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【完結済】愛し愛される世界へ ~一目惚れした彼女が、この世界の敵でした~  作者: 冬木アルマ
最終章

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愛憎②

【アレイシア】


 私はヒト族に、自分の知る限りの知恵を授けた。彼らは飲み込みが早く、ついに私ともコミュニケーションがとれるよう、「言葉」を生み出した。私は、彼らがしゃべれるだけでなく、何か目に見える形で言葉を残す方法を伝え、「文字」というものが生まれた。

 また、ものづくり技術の進化のスピードも凄まじかった。元々彼らは武器を加工したり、雨風をしのぐための建物を造る技術はあったので、これの飲み込みのスピードは尋常ではなく、教えたとおりどころかより優れたものを創造することができるようになった。

 彼らがその技術を手に入れて最初に造ったのが、私の宮殿だった。私は彼らよりも遙かに巨大なため、私が建物に入るイメージが難しかったはずだろうに、彼らは見事私が窮屈に感じない大きさの建物を造り上げた。言葉と文字を駆使して私に感謝を伝えたときのことを、私は忘れない。あの時私は確かに、歓喜の感情を抱いたのだ。本当に、嬉しかったのだ。


 ふと、私は疑問に思った。なぜ私はこんなことを知っているのだろう。あっちの世界では自分以外しかいなかったし、雨風をしのぐ必要もなかったために建物もない。無論、私以外に生命体はいない。にもかかわらず、まるで()()()()()()()()()()()()()()のように、私は彼らに伝えるための知識を持ち、結果的にそれを余すことなく伝えた。そして、彼らはそれに応え、期待以上の成長を遂げてくれた。今ではもう、自分たちの力で考え、実行している。

 私の生まれてきた意味はこのためだったのか? 私は彼らと出会い、彼らと共に在るために生きているのか? 一体誰がこの事態を構想したのか? どんな目的で、そして今どこでこの状況を見守っているというのか。

 ――――いくら考えても憶測の域を出ない。考えたところで、私を創った輩が知覚できるわけでもないし。それよりも――――


 今は、この愛らしい小さきもの(ヒト族)を見ていたい。彼らがこの後どこまでいくのかを見てみたい。まだ底の知れないヒト族の成長を愉しみに思いながら、ヒト族の世界が出来上がっていくのを見守るのだった。


 ヒト族は私を()と崇め、私に仕えたいという者たちが一定数現れた。そんなことをする必要はない、と最初私は断ったのだが、彼らはなかなかに強情だった。ついに私の方が折れてしまい、それを許可した。本当に嬉しそうにはしゃいでいた彼らが、私はあまりにも愛らしく思えた。

 彼らは自分たちで組織を作り、彼らの中で最も信頼の厚い三人をリーダーにして、私のメッセンジャーの役割を担った。彼ら三人に「司祭」という役割を授け、これからのヒト族は私とこの三人の名の下に活動していくらしい。


 ――――私の意思は、考慮させてもらえないのだろうか?


 私の知らぬ間にトントン拍子で決められて少々面白くなかったが、まあ、私を慕い頼ってくれたのだ。可愛い彼らのために一肌脱いでやろうじゃないか。それに、組織を作って各人に役割を与えるのは、ヒト族の文明レベルが上がっている証拠だ。彼らの成長を喜ぼうじゃないか――――


 三人の司祭たちはリーダーに選ばれるだけあって、びっくりするくらい良い子たちだった。何も命じなくても私の気分を察し、私が最もして欲しいことをしてくれる。あれ? エスパー? 逆に恐ろしくなってきた……。

 それでも彼らが私のためにしてくれているのはわかったので、私は彼らに特別な力を与え、司祭らしく仕上げてやった。さすがに最初は驚いていたが、私は彼らならば悪用することなく、善行に全て費やしてくれると信じていた。嬉し涙流された時はこちらも非常に動揺したが……。

 こうして三人の司祭、アズバ・リンベル・カムイとの長い共同生活が始まった。彼らとの幸せな時間が永久に続けばいい。そんな淡い願いを抱きながら――――

 この時の私は思いもしなかっただろう。彼らに与えた力によって、私自身が彼らに滅ぼされることになろうとは――――


~~~~~~


 ヒト族はますますの繁栄を見せ、世界中の至る所で村が作られ、それぞれの文化を形成していくようになった。時折村同士の諍いが起こるようになったが、司祭たちの指導の下、手遅れになる前に速やかに対処した。優しいだけでなく、この私が目を見張るほどの優秀ぶりだ。

 一方私といえば、至れり尽くせりの生活を送っていた。私は部屋から一歩も動かず(というより巨体のためにそう簡単に動けない)、司祭を顎で使って好きなことを好きなだけする贅沢三昧。いつの間にか、それが当たり前に思うようになっていた私だったが、別に思う通りにならなかったと言って癇癪を起こしたりはしなかった。子どもはそもそも親より未熟な者。多少の失敗や間違いは目を瞑るのが親の役目だ。そして、存分に愛を与える。これが一番大事なことだ。ここをおろそかにしては、親として、神として失格なのだから――――

 かといって、全く怒らないのもいけない。あまりにも言うことの聞けない者たちには、罰は下さなかったものの注意をするようになった。反対に、私に奉仕した者には精一杯の愛を与えた。特別な力や豪華な物を与えることで、私なりの愛を示した。司祭たちもまた、私に文句一つ言うことなく尽くしてくれた。彼らには日頃からとりわけ、私は愛を与えるようにしていた。それが、私に出来る唯一のことだったから――――

 彼らは皆、私の可愛い子どもたちだった。皆純粋な心をもって私に尽くしてくれた。それが本当に嬉しくて、もっと私なりに愛を返したくて力を尽くした。


 本当に、本当に愛していたんだ。彼らは絶対に私を裏切らないと思っていたし、私も彼らを絶対に傷つけないと心に誓っていた。


「これからもずっとずっと、こんな幸せな時間が続けばいいのに――――」


 本当に、心からそう思っていた。子どもたちも皆、そう思っているはずだ。そう、信じていたのに――――


 私たちの運命を変えた()()を見始めたのは、このときからだった。

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