067.逃走
本日62~70部分を投稿します。
地上ではない。
黄昏の世界でもない。
ダンジョン内でもなくましてやダンジョン前でもない。
神々の領域とも違う。
薄暗いしかし、光が差す方向があり、そこが出口だと直感する。
出口までは曲がりくねった長い上り坂になっているようで、まあ道があるだけましといったところか。
「『帰還』……だめね! 他のスキルは効果があるようだけど!」
「帰還スキルだけが使えない……? いえ、帰還の効果中なのでは?」
「ああ、そう言われるとしっくりくるぜ」
なるほど、とリュウイチは感じた。
帰還スキルに干渉可能なのはすでに実例がある。
今回は黄昏の世界のときとは違った影響を受けているようだが、リンゴの言うように帰還の効果中だと考えると、自分の中でスキルがそうだよと答えるような気がした。
と。
突然、強烈な存在感が、現れた。
位置は出口とは反対側である。
次々と、現れ、無数に、増えていく。
「な、何か出たデース!?」
「皆さん、走って、振り向かないで! きっと、そういうものです!」
シトラスが叫ぶ。そしてスイカの声で、皆一斉に走り出した。
一度に行動するには12人は少し多いが、R社の業務で引率慣れしているせいか、スムーズな走りだし。
しかしリュウイチは一瞬出遅れた。やはり練度の点では一枚落ちる。
それをモモとリンゴが引っ張った。
無数にあらわれた存在感がリュウイチたちを追う。速い。レベルと多重のスキルで強化されている皆に追いつきかねない身体能力がありそうだ。
「山幸彦とはいかないようですね」
「『黄泉比良坂ダンジョン』はここじゃないってのにね!」
「悪い、助かった」
調べた三つの例のうち、二つにおいて、脱出者は異界の住人に追いかけられることになる。
これはあの存在による試練か、あるいはガチで逃がさないための追手なのか。
どちらにしても捕まるわけにはいかない。
「振り返ってはならないというのは嫁を取り返す際のパターンですがこの場合はどうでしょうね」
「パートナーが向こうに居る人がいるのか?」
「いえ、グリーンアイズとにしても、向こうの住人とにしても、そういう関係になった者はいないはずです」
「ちょっと! 遅れてるんだから走るのに集中しなさいよ!」
最後尾で軽口をたたきながら走るリュウイチとリンゴを叱るモモ。
しかしこれも、後ろから迫る圧力に耐えるために必要なことだった。
「というか、ステータスが低い『サポーター』で来たんですか」
「必要になる可能性があるかなと」
2パーティが戻れない可能性として、スキルとレベルがリセットされたのではないかというものをケアするためにすぐに『帰還』を取得できるサポーターを一人入れるべきという提案があり、リュウイチがその役を負ったのだ。主戦力の他のメンバーよりも適していると考えたからだ。
結果的に走る速度で劣り、今足を引っ張ることになっている。
だが。
「追いつかれそうになるのは想定の範囲内だよな、っと」
リュウイチは秘密のポケットの桃をぶちまけた。
追われる者は手持ちの道具で足止めを行うのが作法である。
その試みは成功し、確かに後ろからの圧力は弱まった。
先頭が桃に飛びついて喰らっている。
あるいは大げさに避けるように飛びのいたよう。
そこに後続が突っ込んだら大混乱である。
しかし消えたわけではない。
すぐに追跡は再開される。
「足止めの準備を!」
「おう!」
サイトーが速度を緩めて最後尾をスイッチ、リュウイチはモモとリンゴに手を引かれて加速した。
足止めグッズとして葡萄、タケノコ、破魔矢、お札など様々用意して手分けして持っていたのだが、入れ代わり立ち代わり、投げつけぶちまけ放り投げとしているうちに使い切り、ついに自分たち用の食料にまで手を付けた。
しかしその甲斐あって追い付かれる前に、出口と確信していた光の下にたどり着き、勢いのまま飛び込んだ。
「っ、ここは!?」
「100階だ!」
牛頭の剣士がいた。
その軍勢の鬼たちもだ。
100階進入直後、交戦前の位置取りと同じ。
帰ってきた、と思ったが、状況はまだ終わっていない。
「どうする、帰還するか?」
「話ができないかな……」
「どうかしら! 難しそうに思えるけどね!」
やる気を見せる牛頭の剣士とその軍勢を見たモモが言う。
「この戦力なら勝てるだろうが、倒したところであっちに行くなら意味がねえな。帰還しよ……」
サイトーが提案を言い終わろうとしたその時。
牛頭の剣士と軍勢が、一瞬で違うものに入れ替わった。
「げえ!?」
誰の悲鳴だったか。女性の声だったような気はする。
牛頭の軍勢は、別の軍勢に入れ替わった。
古代風の衣装を身に着けた軍勢だ。
その一角には、神々の領域でリュウイチたちを歓迎してくれた女性たちと同じ衣装を身に着けた者たちも居る。
ただし、思わず見とれるような魅力はなく。
思わずドン引きするような、怒りと恨みに満ちた女の顔で殺意を放つ鬼女たち。
さらに、全身にパリパリと稲妻を纏う8体の、いや、神話に倣い、8柱と呼ぶべきだろうか。強烈な存在感を放つ軍勢の中でも、飛びぬけて力強い存在。
ところで、本来いないはずのモンスターが現れるのはある事態の兆候であると言われている。
「これってもしかして、氾濫デース?」
「どうでしょうね」
「そうじゃないといいなあ。でしょ?」
氾濫かどうかはともかく、放置していいものかは一考の余地がある。
それにしても。
「めっちゃ強そうじゃないの!」
モモの率直な感想に、皆心の中でうなずいた。
面白かった、続きが気になると思ったら、いいねと評価をお願いします。




