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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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052.ダンジョンのこと教えます

 モモたちの話によると、50階台、11層はこれまでに出てきたモンスターが群れになって襲い掛かってくるという比較的わかりやすい、パワープレイが通じる階層なのだという。

 これが60階台、13層になると、洞窟の床、壁、天井が粘菌のようなもので覆われ、陸貝のようなモンスターがはじけるように飛び出してきて、接触した場所は青黒く変色して自由に動かせなくなる。強力な『病気』状態になるのだそうだ。『病気耐性』『状態異常耐性』の合計で+900%以上あっても影響を受けることから耐性を無視するか、病気化+1000%のような仕様なのではないかと考えているらしい。

 また、巫女の『祝詞』や僧侶の『病気治療』『解呪』によって回復できるので病気と呪いの複合攻撃ではないかと見当をつけているとのこと。


「というわけだから! 61階以降は! 稼ぐための狩りには向かないと思うわ! 匂いも! ますます! ひどいしね!」


 ばったばったずんばらりと鬼を切り捨てながら話すモモ。

 別方向からくる鬼を体術でさばきつつ、時に気功波で押し戻すカリン。

 モモの話の隙間を縫って銃声をとどろかせるシトラス。

 あまり広いとは言えない空間で器用に槍を振り回して漏れてくるモンスターを両断するスイカ。

 一見何もしていないように見えるが、スキルで支援を送りつつ後方警戒をしているナツメ。

 どこにいるかわからないが突然現れてモンスターの急所を貫いたりモモの補足説明を入れたりするリンゴ。


 どうやらと言おうか、当然と言おうか、51階のモンスターは群れをなしてもピーチガールズの相手にならないらしい。

 モモはもちろん、シトラスも明らかに手加減しているし、カリンは魅せプレイをしているようにも見える。回復役だというスイカが回復スキルを使わず攻撃ばかりしているのも戦況に余裕があるのだろう。


「いえ、回復役が攻撃をするのが必ずしも余裕のあらわれとはかぎりませんよ」

「そうなのか?」

「いわゆる攻撃が最大の防御となる状況だと回復役も攻撃に回らざるを得ないことがあります。とはいえ、今回は余裕であることは確かですが」


 リンゴが現れて解説して消える。


 リュウイチたちがこのモンスターの群れに挑んだらどうなるだろうか。

 実際にやってみた。


「あ、無理手数が足りない」

「武器が壊れちゃいました」

「痛い!」

「ごめん誤射しちゃった」


 1度目は敵の波にのまれて乱戦になりピーチガールズに救出してもらい。

 2度目は6人でアウトレンジから魔法攻撃を連打したが徐々に押し込まれ1度目の二の舞。

 3度目は前衛後衛に分かれてみたが火力密度で2度目に劣ったことですぐに接近されてからは誤射も発生し同じ結果に。

 4度目は石を投げまくった。魔法と違い詠唱時間を取られない分耐えることができたが石の在庫がなくなり次第以下同文。

 5度目は範囲魔法の3段撃ちをやってみたところ何とか拮抗を作ることに成功したが後ろから寄ってきた敵をピーチガールズが処理してくれていなければ同じ結果につながっていただろう。


「立ち回りは一朝一夕では身につかないデース」


 シトラスの外見と口調でさらっと四字熟語が出てくるのは面白いというか怪しいというか、と思いながら、リュウイチは考える。


 攻撃は有効で敵の攻撃はほとんど痛くない、動きの速さも勝っている。

 戦いに使うスキルも持っているし使っている。

 能動的に使うスキルはコマンドアクションや格闘ゲームを想像すると近いだろう。

 レベルを上げると効果が改善したり融通を利かせられるようになる。

 当然というか、使えそうなスキルはこの階層では過剰ではないかというレベルで取得しているので強化されている能力と合わせて倒すための威力は十分なはず。

 なのに押し込まれるのは数で押してくることと、敵が間を抜けて乱戦にしようとしてくることが原因だとわかる。

 先ほど挙げた格闘ゲームでいえば、ボタンをガチャガチャ動かしているだけといったところだろうか。相手が弱ければ押し切れるがちゃんとした技術があったり相手のほうが手数が多かったら封じられてしまう。


 こちらも戦い方を教えてくれるスキルはある。『戦術』などはその代表だろう。

 だがそれは提案のようなものでいくつかの候補が頭の中に浮かび上がるのだ。

 どれを選んだら結果どうなるという予測まで。だが、戦いという一瞬一瞬の判断が求められる状況でどれがいいかと選ぶのは悠長に過ぎるし、選択肢自体が次々に増えて減って増えてと変動していくので追い付かない。


「目的と優先順位を意識しましょ。おのずと余計な選択肢が消えてくよ」


 『シャーマン』ナツメがリュウイチたちを助けながら助言をくれる。


「目的と優先順位ね」


 仕事でも様々な条件をもとに優先順位を決めてタスクを処理していく。

 緊急性、重要性、人に投げたほうがいい案件、並行して進められる案件など様々な基準で順序を決めて手を付ける。

 条件と場合分けで選択肢を絞っていく、プログラミングとも似ている。

 なるほど、なんとなく敵を倒す味方を守るだけ考えて動くから選択肢が無数にあらわれるわけだ。

 入力があいまいだから出力もぶれる。取捨選択の記述がすくないから候補も増える。


 スキルは応えてくれていた。使いこなせていなかっただけだ。

 だから――


「――どうすればいいんだ?」


 優先順位のつけ方がわからない。

 目的はいい。敵のせん滅……ではなく全員の生還だろう。

 だが、優先すべきことは何かと言われると。


「全滅する時、誰から順に死ぬべきか、でしょ。あ、殺すべきか、かな」

「殺す?」

「んで、負傷するなら誰からか。次に行動を制限されていいのは誰からか、でしょ。これはパーティで考えて共有しとかないといけないかなー」


 物騒な言葉選びだったので戸惑ったが、言葉が続くとリュウイチにもナツメの言いたいことがわかってきた。

 ゲームなんかでやっていたことだ。

 復活呪文を持つヒーラーは絶対に守らなければならないので戦士は最優先で守り万一ヒーラーが死んだら即、戦士が唯一持っている自己犠牲復活魔法で立て直す、みたいなことだ。極限状態ではヒーラーの命は戦士より重い。

 あるいは、後手に回ると追い付かないことがわかっている場合、ヒーラーより範囲攻撃を持つ魔法使いが優先になる。命どころか行動不能も避けなければならない。

 ダンジョンはまるでゲームのような仕様が多いのだから、はじめからゲームに寄せて考えるべきだったのかもしれない。


 もっともゲームのように割り切れるかはまた別の問題だが。

 自分の命や特に大事な相手の命に優先順位をつけて、必要とあらば切り捨てる、なんて、土壇場でためらうこと疑いなしだ。だからこそ先に覚悟を決めておかなければならないのか。


 リュウイチはやはり向いていないようだと自覚した。


 命のやり取りはやらないで済むならそのほうがいい。


「もう300人とかで攻略したらいいんじゃないかな」

「ダンジョン狭いとこ多いし、人多すぎるとギミックでひどい目に合うよ」

「そうかー」


 ダンジョンに人海戦術は通用しにくいというのは常識ではある。

 仕様上6人での攻略を前提とされていると考えられていることもあるし、やはりナツメも言うように広さも問題だ。

 巨人の家か巨大な宮殿かという広さがある場所はむしろ少ない。

 多いのは縦横3メートル程度の通路だ。これだけでも武器を振り回すには十分窮屈なのに、もっと狭い場所もある。

 逆に広い場所もある。

 モンスターと戦ってくださいと言わんばかりの広間。ボス部屋などはその代表格だ。

 巨大なモンスターが生息している階は通路も広かったりもする。通路だけ狭くてやばくなったら逃げ込めるような作りの場合もある。

 ダンジョンや階層によるとはいえ、すくなくとも百人規模でまとまって行動するには非効率が過ぎるというのがダンジョンが現れてからの経験則だ。なんせ多くの探索者を抱えているだろう自衛軍さえ6人パーティを基準としてダンジョン探索をするのだ。


 だから2パーティ12人というのも6人と比べれば当然窮屈で、少なくとも洞窟型のダンジョンでは複数パーティによる共同探索は非効率と考えられていた。


「まあね、うちらも失敗を繰り返してきたんだし。実感しないと改められないこともある、でしょ。わかっててもやっちゃうこともあるしね。だからーえーと、なんだっけ」

「いや訊かれても困る」

「うーん? あ、そうだそうだ。1年やって半人前で3年やってようやく一人前かな、でしょ?」

「あー」


 覚えがある言葉だ。

 最近マリカにも言った。


 ある程度考える時間が取れるデスクワークでもそうなのだ。

 戦闘だってそう簡単に身につくわけはなかった。ナツメはそう教えてくれているのだとリュウイチは理解した。

 新しいことを教わったような、初心に帰ったような、不思議な心持ち。モンスターに殴られ殴り返しながらもなんだかしみじみしてしまった。


「まあそれは置いといて、役割分担はっきりさせても選択肢を減らせるでしょ。スキル増えちゃってなんでもできるようになったけどさ、うちらも元の役割で動くほうが楽だもんねー」


 そんな気分もあっさり置いておかれて次のアドバイスをくれるナツメに情緒がないと感じるのはものすごく勝手な感想なのだろう。

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