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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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056.おやすみ

予約投稿7時のはずが17時になってました。ごめんなさい。

 『秘密のポケット』にはちょっとしたものを入れられる。

 拳一つに満たないその容量だが、コインを入れたり工具を入れたり、スキルレベル1ではそんなところ。

 収納取り出しは手の届く範囲に好きなように取り出せるのがまた便利。

 例えばルパンの3代目のように便利な道具を潜ませたり。

 例えば胸の間から明らかに隠せない大きさのものを取り出したり。

 そんな使い方を想定しているのではないかと思わせるスキルである。


 一つのポケットに一つしか入らないのは不便と見えるが箱や袋に仕舞えば一つ扱い。

 そしてスキルレベルの上昇で容量と数が増える。

 100レベルで100個、容量100倍。

 『盗賊スキル強化100』でそれらが10倍。

 『サポーター』などで取得可能な『所持容量増加』の影響も受け、レベルをさらに上げれば相乗効果でさらに増える。

 どこに何をしまったか忘れてしまうこともない。いつでも何を持っているか知覚できるというど忘れ対策もばっちりだ。


 このスキルを使えば引っ越しなど簡単なものだ。


 しかしリュウイチは引っ越しにこのスキルを最小限しか使わなかった。


 梱包から輸送、家電の設置まできちんとやってくれる業者をビルの管理人に手配してもらえていたからだ。

 洗濯機の設置とか、様々な配線とか、運ぶのは簡単だが面倒な手間があるものは任せた方が楽である。

 貴重品や壊れ物を少々自分で運んだが、基本は業者にまかせたのだった。

 古いゲーム機やめったに使わないキャンプ道具、ミイナにばれている夜のおかずなど処分するか検討中のものもポケット行きだ。

 古い雑誌は思い切って処分する。いやダンジョン系は事務所に置いておこう。


 そのように引っ越し作業は終わった。

 ミイナのほうも似たようなものだったようで、合流して仕出し弁当を業者の方にも出しつつ自分たちもいただいて、あれやこれやとやっていたら夕方で。


「終わりましたねー」

「終わっぐえー」


 日曜日、1日かけて引っ越しが終わり、まだ自宅の匂いになっていないリビングのソファでリュウイチとミイナはだらりと重なっていた。

 リュウイチが少々だらしない感じに座っていたところに横向きに上からミイナがのっかってきたのだ。

 リュウイチの実家の猫がよくやるやつだ。そこから箱座りには移行しなかったが。


「ついに同居ですよ」

「ついに完全に侵食されてしまった」

「侵食って何ですかもう」

「だって俺の部屋、ミイナの私物一杯あったぜ」

「そりゃそうですよ」

「こいつ、何の落ち度もないって顔をしていやがる」


 うつ伏せで足をパタパタ動かすミイナの背中を、リュウイチはぺしんとはたいた。


 もともと半分同棲していたようなものなので、自分の生活空間にミイナがいるということにすでにリュウイチは違和感を覚えない。

 部屋が増え設備もよくなっていることに対する違和感のほうが大きい。

 それも使っているうちに慣れてくるだろう。


「ねえ、リュウイチさん、なんか大変なことになってきましたねー」

「だなあ」


 足をパタパタさせながらミイナが言う。

 微妙に動いてこそばゆさをリュウイチは感じるので先ほどはたいたところを撫でて返した。


「でもわたし思うんですよ」

「なんて?」

「これでリュウイチさんが完全にわたしの支配下に堕ちたからそれ以外のことは別にいいかなあって」

「なんなの、ミイナさん魔王か何かなの?」


 なんだかんだあるけれど、一緒になれたことがうれしいとミイナは言うが、リュウイチとしてはそれだけで満足したくはない。

 そんなことをどう伝えようか考えているとミイナが先に口を開いた。


「そうだ、リュウイチさん」

「なによ」

「あなたとダーリンと旦那様とご主人様と、他でもいいですけどどれがいいですか」

「ちょっと待って」

「10、9、8、」

「カウントダウンするなよ」

「もう我慢できねえゼロだー!」


 器用にうつ伏せから仰向けに体勢を入れ替え、両手をリュウイチに伸ばしてくるミイナ。腰が反って辛そうである。

 リュウイチは右手でミイナの手を取って、左手を肩に回して起こしてやった。


「ミイナ、これからもよろしくな」

「はい。これからも、よろしくお願いします」


 もぞもぞとリュウイチの上から退き、ソファの上で正座をしてぺこりと頭を下げるミイナ。合わせて、リュウイチも姿勢を正して頭を下げる。


 二人は頭を上げて見つめあい、幸せなキスをして夜の部へ、と行きたいところだったが今日の晩御飯がまだだった。

 リュウイチの胃袋支配に殊更熱意を燃やすミイナがそれを捨ておくことはない。


「今日はそばかな?」

「そのつもりですよ。上と下への差し入れ分も」


 引っ越しそばは挨拶であって自分たちで食うものではない、という説もあるらしい。

 しかしそれがどうしたと、ミイナは楽しそうにそばの用意をしていた。

 さすがに自分で打ちはしないが、つゆは作る。

 だしを取った後の昆布と鰹節で佃煮も作る。

 そばは先日のダンジョン巡りのお土産の乾麺だ。

 ネギもたっぷり刻んである。


 据え付けだったキッチンは、リュウイチのアパートの物よりグレードの高いもので、ミイナ曰くまあまあですねという評価。


「子どもができたらまた引っ越しますからその時はもっとこだわりましょう」

「その予定初耳」

「いっぱいほしいので協力してください」

「マジかー」


 兄弟がいっぱいほしかったらしいミイナがリュウイチの知らない予定を話す。

 まあいいかなと思える程度にミイナをかわいいと思っているリュウイチには特に異論は出なかった。稼がないとなあと思ったくらい。

 マリカとピーチガールズ6名と事務の2人の9人を招待するとさすがに狭く感じたので、いっぱいとなるとやはり引っ越しは必要になりそうだ。



 とはいえそれはそれとして。


 そば会を解散し、片付けも風呂も終えてからベッドルームにて。

 知らないうちにベッドがキングサイズになっていた件について、確認しておかなければとリュウイチが考えていたところ。


「ところっていうかリュウイチさんが最近モテてるのが気に入らないので今後ダーリンって呼んでいいですか」

「人前は勘弁して」

「じゃあ愛しいしと」

「指輪かな?」

「首輪をつけてご主人様」

「ゆるして」

「どれがいいんですか!」


 怒れるミイナとの長い戦いの末、プライベートではその時の気分で子どもができたらお父さんお母さんと呼ぶということで合意が結ばれたのだった。

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[一言] 愛しいひとで指輪と返すとは洒落てますな〜
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