アリシアVSアレイシア②
短くてすみません。
「ほう」
アリシアの呟きに、アレイシアは嬉しそうな顔で反応した。アリシアは軽く咳き込みながらも、話を続ける。
「正直、私には答えが出せない。あなたの言うことも正しいとも思えるし、カルミナ達の言うことも正しいとも思える。世界のこととか、人の本性だとか、それらの全てを理解していない私に、何かを言う資格はない」
「ならば黙って去りなさい。意見も持たぬ者に、この戦に参加する権利はありません」
「でも!」
アリシアはキッとアレイシアに強気の視線をぶつけた。
「私は……あなたほどこの世界に絶望しちゃいない! それに、あなたの意見を認めたらカルミナを失うことになる。それに、ヘンリーさんやハロルドさん、リンベルさん、サマルカンの人たち……私は、私を助けてくれた彼らにまだ何の恩も返せていない!」
アリシアはアレイシアの腕を掴み、引き剥がそうと力を込める。それに負けじと、アレイシアはアリシアを地面に押しつける力を強める。両者、互いに引き下がらずに力が拮抗した。
(何だ……この娘、どこにこんな力が?)
アレイシアは本気で力を込める。しかし、なおアリシアは押し潰されない。それどころか、段々こちらが押されている!?
「私は……人を見る目も、ましてや世界を見る目だってない。私は、目の前に広がる景色を信じる! 自分を信じると言ってくれた人を信じる! だから、彼らが生きている世界を壊そうとするあなたを許容することはできないの!」
さらにアリシアの力が増していく。ついにアレイシアの手がアリシアの首から離れ、押し返し始める。アレイシアは驚愕に満ちた表情でアリシアを見た。
「そんな身勝手な理由で、私の大業を邪魔しようと言うのですか!」
「一生懸命生きてる世界を滅ぼすことの、どこが大業よ! あなたのやってることも身勝手の極みじゃない!!!」
「なっ……! 私はあくまで世界のために――――!!」
「世界を救うことを、口実にしてるだけでしょ!! そうして創り直した世界があなたの望むものじゃなかったらどうする気!? また滅ぼすんでしょ!? あなたは、結局自己満足のために他を犠牲にしてる、あなたが毛嫌いしているヒト族よりよっぽどタチが悪い存在よ!!!」
「言わせておけばあ!!!」
アレイシアがアリシアに殴りかかるが、それをアリシアは難なく躱す。間違いなく、先ほどより動きが桁違いだ。今まで実力を隠していたとでもいうのか、それとも――――
「違う、違う!! 私は自分のためにこんなことをしてきたんじゃない! 私は、神として! 世界を管理する者としてその使命を全うするために――――」
――――本当に?
「本当だとも!!」
――――あなたが世界の管理者だと誰が決めた?
「それは、わからない……しかし! あの時、ゲートを見つけて世界と出会ったことが、私の使命の理解に繋がったのだ!!! 私はたとえ忌み嫌われようとも、世界のために情を捨てる! 世界のために生き、世界のために死ぬのだ!!」
――――それは、あなたを慕う忠臣を謀殺してまで為すべきことか?
「そうだ!!! そうでなければ、彼を処刑した意味がなくなってしまうではないか!!!」
――――本当は、自分でも分かっているんじゃないか? 自分が、そんな大層なものではない、彼らと同じ世界のパーツの一つに過ぎないことに。
「違う、違う、違う!!! 私は彼らにも認められたのだ!! 私は、世界を運営する側なのだあ!!!」
頭をブンブンと振り、余計な思考を入念に潰していく。しかし、それがアレイシアに隙を作る結果となってしまう。
「――――ぐはっ!?」
突如、自らの腹に重く鋭い一撃が襲いかかる。アレイシアにとって、久方ぶりの痛み。困惑と痛みからの苦しみに脳内を支配され、訳が分からなくなってその場に膝をつく。
「ぐっ、ぐぅぅ……」
――――何だ? なぜ私に痛みが!?
腹を両手で押さえながら前を向くと――――
「あ……あなた、その姿は……」
――――あり得ない。ただの別人格風情が、その力を扱えるはずがない!! あれは、私が許可を出して初めて使えるものだというのに!!!
アレイシアの眼前に映る景色は、到底彼女には受け入れられぬものであった。しかし、それでもしかと目に焼き付けられる。彼女の眼前に映ったもの、それは――――
全身に稲妻のような光を帯びた、アリシアの姿であった。アリシア自身も自分の状況に驚きながらも、屈しているアレイシアを見据えていた。まるで、これから罪人に刑罰を執行する神のように――――
「あなたの思惑は、ここで終わらせる! 皆を、カルミナを殺させはしないから!!!」
そう言って、アリシアはなおも態勢を崩しているアレイシアに向かって走り出すのだった。




