060.組織編成、そして
新たに部を設立したことで、元の業務も育成事業部として組織化した。部長はリンゴである。
とはいっても、リンゴはピーチガールズの活動もあり、そもそも期間限定なので、半分はリュウイチが兼任しているようなものだ。
班長からサポーター育成課の課長を抜擢、スキルポイント獲得サービスはそろそろ締めてサポーター取得サービスに変更するのでトップ探索者勢で回り持ちで回す。
さらに、特殊企画部をリュウイチの部長兼任として、実際のまとめ役をサイトーに任せる。難病の治療法を探そう会疫病のダンジョン支部はピーチガールズ同様期間限定の従業員なので役職には就けない。
リンゴ部長はまあ最初期からのメンバーなので立ち位置をはっきりさせるためだ。何かあったらこの人に聞いてくれという効果を見込んでのことである。
次代の部長の選抜を任せてあるので満了までにうまくやってくれるだろう。
そして、なぜ今まで気づかなかったのかと営業担当を置いた。
脱サラ探索者の従業員に声をかけて回ったところ、探索者になったのにまた営業は、と断られる中2名が手を挙げてくれたのだ。
偶然か、2名ともダンジョンの帰還ポイントを取りに行った者だった。
あの仕事で昔を思い出したのかもしれない。
ともあれ、これで他ダンジョンの協会などとの話し合いを任せられる。
ただし、国相手だったり組織編成が必要になりそうな大規模な話はまだリュウイチが担当することになった。
将来的には規模と権限を強化して全部任せたいが、氾濫防止を成功させて方針を改めるまでは現状までとリュウイチは考えている。もっと長引かなければだが。
最後に、マリカは代表秘書ということでリンゴについて勉強したりリュウイチの代わりとして動いたりしている。
というわけでひとまずの組織編成が完了した。
代表、代表秘書。営業担当。
育成事業部。サポーターを育成し増やす。ピーチガールズ他。他ダンジョン派遣も。
資源回収部。トップ探索者の支援。ブルーオーシャン他。
特殊企画部。現在は『健康』取得事業関係。難病の治療法を探そう会。
web対策部。広報を兼ねる。スキル情報の集積も。
経理部、総務部。
加えて、折衝がうまくいけば帰還ネットワーク事業部も立ち上げることになると思われる。
だいぶ仕事を分散できたように見えて、実際には立ち上げ直後の各部署からの問い合わせやら何やらでむしろ忙しくなったが、これは一時的なものだとリュウイチは粛々と働いた。
最初に状況が動いたのは帰還ネットワークであった。
主体はダンジョン協会で、責任者も同じく、実働要員をR・ダンジョン支援合同会社に外注する形だ。
ひとまずいくつかの僻地にある支部を探索者が多い協会に結ぶラインを開設、ダンジョン協会の許可を得た探索者のみが利用できるという条件付きでダンジョン庁が国交省と話をつけたらしい。
しかしサポーターなら自前で移動できるのであまり流行らないだろうという見込みだが、固定で報酬が出るのでR・ダンジョン支援合同会社としては問題ない。
僻地のダンジョンだと非常時の避難、逆に戦力を送るために活用する前提なので複数個所に『帰還』できるサポーターを増やしてほしいという打診があった。
というわけで帰還ネットワーク事業部を立ち上げ、当面責任者以外は別部署と回り持ちで帰還ポイントの確保と経験を積むということに。
次に『健康』取得事業。実際にダンジョンに入って難病患者に『健康』を取得させる試みが実行された。難病の治療法を探そう会とダンジョン庁所管の研究所が動き、リュウイチは立ち会っただけだった。必要と言われていた医師は予想通りに確保された。手を尽くしてもどうにもならなかった病状を快方に向ける可能性があるならと、被験者を診ていた医師が動いてくれた。
『健康』の取得、僧侶の回復スキルの行使それぞれを試し、結果については予後も含めて報告待ちである。
しかし、ダンジョン庁とこの医師による抜け駆けは、予想通りに問題視され、厚労省や医師協会から慎重さが足りないだとか、性急に過ぎるなどと非難を受けることになった。反ダンジョンの活動家がにわかに活気づいたが、不思議とR・ダンジョン支援合同会社の周辺には現れず、web上では例によって炎上した。
矢面に立ったのはダンジョン研究所だが、関係したとしてR・ダンジョン支援合同会社はまた炎上、難病の治療法を探そう会も非難を受け、患者や医師の実名も報道された。
しかし、結果として難病の治癒例が出たことで風向きが変わる。
ダンジョンを利用した難病治療の論文が各国の大学、報道機関に送られ、それとは別に実名をばらされた患者の苦難の闘病生活、その身内の苦悩が、どこからともなく広まった。
結果として、世論は『健康』スキルに対して好意的な見方がやや優勢というところまで盛り返す。
しかし、医療業界の今後という課題が残り、大きな議論が巻き起こった。
これらと並行して、ダンジョンの攻略もなかなかの波乱が起きていた。
80階のボスである八つ首の竜が、無限に再生して倒せないという事態が発生したのだ。
正攻法で行き詰った探索者側は、逸話になぞらえて攻略することを試行。大量の酒を持ち込んでみたところ、ボスは眠り込んだが再生は止まらなかった。
しかし一定の効果が認められたことで、方向性はあっているのではないかと酒と武器について検証が進められ、最終的に『大江山ダンジョン』で強力な酒毒を手に入れてこれを飲ませ、『剣ダンジョン』で手に入れた竜に特効がある剣で首を落とし、腹を切り開いて尾を刻んだ。
このようなギミックを必要とするボスは『疫病のダンジョン』においては初めてであり、複数のパーティと、R・ダンジョン支援合同会社、そして自衛軍までが協力することでようやく攻略できた。
他のダンジョンの攻略も必要とされたことでダンジョン同士が互いに影響しあっている可能性が指摘され、90階100階の攻略が危ぶまれた。
のだが、90階は80階のようなギミックはなく、経験と高レベルスキルの力で押し切ることができるボスで、結果として99階までは順調に攻略が進んだ。
91階からは、ダンジョンにして草原で、多様な種類の草が生えており、定期的に炎が押し寄せすべて焼いてしまい、しばらくするとまた草が生えるという厄介な階層だったが、この草を調べたところ、薬の原料として有力であることがわかり、薬学業界に新たなダンジョン効果が波及した。
しかし、『健康』スキル問題で複雑な状況であったところへの燃料となり、ますます混迷を深めることとなった。
R・ダンジョン支援合同会社が直接関わらない場所でも、有名人がうかつな言動で炎上に巻き込まれたとか、自衛軍が公式に同盟国軍へスキルの供与を行ったとか、それを受けて仲の悪い国が挑発的な行動を強めるとか、いろいろと騒がしかったが、直接関係ないことは努めてスルーしてR・ダンジョン支援合同会社は業務に力を注いだ。
他小さなところではミイナが退職し、夢であった専業主婦となる、のかと思いきや、当面はR・ダンジョン支援合同会社の代表秘書として働くことを決めた。マリカの後輩になるわけである。
子どもが出来るまでは、とは本人談。
従業員が4桁に到達したとか、実家からそろそろ顔出して報告するように催促されたとか、そういった些細なことはいろいろとあったが、状況を滞らせるようなことは起きていない。
そして、R・ダンジョン支援合同会社を立ち上げてから42日目。
「それじゃあ行ってくるわ!」
ピーチガールズリーダーのモモが胸を張ってそう言って、仲間のリンゴ、カリン、スイカ、ナツメ、シトラスも手を振って。100階攻略に向かうのを、R・ダンジョン支援合同会社の従業員が大量に詰めかけた旧体育館で見送って。
そしてピーチガールズは帰ってこなかった。
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書いてて面白くないかなと思ってエピソードを丸めて話を進めました。個別に読みたいエピソードがあれば教えてください。検討します。
巻いて打ち切りというわけではないです。




