」

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