061.答え
R・ダンジョン支援合同会社が長いというご意見があったので今話からR社という略称を使います。
もし書き直すことがあったら直しますがちょっと大変なのでここまではそのままにします。ご了承ください。
『疫病のダンジョン』99階。
100階への階段を前にして、5パーティ30人の探索者が集まっていた。
リュウイチもその中の1パーティに、またミイナも別のパーティで参加している。
他のメンバーは『ご近所トップパーティ同盟』のピーチガールズを除く3パーティとR社によって構成されている。
「本当に行くんですね」
「今回は俺の役割だろうからな」
「リュウイチさんである必要はないし、何ならわたしが行ってもいいと思うんです」
「それはまあ、早い者勝ちというか」
いくつかの理由から、リュウイチは100階に挑むことになったのだ。
必要な協力は取り付け、万が一の際の始末も段取りをつけている。
あとはそう、リュウイチ本人と、ミイナの感情くらい。
最期になるかもしれない別れを惜しむ時間。
こうなった流れをリュウイチは思い返す。
ピーチガールズ未帰還からすでに1週間が過ぎていた。
彼女たちに遅れて、別のパーティが100階に挑み、同じく未帰還となっている。
生きていて、スキルが使えれば『帰還』によって帰ってくることができるはず。
それができない状況となると、最悪の可能性が浮かび上がってくる。
つまり、100階進入と同時、もしくは少なくともスキルを使う間もなく全滅したということだ。
ピーチガールズは世界トップクラスのスキルポイント量と経験を持つパーティで、彼女らがそんなふうに何もできずに全滅するというのは、99階までの難易度と比較してあまりに逸脱しているように考えられた。
次の可能性はスキルが使えないという状況。
リュウイチたちが招かれた黄昏の世界においてはスキルを使うことができなかった。
同じような状況が100階で起きていたとすれば。
しかし、この仮説も覆された。
決死の偵察を試みたパーティが100階に入ってすぐ帰還したのだ。
100階に踏み込んだ3組目のパーティは、かつての『ヒヴァ山のダンジョン』のトップパーティであり、ピーチガールズと『ご近所トップパーティ同盟』を結んでいた。
80階攻略にも協力しており、ダンジョンは攻略されるために存在しているという持論をもっていた。
攻略の糸口をつかむための偵察に名乗りを上げ、そして情報を持ち帰ったのである。
彼らが持ち帰った情報により、100階のボスも明らかになった。
剣を携えた牛頭の人型モンスター。そして多様にして無数の鬼モンスターの軍団。
それが100階のボス。
これまでにも無数の鬼とそれを率いる者という構成のボスは複数回存在していた。
指揮官にして中心であろう牛頭モンスターは初見だが、これまでの経験から適切な戦術とスキルによる力押しによって十分倒しきれるのではないかというのが、偵察隊の見立てだった。
ピーチガールズはともかく。2つ目のパーティがこの段階で帰ってこなかったのは勝てると判断したからだろうと。
そして実際に勝ったのではないか。
2つのパーティが消息を絶ったのは、100階攻略後ではないだろうか。
リュウイチたちはそのように結論を出し、ではどうすれば2パーティを救出できるのかの検討に移った。
しかし情報が足りない。
確かなものは何もなく、それこそ偵察を出して情報を集めるしかない。
もう一度偵察を、今度は100階を攻略するところまで進めてみようか、となったところで、リュウイチはあることを思い出した。
そして餓鬼玉を手に、ダンジョン協会最寄りの神社を訪ねたのだ。
そこでリュウイチは、もう一度スピリチュアルな体験をすることになる。
黄昏の世界には招かれなかった。
しかし、本殿の前で柏手を打った瞬間に周囲のすべての感覚がなくなり、一つの強烈な存在感を有する者が現れたのだ。
『よくぞわが使命を果たした。報いを与える。希望があれば述べよ』
100階は攻略されていた。
黄昏の世界で、あの存在は告げた。
果たせば、報いを与える、と。
果たすべき使命はつまり、氾濫防止であるとリュウイチたちは解釈し、そのために活動してきたのだ。
そして目的は果たされ、今、報いを授かることができるようになったというわけだ。
しかも希望を訊かれている。
どんな報酬も思いのまま、ということはないだろうが、融通をきかせてくれるということだ。
リュウイチは言った。
「100階を攻略した仲間が音信不通になりました。彼らを戻すにはどうすればいいでしょうか」
リュウイチが求めたのは情報だった。
100階から先、帰還できないことはわかっている。
攻略したら一度戻ると言っていたピーチガールズが帰らず、また続くパーティも同じくだ。
帰れない理由がある。
だが帰れない理由を聞いたとしてどうなるか。
死んだと言われればどうしようもない。
だが何らかの理由があって帰れないとしたら、どうだ。
次はどうすれば帰ることができるかを聞かなければならない。
そこで直に帰る方法を尋ねたのである。
絶対に帰れないならそう答えが返ってくるだろう。
そうでなければ帰る方法を知ることができる。
しばらく無音が続いた。
リュウイチがいぶかしく思い始めたころ、ようやく答えが返ってくる。
『古事記に書いてある』
ネットミームかな?
リュウイチはそんなことを思い、もう少し詳しい説明がないか待ったがそれらしい言葉は続かなかった。
『報いは与えた。他の二人にも来るように伝えよ』
そう聞こえた瞬間、すべての感覚が戻ってきて、リュウイチは神社にいることを自覚した。
こうしてリュウイチの2度目のスピリチュアル体験は終わった。
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最後まで書き終わったので明日いっぱい投稿します。




