069.結末
本日62~70部分を投稿します。
戦況が膠着していた。
「何がどうしてそんなになってるのか後で聞かせてもらうわよ!」
「再現性がないので」
「それなら面白げな作り話でも考えてください」
敵の攻撃がほとんど効かなくなったリュウイチを前線に出すことで戦線の安定に寄与させ、高い火力の攻撃をばらまかせることで敵圧力の軽減にも成功した。
リュウイチが壁役兼固定砲台として機能したことでほかの11人の動きの自由度が増え、押されていた状態から盛り返すことはできた。
しかし、相手の数が減る様子がない。
十百千と倒し続けてもである。
100階攻略時と同様に、中心となるボスを倒す必要があるのか。
あるいは本当に無尽蔵にあらわれ続けるのか。
「古事記の例をひけば、桃を投げつけると退却することになっているんだが」
「あたしを!?」
「そっちじゃないけどやってみるか?」
「当てられますかね」
敵の中核として怪しいのは数が限られている8柱の雷だ。
この混雑の中でヒットアンドアウェイに徹してなかなか捕捉できない。
それに桃であれモモであれ、命中させるのは苦労しそうだ。
「続いて、境界を超えるとあきらめるパターン」
「ここまで出てきたからな。仮にダンジョン入り口を境界と見るか? 協会だけに」
「親父ギャグやめてよサイトーさん」
「それをやってついてきたら大惨事ですね」
簡単には試せない。
それこそ最後の手段だろう。
「大岩で入り口を封印し、最後の会話をする」
「1000人殺して1500人産むってやつだっけか」
「封印に使えそうな大岩どこにあるのっていうか大岩で封印できるのかしら」
「それ以前に交渉できますかね。話通じませんでしたが」
交渉の用意がある、と呼び掛けてみたがまるで反応がなかったのだ。
敵の口から出るのは雄たけびや叫び声ばかりである。
また、仮にダンジョンの通路を封じたとして、いや封じられるのか。
帰還に介入してくるような相手だ。
「しかし、どうにかして和解するしか止まらないのでは?」
「一理あるが、どうやって?」
神々の領域との対立状態を解消しなければ、こうして無尽蔵に兵を送られ続けるのではないか、というのはまっとうな懸念である。
根本的に敵のほうが上位存在なのだ。
戦闘力はこちらの、地球の精鋭が勝っているかもしれないが、それでも膠着しているし、相手は実質不老不死である可能性もある。
物量による消耗戦となれば不利なのは地球側。
それに、不老不死がチラつけば反応を示す者も出てくるだろう。歴史的に不老不死は人類の夢でもある。
しかし、交渉するにも窓口がない。
相手と言葉を交わせなければ交渉のしようがない。
「いや、心当たりがある。せっかくだから試してみよう」
交渉窓口。
一つだけ思いついたリュウイチはすぐに連絡を取った。
99階の第2次防衛線を、帰還の水晶の手前である96階まで後退させ。
そしてミイナは地上に『帰還』した。
ミイナは大変お怒りであった。
止めたのに無茶をするリュウイチに対してである。
その上無理難題を言い出した。いやこれはいい。存分に頼るといい。
しかし、相談しておいて勝手に決めて勝手に実行するのはいかがなものか。
ミイナは後で実行することに決めたお仕置きする内容をリュウイチに伝えながら、書類仕事中のマリカを事務所から連れ出した。
連れ出されたマリカは大混乱である。
リュウイチたちの行動の成否を心配しながら地上で会社の活動を維持するという任務にあたっていたマリカ。
そこに99階にいるはずのミイナが飛び込んできて力を貸してというのだ。
いったい何がどうなっているのか。
リュウイチは、ほかの皆は無事なのか。
ミイナはマリカに何を求めているのか。
「待ってください、ミイナさん。落ち着いて、そんなに慌てないで、状況を」
「う、そうね。焦ってたわ」
ミイナを落ち着かせたマリカは近所の喫茶店に入った。いつもの個室。ここならゆっくり話ができる。頭に糖分も供給できる。
ケーキセットで落ち着いたミイナは状況を伝えた。
現在100階で戦闘中。膠着していて負けたら何がどうなるかさっぱりわからないがまあマズいことになるだろう。
「え、じゃあゆっくりしとる場合じゃないが。なんでお茶しとるん」
「だから急いでたのよ。でも落ち着かないと話にならないのは確か。ありがとねマリカちゃん」
ジャンボパフェをしっかり空にしたマリカは、ミイナの言うリュウイチの提案について考えた。
「できるでしょうか?」
「やってみるしかないでしょう」
ミイナとマリカは改めて出発する。
目的地は近所の神社。
そう、リュウイチの心当たり。
それは、保留状態だった、ミイナとマリカへの報酬であった。
『よくぞわが使命を果たした。報いを与える。希望があれば述べよ』
拝殿前で拍手した二人の感覚が、遠くなり、あの存在からの声がかけられる。
ただ、リュウイチのときとは違い、二人同時に行ったためか、ミイナ、マリカは互いの存在も認識できていた。
「『疫病のダンジョン』100階で起きている争いを止め、地球、彼方の双方が納得できる落としどころを探る交渉を望みます。こちらの要求は半ば強制的に彼方の住人とされることをやめ、自由意思で選べるようにすること、望めば地上に帰ることができるようにすること、現在の争いの鉾を納めチュートリアルであるダンジョンに彼方の軍勢を送らないこと」
『自由を望むか、人の子が』
「強制されるより自発的に行うほうが効率が良い、それが現代の考え方です」
ミイナが実現されていない理想を語る。
ブラック労働撲滅は現代のこの国でもなされていない。
しかし、だから神々の領域でいいように使われるというのも違うだろう。
そして実際のところより、話を通すことの方が重要だ。
『そちらの娘はどうだ』
意識がマリカに向けられる。
マリカは思わず震え上がったが歯を食いしばって前を見た。隣にいるミイナの存在を頼もしく感じ取れる。
「望みを伝える前に、疫病のダンジョン以外のダンジョンもあの場所につながっているのでしょうか?」
『場所による』
「ということは、攻略者の取り合いになっているのでしょうか?」
『先々にはそうなるかもしれぬ』
「であれば、条件を緩めたほうが集まりますよね」
『そういうものか』
「条件がいいほうに、報酬が多いほうに人が集まるのは基本的な原理です。やる気にもつながります」
初任給でお金をいっぱいもらったマリカが述べる。
人を集めるには信用と報酬。
マリカはあの日以来の生活でそれを学んだ。
集まりすぎてアップアップしている姿も見たが、それは置いておいて。
「条件は後発のほうが有利、信用は先行のほうが有利、ですがすでにだまし討ちのようなことをしていますからマイナスですね。ということは他が条件を提示する前にマイナスを取り除いて、さらに他者により良い条件を提示されたとき対応できる体制を作るべきです。条件についての打ち合わせをできる場を定期的に持つというのはどうでしょうか」
『小賢しい』
存在の重圧がにわかに増した。
ミイナとマリカは押しつぶされそうになるが、抱き合って何とか持ちこたえる。
失敗しただろうか。
不安と重圧に苛まれる二人。
『戦いをやめさせ、自由意思を認め、交渉の場を設ける。望みは三つではないか』
「あ、いえ、その」
「あうあうあう」
『軍勢の増援を止め、人の子の意思を認める。そしてのちのための交渉の場を設ける。人の子の代表は娘、汝に命ずる』
「わ、わたしですかあ!?」
声がひっくり返るマリカ。
指定されたのはマリカだった。
『先に召した時には後ろに隠れるだけの娘がわずかな時でよくも育ったものよ。準備をして100階を超えよ。こちらも通じておく。ではな』
こうして。
ピーチガールズ行方不明事件はマリカが人類代表となって幕を閉じたのだった。
「嘘じゃろ」
「この結末はちょっと想定外だったわね」
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