最終話 新たなる世界で、二人仲良く
アレイシアを打ち破ったアリシアは無事、戻ってくることができた。カルミナはアリシアが戻ってきたことが分かった瞬間にアリシアに飛びつき、互いに生きていることを喜び合った。それにより傷が開き、双方とも血を吹き出してしまったが。
オルトス、リンベル、カグヤ、ハルカも満身創痍ではあったが、奇跡的に一命は取り留めていた。皆、アリシアが戻ってきたことに対し、自分のことのように喜んだ。そして、確信した。
自分たちの勝利であると――――!
祭壇に戻ってくると、五人の神子達が待ち構えていた。しかし、敵意は感じられず、どこか沈んだ表情をしていた。リンベルは彼らの様子と、アズバがいないことで何が起きたのかを理解し、その場で膝をつき、慟哭した。最期の瞬間まで、二人が和解することはなく、その機会もまた、失われてしまった。
失うものも大きかった。だけどその分、得たものも大きかった。世界の脅威は、ついに跡形もなく消え去ったのである。そして――――
カルミナとアリシアの闘いは終わり、二人は今度こそ、平和を取り戻したのである。
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竜との決戦から数ヶ月後。あれから、世界はめまぐるしく変わった。
人間神アズバの死は、ローガスより大々的に発表され、葬儀が開かれた。人々は大いに涙し、偉大な神が世界のために殉死したことを嘆き悲しんだ。その後、アズバの遺言通り、アズバの二代目はローガスが引き継ぎ、後の四人は引き続き神子として、ローガスのサポートに入った。
ローガスは世界を脅かす竜が完全に消滅したことを人々に伝え、同時に世界の敵と宣言。これにより、アリシア達の安全は保障されることとなった。ここに、神軍と世界の敵の争いは幕を閉じた。
リンベルはその後もあの洞窟でオルトスたちと暮らしているという。時折手紙が来るが、本人達曰く仲睦まじくやっているとのこと。その手紙を見てカルミナのやる気がさらに高まったとか。その後、アリシアに手痛いお仕置きを受けたらしいが――――
ヒノワ村も順調に復興しているらしい。あの後、神軍とは友好条約を結び、ヒノワ村はよそ者を受け入れるようになった。友好の証として神軍が管理する学校や治療院が置かれた。最初はトラブルも頻発していたようだが、今ではローガスとカグヤの尽力もあって良好な関係を築けているらしい。ヒノワ村は以前よりも活気に満ちた村になっていくことだろう。
そして、肝心のカルミナとアリシアは――――
ドーン村の外れにある小高い丘。ここに、ある人物の墓がある。カルミナとアリシアは、その墓前で祈りを捧げていた。
「ただいま、母さん……無事、アリシアと帰ってきたよ」
カルミナは目の前で眠っている母、ヨーコに優しく語りかける。隣のアリシアは何も言わずに目を瞑り、静かに祈りを続けていた。
「何回も危ない目にあったり、諦めそうになったりもしたけど、お父さんやお母さん、ハロルドおじさんにサマルカンの皆、お母さんの師匠のリンベルさんやハルカ叔母さん、そして何より、私の隣にいるアリシアに助けられて前を進むことができた。本当に皆には、感謝してもしきれないくらい……」
そう言い終わると、カルミナは静かに目を開けた。
「本当に、ありがとう……お母さん」
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「愛されてたんだね、カルミナのお母さん。いっぱいお供え物があった」
家への帰路の途中。アリシアはカルミナにそう切り出した。カルミナはニッと笑みを浮かべ――――
「まあね、村の人たちと積極的に交流してたし、助け合ってたしね」
「……やっぱり親子だね、よく似てる」
「そう?」
「じゃなきゃ私はここにいない」
アリシアがそう言ったところで、二人は同時に笑った。こうして笑い合えることに、この上ない幸せを感じながら。
「カルミナ、本当にありがとう」
「どうしたの、急に」
「あなたのおかげで、私はこうして生きてて、生きることの幸せを知ることができた。あなたがいなかったら、こんな未来はなかった」
「アリシア……お礼を言うのはこっちの方だよ」
カルミナの言葉にアリシアは意外そうな表情をする。カルミナはこれまでのことを思い出しながら言葉を続ける。
「アリシアと出会わなかったら、私の人生はきっと色も華もない、つまらない人生だったと思う。だけど、あなたと出会って、最初は私が守らなきゃ――――とか思っていたら、実はすごく強い子で。いつの間にかこっちがアリシアから強さを学んだくらい」
「そんな……私なんていつも」
「ううん、あなたは自分の意思を持った本当に強い子だった。だから私はあなたに惹かれたのかもしれない」
そう言って、カルミナはアリシアの空色の瞳を見つめた。最初は暗くよどんでいた瞳が、今は星空のごとくきらめきを帯びていた。希望と力強さがこもった美しい瞳。それは、カルミナも同様だった。
二人は互いに見つめ合い、自信に満ちた笑みを浮かべる。あれだけの苦難を乗り越えた二人に、もはや怖いものなどなかった。これからも、彼女たちは二人力を合わせて壁を乗り越えていくのだろう。それが、お互いの顔を見つめ合った二人の感想であった。
「さて、あんまり遅くなるとお父さんにしかられちゃう。行こっ、アリシア!」
カルミナはアリシアに手を差し伸べる。最初に会った時と同じように――――
アリシアはその手を自信を持って取る。最初にビクビクしていた彼女とはもはや別人であった。
「うん、カルミナ!」
太陽が沈み、月が空に浮かび上がる。二つの天体は、彼女らの門出を祝福するかのように、パアッと一筋の光を浴びせるのだった。
――――完――――




