007.『健康』『睡眠』は有用かもしれない
本日は2話投稿しています。
退職三日目。
『健康』『睡眠』スキルのおかげだろうか。今までにない目覚めの良さだった。探索に寄与しないのでハズレスキル扱いされているスキル、生活に役に立つならとってもいいかもしれないな、と朝食をとりながら考えた。
リュウイチはミイナを送り出した後、税務署に寄ってからダンジョン協会を訪れた。
「お、リュウイチ。例の件、来週末あたりになりそうだ。準備しておけよ」
「課長、ありがとうございます」
元上司に遭遇したので挨拶するリュウイチ。
それにしても動きが早い。
昨日の話し方からすると、リュウイチがやめる前から動いていたのかもしれない。委託先の選定で止まっていたとか。
「屋号が必要だったら『R・ダンジョン支援』でお願いします」
「おう、まあがんばんな」
話し込むこともなく別れ、窓口へ。この時間帯は昨日と違って人が多い。待ち時間が無駄なので、先にダンジョンで用事を済ませることにした。今日は自前のダンジョン装備も持ってきているのでレンタルも不要だ。
ロッカールームで着替える。
プロテクターはヘルメットまで含めてレンタル品と変わらない。盾はダンジョン産の金属で補強してあるタイプ。そして武器は片手持ちの戦鎚。ハンマーの反対側がピックになっている。
そして予備武器の肉厚の剣鉈と、ガスマスクを『秘密のポケット』に入れておく。
『秘密のポケット』は『所持量増加10』で取得可能になった待望のトンデモ収納スキルである。このスキルの発見だけでも探索者の常識を覆すことになるだろう。
ポケットや鞄などがなくても収納できる謎ポケットが手に入る。
いつでも出し入れでき、手品にもってこいである。
収納数は同スキルレベル。容量は同スキルレベルと『所持量増加』のスキル効果を受けるらしい。また、重量は無視される。
詳しい検証はまだなので詳しいことはわからないが、とりあえず65個収納できることは分かっている。
着替え終わるとダンジョンゲートへ。
ダンジョンは物理的につながっている穴から侵入する。その地下を探査しても空洞が見つからないのが謎だ。
ここ『疫病のダンジョン』では、地面から2メートルほどの岩が生えており、その側面に半地下状の入り口があって坂になっていたところを現在は階段に整備されている。
だが、物理的に存在する入り口があることは幸いで、これを分厚いコンクリで囲んで部屋を作り、バリケードを設置して警戒できるよう防備を整えてある。それがダンジョンゲートと呼ばれるこの部屋だ。
ゲート前に居る顔見知りの警備員に挨拶してダンジョンへ入る。
「さてと」
2階へのルートを外れ人気のない方向へと移動しながら、リュウイチはダンジョン端末を取り出す。
「ああ、なんかもったいないよなあ。でもまあ、しゃあないか。クラスチェンジっと」
クラスチェンジ。探索者クラスを変更することだ。
これを行うと、レベルが1になる。スキルは引き継げるが、再度元のレベルに上げるのに苦労することになるのであまり行われない。低レベルで繰り返せばいくらでもスキルポイントを稼げるじゃないか、と思うものがいるが、レベル10に到達しなければクラスチェンジは行えないのだ。レベル差が大きいとパーティを組んで経験値分与をすることができなくなるので、改めてレベルを上げなおすのは苦労するのである。
ステータスがレベルに比例して伸びていくこともあり、最前線で活動する探索者ほどクラスチェンジを行う余裕がないとも言われている。
今回リュウイチは『盗賊』クラスにクラスチェンジした。
「クラスチェンジだとレベル1の時のスキルポイントがもらえないってのは本当なんだな」
端末を確認しながらダンジョンを進む。
「ん、ステータスが想定より高い?」
現在リュウイチは一人パーティを組んでいる。そのため、スキルによって能力値が強化されていた。
しかし、それを加味しても、想定の倍ほどステータスの数値が高い。
「クラスチェンジ前のステータスによって基礎値が強化されるって説は本当だったのかもしれん」
そういう説があったのだ。
仮に正比例するとすれば、レベル4016からクラスチェンジして約2倍だとすると50以下だと80分の1。1.25%ほどになるわけだ。誤差か気のせいあるいはガセやウソ扱いされていた提唱者は事実を言っていたのかもしれない。
「とはいえ、あんまり関係ないな」
リュウイチの今後の予定を考えると、そのシステムはあまり影響を与えないだろう。
リュウイチはこれから、軽くレベルを上げつつ、簡単な検証を進めつつ、5階に存在するボス、言い方を変えれば1層のボスを倒す予定だ。
このボスをパーティで倒せるかが探索者の一つの壁となっている。
これを単独で倒す。
パーティで倒したことはあるが、単独ではもちろんない。サポーターは戦闘が得意ではないし、そんな無理をする必要もない。
だが、今回は何とかしなければならない。自力でレベル10になる必要がある。
しかし、レベルに対して弱い敵を倒しても経験値がほとんど得られないことが判明していた。具体的にはレベル10になるには最低でも5階の敵を倒さないといけないことが判明しているのだ。
そして現状のスキルがばれてもいけない。
パーティを組むと知られてしまうことになるため、単独で倒すしかない。
ただ、それを可能とする目算は立っている。ステータスが2倍強いというのも最初は追い風になるだろう。ラッキー。
そんなことを考えながら、第一餓鬼を発見。倒す。
レベルが上がった。
もう一つ上がった。
スキルポイントが66増えた。
「もう無茶苦茶だなあ」
リュウイチはつぶやいた。2階に行こう。
『サポータースキル強化55』というのがインチキで、サポーターのスキルの効果をレベルごとに+10%してくれるという効果だった。
つまり+550%。6.5倍になるわけだ。
『パーティ取得スキルポイント増加30』によって増えるのは5。
+32.5ポイントとなるが端数は切り捨てられるらしい。
本来もらえる1ポイントと合わせて1レベル当たり33ポイントというわけである。
今最前線で活動している探索者がこれを知ったらどう思うか。想像したくない。
逆に考えると、4000レベル探索者が活動する階層はそれだけ無茶苦茶な難度であるという予想ができるのだが、リュウイチはこのことからも目をそらした。
それからリュウイチは階を進みながらレベル9まで上げた。ソロ行動はパーティに経験値が分割されず総取りなので、経験値増加スキルと合わせてすぐに上がる。
そして盗賊のスキルをとってから5階のボスに挑む。
5階はボスがいる部屋と、その部屋と階段をつなぐ通路しかない。
通路はボスの部屋とは扉で隔てられているため、安全地帯と呼ばれている。
幸い、順番待ちはいなかった。
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。




