058.資源回収部
トップ探索者パーティがR・ダンジョン支援合同会社の従業員となった。
「では、資源回収部の部長と、その補佐ということで」
「すまないね、こんなちょうどいい仕事を、しかも役職まで」
「いえ、こちらとしても経験豊富なみなさんの力を貸していただけるのは非常にありがたいです」
探索者パーティ『ブルーオーシャン』はダンジョン黎明期から活動してきたパーティであり、一部メンバーの入れ替わりを経験してはいるものの、大ベテランのトップパーティとして知られている。
中身は気のいい、しかし荒事慣れしている者特有の雰囲気を持つおじさんたちだ。
なぜそんな大物がR・ダンジョン支援合同会社に来ることになったかといえば。
「そろそろ落ち着けと妻が言うんだよ」
「まあいい歳だしな」
「そろそろ後進に抜かれてやらにゃ」
わっはっは、とオジサンたちが笑う。
「まあ実際のところは、もう一度新しい時代をイチから始めるのはちょっとな。若いのに頑張ってもらいたいところだよ。有り体に言えば疲れたってとこかね」
年齢による衰えは実際にあるのだろうし、身内に危険な仕事を引退しろと言われることもあるだろう。
だがそれ以上に、ダンジョン時代を切り開いてきたベテランが、スキルポイントが飽和した新しい時代に再出発するのは若いものに譲る、と言っている。
疲れたというのも嘘ではないだろう。
これから、いやすでに、新しい競争が起きてダンジョンにまつわる勢力は再編されると思われる。
その中に身を投じるのに躊躇する程度には、思うところがあったのだ。
そしてこれまでに十分稼いだだろうし、余生をのんびり暮らすだけの蓄えはあるとなれば引退を考えるのもわかる気がする。
「いやいや、まだまだ余生なんてな」
「この年で引退ってのもよ」
「かといって今更普通の仕事ってのも無理だろ」
「余生なんてよせい」
「……」
「……」
「……」
アラフィフで余生なんて、と思うくらいには元気のようで。
「ブルーオーシャンの皆さんならいくらでも欲しがる口があると思いますけど」
「なに、社会貢献ってやつよ」
「タレントとかコメンテーターとかは要らんこと言って顰蹙買いそうだし」
「ダンジョン協会もなあ。長い付き合いだがその分思うところもあるしな」
「嫌になったら辞めやすそうだし」
これまでにもオファーはあったらしく、しかし気が乗らないので断ってきたらしい。
そして社会貢献ときた。
R・ダンジョン支援合同会社の事業はそう見られている?
リュウイチは首を傾げた。そこそこアコギな真似をしている自覚があった。
「そりゃ独占すればやりたい放題だったのにこうして広めているしな」
「嫉妬を買って潰されてたんじゃないですか。私、荒事は素人ですし」
「あっという間に大企業を作り上げた手腕があればどうとでもできたんじゃないか」
作り上げたとほめられるほど組織を作り上げられてはいないのだが。
リュウイチはしかし褒められるのは悪い気分ではなかった。
そんなわけでダンジョンの最前線から身を引いたが、完全に引退するのをためらう程度に後ろ髪をひかれダンジョンを離れないことを選択したブルーオーシャンの面々が、R・ダンジョン支援合同会社に所属する運びとなったのだった。
そして翌日、ブルーオーシャンの話を聞きつけたパーティが二つ増えた。
「というわけで、このたび、資源回収部を設立することになりました。部長のブルーオーシャンでリーダーをやってらした、マルガミさんです」
「よろしく頼む」
拍手。
旧体育館の会議室。
元トップ準トップ探索者の新従業員と、ほかの従業員から希望者を選抜したメンバーに代表のリュウイチ、秘書見習いマリカという面々だ。
マルガミを含むベテラン探索者と、年齢的には子どもでもおかしくない若手の世代とでうまくいくかは少し不安があるが、まあ始めてみてからだろう。
「資源回収部の目的はダンジョン資源を流通させることだ。最深部に準ずる階層の資源を集め、トップの後押しをする」
資源のニーズをある程度満たすこと、そしてトップパーティに装備などの供給を行うこと。これによりダンジョン攻略支援とする。もちろん対価はいただく。
トップパーティがダンジョン外からあれ取ってきてこれ取ってきてと使い走りにされないだけでも役に立つかと思われる。
「それと並行して、従業員の底上げを行う、教導が第二の役割だ。パーティで50階突破できるようにな。まずはうちの部所属の者からだが」
『疫病のダンジョン』50階のボスは51階以降の予行演習のような構成で、それまで出現したモンスターの軍勢とでも言うような規模の戦いだ。
これを突破できれば51階以降の湧き出るモンスターと戦えるようになり、資源の回収もはかどるだろうというわけである。
そのためにはスキルによる基礎能力の向上だけでなく、立ち回りを習熟しなければならない。
ベテランのブルーオーシャンはその指導役としては適任だろう。もし指導が下手クソだった場合は考え直さなければならないが、新人指導も経験しているというので大丈夫だろうきっとたぶん。
ブルーオーシャンを追ってきた2パーティを含め、持ち回りで資源回収、指導を行ってもらおうという目算だ。
さらに社内貸し出し用の装備を備蓄するという第三の狙いもあった。
装備がよくなれば安全性も上がる。
最前線に供給するには足りないが社内で使うには十分な程度のランクの装備を確保するのだ。
従事する従業員には資源の水揚げの一定割合を給料に加算する。
会社がずいぶんアコギなことをしているように見えるし実際独立したほうが稼げるだろうが、探索に必要な物資の支援や、多くの面倒ごとを会社が請け負ってくれたりというメリットが一応ある。それで満足できなくなるほど元気なら独立してしまっても構わないと割り切ることにした。
「ではまずは従業員の装備を更新する。予算はもらった。首都のダンジョンデパートに出発だ」
「おおー!」
というわけで、資源回収部60名が旅立った。『帰還』で一瞬だが。
向かった先でブルーオーシャンがR・ダンジョン支援合同会社に所属したことが広まり、ネット上でのR・ダンジョン支援合同会社の炎上の燃料が増えたが、リュウイチはweb対策部に丸投げしていたので直ちに影響はなかった。
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