063.100階の先
本日62~70部分を投稿します。
100階のボス、牛頭の剣士は恐るべき強さだった。
舞台は草原。
相手は鬼モンスターの軍団とその指揮官であるボス個体。
周囲を取り巻く無数の鬼がボスに統率されることも厄介だったが、それをかき分けた先にいるボス自身の力量が並大抵ではない。
剣の腕はまさに達人。
遠距離攻撃はそれが魔法スキルであっても切り払われ、接近すればその技量に圧倒され取り巻きの横槍も警戒しなければならない。
付け入るスキがあるとすれば、本人のスキルとサポータースキルの重ね掛けで高まった身体能力がボスに勝っていることだ。
1対1もしくは1対2を作れれば、技を力で押しつぶせる。いやこちらも素人ではさすがに無理がある。技量の差を身体能力で埋められるというべきか。
今回のメンバーではサイトーがボスを担当した。
他のメンバーで取り巻きがボスとサイトーにちょっかいを出せないくらいに排除し続ける必要があった。
はじめ取り巻きの数を削ろうとしたのだが、いくら戦っても減ったような気がしなかった。無尽蔵と思えるほど後から後から湧いて出たのだ。
倒した分だけ補充されボス部屋内に常に一定数存在するような仕組みなのではないかという可能性が提示された時点で戦術を変更した。
ボス個体までの道を切り開き、ボスとのタイマンを成立させ、ボスを倒す。
この戦術をもって、何とかボスを倒すことに成功したのである。
『お疲れ様です。どうでした?』
『言っちゃなんだが、俺がいるのに攻略できた以上、前の2組がやられたとは思えないな』
ボスが倒れると同時に取り巻きの鬼モンスターも消滅を始める。
戦いながら指輪の力で状況を99階に流していたリュウイチはこの後何が起きるか警戒を続けていた。
戦闘技術では一枚も二枚も劣るリュウイチを抱える今回のメンバーで勝利できたということは、100階は十分攻略可能な難易度だということ。おそらく欠員もなしで突破できているに違いない。リュウイチはそう思いたかった。
これまでのボス戦の例だと階段など次の階層へつながるルートが開かれる。
だが100階には入ってきた場所以外にそれらしいものは見当たらず、これから何らかの移動手段が現れるものだと思われた。
「うぉ、こりゃあ……」
サイトーが声を上げる。
見ると、サイトーの体が手の先足の先から光の粒に変換されていくではないか。
サイトーだけではない。
他のメンバーも、そしてリュウイチも、同じように。
『光にって……イチさ……』
『ミイナ? 聞こえるか?』
手が消えたあたりで、指輪による意思疎通が途絶える。
指輪はもちろん指にはめているのだから当然と言えば当然だ。
光への変換は徐々にその速度を増してゆき。
しかしパーティの皆はこの状況を飲み込んで、互いに頷きあい。
すべては光になって消えていった。
“『チュートリアルクリアおめでとう』”
気が付いたリュウイチの視界に入ったのはそういう意味を持った文字列だった。
見たこともない文字。
しかし意味を理解できる。
何らかの魔法的な効果が働いているのか、あるいはそういうものなのか。
「チュートリアルだと?」
サイトーの声が聞こえ、振り向くとパーティメンバーがみなそろっていた。
木を組んで作られた部屋だ。
その壁に不思議な文字。
光源は見当たらないが室内は明るい。薄暗いダンジョンではなく、強い屋外の日差しでもなく、適度な、そう人工の室内灯程度の過不足のない明るさだ。
部屋には出口が一つあり、と観察しているとその出口から6名の若い女性が音もなく進入してきた。
警戒して身構えるリュウイチたちに笑顔を向け、入り口の前に並ぶ女性たち。
古い時代、古代の想像図などで見るような衣装と、現代の巫女服を合わせたような姿で、何とも言い難い色気をまとっていた。顔の作りも整っており、見るだけで思わず頬が緩む。
彼女たちは並んで頭を深々と下げる。
『……さん……』
「よくぞここまでたどり着きました、人の子の勇者よ。歓迎の宴が整っております、どうぞこちらへいらしてくださいませ」
頭を上げて微笑みながら声をそろえる女性たち。
リュウイチたちは、抗うこともできず魅了され、一人一人腕をとられて、
『……イチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさん』
「うわこわ」
「どうなさいました?」
「あいや、なんでもないです」
リュウイチの腕をとるどことなくミイナに似ている女性は小首をかしげるも、さあこちらですとリュウイチを導き歩き出す。
『ミイナ』
『リュウイチさん! よかった、通信が一度切れました。5分と少し経過しています。そちらはどうですか』
『きれいなお姉さんに誘導されて歓迎の宴とやらに』
『ちょっと待っててくださいね、そっち行きますから』
『おちついて愛しいしと』
リュウイチは歩きながらパーティメンバーの様子をうかがった。
皆どこか気の抜けた顔で女性に腕を引かれている。
キャバクラかな?
じゃなかった、考えられるのは魅了かそれに類する精神系の状態異常だろうか。
対応する耐性スキルはそれぞれパーティ内で重ね掛け状態になっているはずだが、それを貫通するほどの強度なのか、スキルとはまた別の力が働いているのか。
女性たちはリュウイチがわかるような力を持っているようには見えない。ただちょっとものすごくかわいく見えて、若干隙間からなにか見えそうなくらい。
だが、何らかの干渉がはあるはずだ。
このおかしな状況で警戒心を失うほどサイトー達はぬるくない。普通ならば。
謎の力の影響をはねのけ、リュウイチが正気を取り戻したのは、
『愛の力ですね!』
『多分間違ってはいないにしても照れるから今言うのやめて。怪しまれる』
『デレデレしてた方がそれらしいんじゃないです?』
『うあ、そうかもしれねえ』
リュウイチは調子に乗ったミイナに愛の言葉をささやかれながら、宴の場にたどり着いた。
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