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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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64/70

064.歓迎の宴

本日62~70部分を投稿します。

 木材で組まれた家、そう思っていたが、実際には洞窟の内部だったことが、通路を出たところでわかった。


 そこに現れたのは森を切り開いたかのような円形の広場。

 周りは洞窟出口と一方向――こちらもこの空間の出口だろう――を除くと密集した木々に覆われている。

 中央に石の大きな卓、いや、これは舞台だろうか、そのようなものが配置され、この舞台とリュウイチたちが出てきた洞窟の間に席が設けられていた。

 机や椅子はない。

 鮮やかに彩られた敷き布に、藁か何かで編まれた座布団。豪勢に盛られているだろう料理はしかし、あまり複雑なものには見えない。

 獣の丸焼きらしき香ばしいにおいを漂わせる肉の塊。色とりどりの果物、陶器には汁物。そして同じく陶器のぐい飲みに満たされた淡く輝く液体。


 淡く輝く液体。


 古代の宴会をイメージするとこんな感じだろうかという印象をリュウイチは受けた。

 そして輝く液体。


『サイトーさん、みんな!』

『ああ……』『ん……』


 リュウイチはパーティ内意思疎通スキルを使って呼びかけを続けていた。

 しかし、どうにも反応が鈍い。頭の回転が抑制されているのか、気づかないのか、反応がないわけではない。寝ぼけているような手ごたえ。


「さあさ勇者様方、まずは駆け付け一杯」

「あの! これはどういったものなのですか!」


 席に座らされ、輝く液体を勧められ、リュウイチは抵抗を兼ねて質問をした。

 これは正解だったようで、パーティメンバーもリュウイチの言葉に反応して手を止める。


「こちらは神の酒。特別なものでございます。肉体を最高の状態にして、寿命まで延びる素晴らしいものでございます」

「ほ、ほう。それはそれは、そんなすごいものをいただいてよろしいので?」

「もちろん、偉業を成し遂げた勇者様方へ、我らが主から贈りものでございます」


『! 高位の薬効を持つダンジョン薬か!』

『サイトーさん!? 気づいたんですか!』

『ぬ、リュウちゃん、どうなってる?』


 女性の説明の直後、サイトーが覚醒した。

 続いてもう一人の『難病の治療法を探そう会』メンバー。


「お姉さんたちの主殿とはどういった――」

「わが主はこの領域の――」


『ううん、これは?』


 そして3人で騒いでいると、『ブルーオーシャン』の3人も気が付いた。

 リュウイチの時間稼ぎの会話は十分な成果を得たらしい。

 そして魅了らしき効果は質か量によって打破できるのかもしれない。そんな仮説も立てられた。


 時間稼ぎ中についでに得た情報もある。

 この女性たちは“チュートリアル”をクリアしたことを偉業と呼び、リュウイチたちを歓迎している。

 この領域には主がおり、女性たちはその部下にあたること。

 主はあまりに力が強いため、直接会うことがかなわないこと。


 そんな話を聞きながら、リュウイチたちはうなずきあった。


「そんなことよりもどうぞお飲みくださいませ」

「ありがとうございます」


 そしてリュウイチたちは歓待を受けた。

 女性たちはリュウイチたちが初めの一杯を飲み干すのを見届けると、4名が舞台に移動した。3名が楽器を手に取り、一人が着物を一枚脱いでさらにエロティックな姿となり舞い始めた。

 残る二人は空になった酒杯に追加を注いで回る給仕を務めるようで、食べ物を勧めながら甲斐甲斐しくリュウイチたちの世話をして回る。


『リュウイチさん? あんまり見ちゃだめですよ』

『あっはい』

『舞にも魅了効果があるかもしれませんから』

『たしかに。みんなにも伝える』


 ミイナとの連絡も絶やさず、パーティとも話して異状がないか確認もしながら、リュウイチは女性から話を聞き出そうとしていた。


「ところで、我々より先にここにたどり着いた者がいると思うのですが」

「はい、かの勇者の方々もこちらで元気にしておられますわ」


 ちらりとリュウイチたちが来た方向とは逆の出口に目をやる女性。

 向こうに居るというわけだ。

 どうやって会うか、そう考えを巡らせ始めたところで。


 噂をすれば影が差す。


「待った待った! って、リュウイチさん!? ああ、食べてる! 遅かった……」


 広場に飛び込んできた人影。

 それはピーチガールズのリーダー、モモだった。

 そして彼女は、リュウイチたちを見て崩れ落ちた。





「ほほほ。積もる話もありましょう、わたくしどもはひとまず席を外しましょう」


 そういって、6名の女性は立ち去って、この場にはリュウイチたちとピーチガールズの合計12名が残された。

 酒と食べ物はまだまだある。

 しかし皆手を止めていた。


 リュウイチは立ち上がり、モモを助け起こす。


「大丈夫か?」

「リュウイチさん、ヨモツヘグッちゃったのね」

「え、何語?」


 いつも元気で張りがあるモモの声だが、今は力がない。

 強い後悔を抱いて気落ちしているように見えた。


「ヨモツヘグイ、異界の食べ物を口にすると、戻れなくなるという話を聞いたことがない?」

「ああ、それなら」


 リュウイチはパーティの仲間を見回して、頷き合った。


「知っているよ。調べてきた」

「え、じゃ、じゃあどうして?」


 なぜ宴席の料理を、酒を、口にしたのかと驚くモモにリュウイチはニヤリと笑う。


「食ってない。口に入る瞬間に『秘密のポケット』にしまって実際には水と持ち込んだ食い物を口にしてたんだ」


 練習してきたんだぞ、とリュウイチは付け加えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱりそれは一番警戒するよね。魅了が効いてるうちにって手管なのがえぐいが。
[良い点] 新しい言葉できたね [一言] あとは玉手箱をどう表現するかだな
[一言] やっぱりヨモツヘグイかぁ ヨモツヘグッちゃったって言い方凄いなw
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