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【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
第二章

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 カルミナたちがマーリルを退けたその夜。アーノルドは『中央酒場』にて住民を集めて宴を開いた。皆、思い思いに酒や飯を楽しみ、お互いの無事を喜び合った。普段寝静まる夜中が、この日だけは真っ昼間と変わらぬ喧騒に満ちていた。


「ええええ!!!? 女将さんの旦那さんってアーノルドさんなの!!?」


 酒場の真ん中付近の席に座っていたカルミナが、口一杯に出された料理を頬張っていた。そんな時にアーノルドとミランダの衝撃的な関係を聞かされ、思わず口の中に溜め込んでいたモノが一斉に吹き出そうになった。カルミナはムググ、と自分で口を押さえて何とか飲み込む。


「ハッハッハ、すまないね。そんなに驚くとは思わなかったよ」


 アーノルドも酒が入って気分が高揚しているのか、カルミナの慌てふためく姿を見て、愉快そうに高笑いしている。カルミナの隣に座っていたアリシアが、すかさず水を差し出す。カルミナはそれを受けとると、一気にグイッと飲み干した。


「ぷはっ! ありがと、アリシア」


「もう……ゆっくり食べないと。危ないよ……」


「アッハッハ!! これじゃあ、どちらが年上かわかんないね!」


 ミランダも、酒が入って上機嫌なのか、アーノルドのように高笑いしながら、二人の様子を眺めていた。


「アハハ……面目ない……ってそれよりも! 二人はどうして結婚したの? 馴れ初めは? 馴れ初めは?」


 カルミナは二人に対して好奇の視線をぶつけながら、ウキウキした表情で尋ねた。アーノルドとミランダは、二人とも照れ臭いのか、ただでさえ酒のせいで真っ赤になっていた顔が、さらに赤く染め上がった。


「そんなたいしたもんじゃないよ。たまたま家が隣同士だっただけさ」


 ミランダがあっけらかんとした口調でそんな風に言う。アーノルドも昔を懐かしむように、どこか遠くを見るような目をしながら、酒をゆっくり体内に流し込んだ。


「この場所は、サマルカンがここまで大きくなる前からあってね。私もよくここに通っていたものだから、彼女(ミランダ)と何回も会って話すうちに、いつの間にか……ね」


「お~」


 カルミナは興味深そうに、二人の話に耳を傾ける。実はカルミナ、案外この手の話がかなり好きなのだ。


「結婚した当時は、アーノルドは()()として出稼ぎに行っていたからねえ。いつ死ぬかわからない職業だから、言えるうちに言ってしまおう、と思って私からある日想いをぶつけたのさ」


「あの時は……中々に熱かったね……」


「お~」


 カルミナが感嘆の声をあげた直後、ふと気付く。それはアリシアも同じみたいで、二人は互いに目を合わせた。そして、その事を確認しようとアリシアが口を開く。


「アーノルドさん……()()っておっしゃってましたけど……まさか……」


「そう、お察しの通り、若い頃私は神軍(ジーニス)の一員だった。引退した今でも、神には忠誠を誓っている」


 アーノルドは淡々とした口調で、二人にそう告げた。二人は目を丸くする。神に忠誠を尽くしているのならば、なおさらーー、


「どうして私たちを助けてくれたのですか……? あの時、ローガスに私を引き渡すことだってできたのに……」


 アリシアは少し不安げな表情を作りながら、アーノルドにおそるおそる尋ねる。アーノルドは困ったような笑みを浮かべた後……、


「なんでだろうな……確かに私は、愛する()()のために街を封鎖し、君を追い詰めた。たとえ神軍(ジーニス)を引退した今でも、神への忠誠は間違いなくあるはずだ……しかし」


「しかし?」


「私は……この街のために命を懸けて戦ってくれた君たちに、不義理を働きたくはなかった。ローガス様にもお伝えしたとおり、サマルカンの人間は、受けた恩は決して忘れない。今の私は、神の忠誠よりもこの街と、この街に住む住民たちの方が大切なのだ」


「アーノルドさん……」


「だから今回は忠義よりも()()を優先することにした。それがサマルカンにとっての最適解だから」


 アーノルドはそう言って姿勢を正し、改めてカルミナとアリシアに対して深く頭を下げた。


「この街を守ってくれてありがとう。そして約束する。サマルカンは今後、君たちを捕まえるために剣を取ることは、()()()()()とね」


「えっ……!? それって……!?」


 カルミナは驚きに満ちた声をあげる。それはつまり、サマルカンは神様に対して、反旗を翻すということなのか? だとしたら、それはあまりにも危険な話である。

 カルミナとアリシアが、さっきより一層不安な顔つきになっていると、


「ただし、申し訳ないが君たちのために、神へ剣を向けることもない。それはわかってほしい。私は、主への忠義を忘れたわけではない」


「つまり、中立ってことだよ。あんたたちの敵にも味方にもならないってこと」


「そういうことね。うん、その方が私たちもありがたいや。私たちのせいでこの街に何かあったらイヤだもの」


 ミランダの補足で、カルミナとアリシアはアーノルドの言葉を理解し、安堵する。カルミナの言うように、中立のほうがお互いのためにも最善であろう。神の力を以てすれば、敵対する街を一瞬で滅ぼすなど、簡単なことだろうから……。


「これからも、サマルカンにはいつでも気軽に来るといい。もはやここに住む者の中で、君を世界の敵(ナーディル)だといって恐れる人はいない。そうだろう!? 皆の者!!」


 アーノルドが周りの人々に声高らかに呼びかける。すると、さっきまで思い思いに騒いでいた住民たちが一斉にこちらを振り向きーー、


「「「おおおおおお!!!!」」」


 事前に示し合わせたかのように、笑顔で二人を讃えた。皆、それぞれに感謝の言葉を投げかける。


「ありがとうな!!! 嬢ちゃんたち!!」


「かっこよかったぜええ!!!」


「三十路だけど、独身だから結婚してええ!!!」


 住民たちの感謝の言葉を受け、カルミナとアリシアの心がいっぱいに満たされていくのを感じた。最後に、アーノルドが二人に向かいーー、


「カルミナくん、アリシアくん。何度でも言う、本当にありがとう。君たちのこれからの旅に、幸があらんことを」


「こちらこそ! 私たちのために手を尽くしてくれて、ありがとう! アーノルドさん!」


 そうして、カルミナはアーノルドに対して手を差し伸べる。その意味を理解したアーノルドはフッ、と微笑んだ後に手を差し出しーー、


 二人は、互いに握手を交わした。その瞬間、周りの人々が再び大歓声をあげて、カルミナたちを讃えるのだった。


「本当はこの場に、あのエルフの若者たちもいてくれたら、なお嬉しかったのだがね……」


「そうですね……二人とも、あれからさっさとこの街を離れちゃったから……」


 ~~~~~~

 

 ローガスが姿を消した後、アートマンとシルビアはすぐさまサマルカンを出ることにした。曰く、神軍(ジーニス)から逃げるためだという。世界の敵(ナーディル)と共闘した自分たちを、彼らが許してくれるとは思えない。そう判断してのことだった。


「どうなるかはわからないがな、それでも念のため、しばらく身を隠すことにする。だから、忙しないがお前たちとは今、ここでお別れだ」


「そうか……本当は、もっと話したかったけどね……せっかくこうして友達になれたのに」


「まったくだ……アリシアも、元気でな。お前への()()が、早く解けることを祈ってる。それまで、負けるんじゃねえぞ?」


「うん……アートマンとシルビアも、気を付けて……私たちを助けてくれて、本当にありがとう」


「……大丈夫、私たちは強いから。それに」


「それに?」


「お礼を言うのはこちらの方。あなたたちがいなかったら、私たちは今こうして生きてはいなかった。だから、ありがとう」


 シルビアはそう言って、ニコリと軽く笑みを浮かべる。その表情を見て、カルミナとアリシアも明るい笑みを浮かべた。その光景を見たアートマンも、どこか安心したように微笑んだ。


「じゃあな! 二人とも、またどこかで会おう!!」


「うん! 二人とも、元気でね~~!!!」


 こうして、二人のエルフは足早に立ち去っていった。その背中を、カルミナたちは名残惜しそうに見送るのだった。


 ~~~~~~


「まあ、彼らならそうそう危ない目に遭うことはないだろう。あれだけの強者なのだから」


「あれ? アーノルドさん二人の戦いっぷり見てたの?」


「見なくても何となくだがわかる。あの若さであそこまで鍛えられた闘気は、中々お目にかかれるもんじゃないからね。無論、君たちもだがね」


「さすがだね……今度アーノルドさんの教え、一度受けてみたいなあ。絶対強いんじゃん、アーノルドさん」


「フッ……私で良ければ、いつでも」


「やったあ!! だってさアリシア!」


 カルミナは満面の笑みでアリシアの方を向く。アリシアはフゥ、と呆れ気味にため息をついた。


「よかったね、カルミナ」


「何他人事のように言ってんの? アリシアも一緒に受けるんだよ?」


「え!? 私も!? しかも決定事項!!?」


「強くなるためには、努力を惜しまない。アリシアも強くなりたいでしょ? これからのためにも」


 カルミナはジッ、とアリシアに挑戦的な眼差しを向ける。アリシアはごくりと息を鳴らしながら、ぐっと顔に力を込めてーー、


「は、はい! 私もお願いします! アーノルド()()!」


「ハッハッハ……可愛らしいお嬢さん方にしては、随分と熱血なことだ。うちの若い衆にも見習ってもらわねばな」


 ーーなおも宴は続き、夜が明ける頃になってようやく、街は静寂に包まれたのだった。

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