062.古事記
本日62~70部分を投稿します。
「関係しそうなのはこのあたりですか」
古事記に書いてあるというかの存在のお告げを受けて、リュウイチたちは近所の書店の古事記を買い集め、内容を確認した。
そして検討したところ、それらしい記述を導き出すことに成功した。
それも3つ。
ひとつは国を生んだ夫婦神が仲たがいする話。
ひとつはある神が妻をめとり国を治めることになる話。
最後はなくした針を探す男が海の姫と結婚し、帰って兄に仕返しをする話。
共通する点はある種の異世界と思われる場所から帰還するという点である。
またいずれも類似する神話や民話があり、物語のモチーフとしても使われているという指摘も出た。
「ちょっとこれどれも夫婦ネタってのが気に入らないんですけど」
「いやまあそこはさあ」
ミイナはちょっとばかり気にかかる点があるようだったが、さておき。
それぞれ連れ帰れない話、試練を受けて連れ帰る話、3年かかるがアフターサポートもしてくれる話である。
最後のものは、状況とずれているようだが、3年間目的を忘れて楽しく暮らしているというあたりが参考になる。浦島太郎との類似性も指摘され、やはりこれはこれで危険かもしれないと思われた。
氾濫は防がれた。
探索者の消息不明は自己責任である。
それだけの危険もある。
ならば放っておいてもよいのではないか。
そんな意見も出た。
しかし、感情として彼女ら彼らを失うことを許容できないという意見も多く。
また、100階攻略してから帰る手段を見つけなければ、ほかのダンジョンの氾濫を止めるとなったときに困るという理由も見つかった。
そうでなければ、ダンジョンひとつにつき、有力なパーティを1組いけにえに捧げるようなものだ。
また、条件を満たしたダンジョンが二度と氾濫の危険がないかというと断言はできない。
かの存在が示唆したのは直近の1度だけという可能性もある。
時間がたてばまた氾濫の危険が出てくるのかもしれない。
仮説ではある。
ダンジョンの氾濫を防ぐにはモンスターを間引き続けるか100階を攻略することであるというのは。
なので仮説に仮説を重ねた可能性に過ぎない話だが、ダンジョンが得体のしれない存在であるということは事実である。
ミイナ、マリカの“報い”を利用して確認をとるという案も出た。
だがそれで安心できる答えが返ってくるのか。
そうでなかったらどうなるか。
どちらにせよ、この件に関してすでにひとつの回答を得ているのだ。それを放って新たな問いかけをするというのはどうなのか、という懸念もあった。
はっきりとした答えではない、なぞかけのような回答はある種の試練ではないかというものだ。
試練を放って別の抜け道を求めるのは、試練を与えた側を怒らせる結果にならないだろうか。
そう考えると、リュウイチが尋ねた時点で選択肢はなくなったともいえる。
こうして懸念を抱えつつも、『100階超帰還作戦』と名付けられた作戦が開始された。
R社に加え、ピーチガールズと同盟を組んでいた3つのトップパーティ。消息を絶ったもう一つのパーティの関係者にも声をかけたが、独自に対応するということで断られた。
現段階で思いつく準備を整え、様々な状況に対応するための検討の末。
リュウイチがメンバーに入ることになった。
理由は、『愛の絆の指輪』にある。
ダンジョンの階層を超えても意思を疎通できるこの指輪の力を情報収集に利用できないかと考えられたのだ。
日常的にこの指輪をつけて活用していたリュウイチとミイナ。
『今日の晩御飯は何がいい?』『なんでもいいよ』『いいからなんか挙げろや』『なら揚げ物で。茄子のてんぷらとか』『じゃあめっちゃ揚げますね』
なんて具合に日常使いしていた二人は、スキルによる意思疎通と比べても過敏なこの指輪を使いこなせているといえる。
リュウイチとミイナのどちらかが残り、どちらかが向かうことで失敗しても情報を残せるのではないか。
そしてリュウイチはミイナが口を開く前に参加を宣言した。
ミイナよりは自分がやるべきだと自然に考え、ミイナもリュウイチがそう考えると考えるだろうことを理解してリュウイチが先手を取ったのだ。
幸い、資源回収部の活動や自衛軍の勉強会に参加したりで、リュウイチのダンジョン内での戦術能力は先日のお泊り体験会のときよりはいくらかマシになっていた。
足手まといにはならないだろうとお墨付きも得た。
そのお墨付きを出したのは、リュウイチを連れていく役に手を挙げたパーティメンバーだ。R社に所属した『ブルーオーシャン』からの選抜と、『難病の治療法を探そう会』からサイトーである。
ブルーオーシャンはこういうのは年上の仕事だと年功序列を主張。
サイトーたちは病気の身内が快方に向かっており、幸せをかみしめている中での参戦だった。義理を返すと強硬に主張したのだ。
結果生まれたのがリュウイチ、ブルーオーシャンから3名、難病の治療法を探そう会からサイトー含む2名という混成パーティ。
丸一日かけて連携の確認を行い、スキルを上げ、レベルも上げ、その結果のお墨付きだ。
こうしてついに準備が整い、99階まで4パーティで護衛しつつ疲弊なしで送り込まれたのである。
突入パーティの他の面々も、仲間たちと言葉を交わし。
リュウイチもミイナと話をしていた。
「さすがにこれが終わったらゆっくりできるだろう」『全部おいて逃げませんか?』
「フラグを立てないでくださいよ」『ここまできてそれはな』
「わざと立てたフラグは逆に折れるらしいぞ」『見栄なんて張らないでもいいじゃないですか』
「不安にさせるなって言ってるんです。というか終わっても仕事一杯じゃないですか」『ミイナが呼び掛けてくれれば大丈夫だ。きっとな』
ミイナは大きなしぐさでため息をついた。
『リュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさんリュウイチさん』
「うわこわ」
『帰ってこなかったら乗り込みますからね』
『待ってますとかじゃないの?』
『多分行く方が楽ですよ。それに夫婦ネタをほかの女にわたしてなるものですか』
『そこの心配はしないでほしいかな』
「怖くないですーかわいい奥さんですー」
それぞれ突入前のコミュニケーションをとり。
「いってらっしゃい」
「いってくる」
リュウイチたちは、100階へと進入した。
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