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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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053.夜会話

 これまでのダンジョン協会の新人研修は、主にダンジョンの仕様を教え、ソロの危険を説き、パーティ組んだほうがいいよと説くところまでだった。


「合わない相手と組むくらいならソロのほうがマシじゃん。でしょ?」


 とナツメが言うのも間違いではない。パーティを組む数多くの利点以上に合わない相手と組むことの不利益は大きい、こともある。

 逆に言えば合う仲間を探してくださいねという話なのだが。


 ダンジョン協会の新人研修ではパーティを組んだ後のことに関しては極力干渉を避けていた。


 その理由の一つは可能性。

 ダンジョンは未知の存在だ。これに対してアプローチする探索者に先入観を持たせるのは悪手だという考えである。もっとも、出現から30年も経った今ではネット上など様々な場所に情報があり、この意図はあまり機能していないだろう。


 もう一つはあまりにケースバイケースであること。

 パーティにセオリーはあっても絶対の正解はない、とある探索者が言ったという。

 クラス構成、個人の性格や能力、人間関係、パーティごとに事情が違う。となれば、正解も違ってくるのが当然なので。

 短期間の新人探索者研修で教えるにはあまりにも向いていない。


 それでも、セオリーがあるならそれを教えればいいじゃないかという意見もあるだろう。

 しかし、セオリー通りにやって必ずうまくいくとは限らない。

 過去にうまくいかずにモンスタークレーマー化したり、全滅して問題視されたことがある。

 結果、注意喚起はするが具体的にどうするかという部分は扱わなくなった。



 つまり、パーティ内の役割分担だとか、そういう実際的な話はリュウイチたちにとってあまり馴染みがないものだった。むしろゲームの中のそれの方が詳しいくらいだ。



 野営の準備中、携帯トイレの必要性と有効性を熱く説くモモに若干引きつつも徐々に話に引き込まれているR・ダンジョン支援合同会社勢の女性陣、顔を赤くしている男性2名を横目に、リュウイチは新人探索者研修のことを考えている。


 ダンジョン内の野営はやらずに済むならそれに越したことはない。

 しかし、これまでは『帰還』でダンジョン内に移動することができなかったので必須だった。ダンジョン深部へたどり着くのに何日もかかるのは当たり前だった。


 現在は状況が変わったが、サポーターがいないパーティでは依然として必要だ。

 また、サポーターがいてもマップのない階を効率よく探索しようと思うと必要になることもある。


 ということは最前線以外、資源の収集が目的であれば不必要になるだろうか。

 知っておき非常時のために準備だけでもしておくように指導したとして、荷物が増えるのを資源収集目的の探索者が許容するかは疑問である。

 とはいえ新人向けの研修に入れるかどうかは。例えば自力で5階を攻略した探索者向けの研修とするのはどうだろうか。

 仕事が増える。というのは儲かるということでもある。



「まあ『睡眠』ある程度持ってるとここまで準備要らないんだけどね!」


 ノリノリで野営について語っていたモモがそう言って締めた。

 確かに短時間で十分な睡眠をとれる『睡眠』スキルは有用だが、締めがそれというのは台無しではないか。


 場所の選定から最低限必要な道具、あったら便利な道具、見張り役の選び方、寝付けない時の対処、他の探索者の危険性など有用だと思って聞いていた説明を一撃で陳腐化させてしまった。

 皆のやる気が落ちている。

 リュウイチは何か言うべきだろうと口を開いた。


「今モモさんが話してくれたことは、短時間の休憩でも応用できるし、今後スキルを無効化する何かが出てくるかもしれない。スキルなしで可能な技術や配慮は身に着けておいて損はないし、それで生き延びることもあるかもしれない。せっかくピーチガールズが時間を割いて教えてくれているんだから、しっかり経験して帰ろう」


 自分でもあまり役に立つことはないだろうなと考えながら言った言葉だが、一応の効果はあったようで、皆それなりのやる気を取り戻した。


 スキルの無効化は黄昏の世界のことを考えれば絶対ないとは言えない。

 リュウイチが知った事実からすると、ダンジョンはまだまだ浅瀬と言っていい。今後そういったなにか、罠やギミック、道具や攻撃が出現する可能性は十分にあるだろう。

 とはいえ、あれだけの特殊な状況でなければ確認されていないのでまだ現実感が乏しいのだけれども。


 階段のすぐ近くにはあまりモンスターが近寄らない、なんてのは通常の探索でも役に立つかもしれない情報だ。

 いないはずの場所にモンスターがいたら異常だと判断できる。


 ダンジョンの床に長時間座ると尻がいたくなるというのも、快適な現代の暮らしをしている者にとっては盲点かもしれない。

 ちょっと考えればわかるが、案外気づかないようなことは、時間に限りがある研修でもついでに教えられるのでストックしておく。


 ダンジョン内野営の訓練は実際に眠ってみるという段階に入った。

 1時間ずつ交代で眠る。各人の『睡眠』レベルは普通ならそれで充分なレベルになっていた。

 前後半はパーティ混成だ。何かあったとき『パーティ内意思疎通』を利用することを想定している。一つのパーティが全員寝てしまうと意味がない。


 リュウイチと男性の部下2名、モモ、シトラス、ナツメというパーティだったが、今起きているのはリュウイチ、男性1名、女性1名、カリン、スイカ、ナツメというメンバーだった。

 カリンが人気者で、部下2人が話しかけている。『気功使い』はこの国のある年齢層と、あるジャンル好きにとっては憧れの存在である。

 結果余った3人で固まることになる。『巫女』スイカと『シャーマン』ナツメがリュウイチを挟む。


『リュウイチさん嬉しそうですねえ』

『待て、誤解があると思うんだ可愛くて心の広いミイナさん』

『これが通じる間はセーフですかね? 同時に複数人愛した場合はどうなるんでしょうか』

『試さないから安心して?』


 愛の絆の指輪で会話しながら、ピーチガールズの二人と会話する。


 ナツメとは今回そこそこ話した。パーティに魔法的支援効果を与える支援役であり、切り札でもあるらしい。

 戦闘においては一歩引いたポジションなので後ろをついていく際に物理的に距離が近かったことが話ができた一因だ。『パーティ内意思疎通』を使えば距離は関係ないが、パーティ内全員のみにつながるので戦闘の邪魔になったり隣にいる別パーティの人に通じなかったりで今回は不向きだった。


「見た目地味だけど前衛二人を支援すると戦力3~4倍になるから、うち一人で4~6人分働いてるわけよ。でしょ?」


 長柄の武器を狭いダンジョンで器用に振り回すスイカの役割は回復役である。


「無事な時は働いていない役立たず扱いされるのが回復役の欠点なんですー」


 なので回復役は何か別の役割を兼用するのが定番なんだそうで。


「スイカさんいじめられてるの?」

「そうなんですよぅ」

「いやないから。この人怒らせていいこと何もないから。めっちゃ怖いから」

「ナーツメちゃーん?」

「助けて代表さん!?」


 リュウイチを盾にするナツメ。ふんすと腕を組み怒ったふりをするスイカ。なんでもいいが大きなものが揺れ『リュウイチさん?』まあ二人はなかよしということで。リュウイチは誤解(誤解ではない)を解いた。


 いざという時を考えれば回復役を敵に回すことはありえないとちょっと考えればわかりそうなものだが、意外とわからない人もいるという。

 もちろんピーチガールズはそうではない。

 ネット上の回復役のコミュニティや実際に聞いた話として、そういった例があるのだそうで。

 サポーター蔑視と近い話かもしれない。

 余裕がある階層で資源を収集するのであれば回復役は外す候補に入るのはありうる話だ。必須なのは未熟な頃と何が起こるかわからない最前線。


「どんな状況でも必要なのは攻撃役ですねー」

「物理攻撃が利かない相手もいるので魔法的攻撃手段も用意すべき、でしょ?」


 攻撃役は人気だし貢献もわかりやすい。モンスターとの戦いがある以上は外せない役割だ。

 敵戦力が一定以下なら全員攻撃役が最大効率になる場合もある。


「敵の数が増えて一度に対処できなくなるとー、足止め役が欲しくなりますねえ。タンクですー」

「なんかゲームでそう呼ぶそうよ。でしょ?」

「ですー」


 一度に倒せないなら一時的に拘束すればよい。そのうち、敵の注目を集め自分を狙わせる役割をタンクと呼ぶそうだ。ゲーム用語としては有名な部類で、リュウイチも聞いたことはある。


「うちだとモモとカリンとスイカとリンゴとシトラスとうちがタンクできるね」

「呼んだね?」

「呼んでないよ」

「そっかー」


 自分の名前を聞き付けたか、カリンが話に割って入ってすぐに去っていく。リュウイチはツッコミを入れるタイミングを逸した。

 それでもなおツッコむ。


「全員じゃねーか」

「慣れてくると役割のスイッチもやるのよ。ねー?」

「高度な柔軟性を保ちつつ臨機応変にですねー」

「それ行き当たりばったりのだめな奴では?」

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