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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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049.マリカのお仕事(休みです)

本日は2話投稿しています。これは2話目です。

 学生で見習い社員ですが、仕事終わりに企画を任されたけど翌日が休日のときはどうしたらいいですか。


「どしたー? 今日ちょっと上の空だけど」


 水曜のマリカは大学で講義を受ける。

 大学にももちろん友人はいて、マリカの様子がおかしいことに気が付くくらいには仲が良い相手もいる。


 今話しかけてきたのはそんな友人だ。探索者ではない。探索者として活動していたメンバーとは疎遠となっていて、彼女とはダンジョンと関係のない付き合いだ。


「実は勤め先で企画一つ任されたんよ」

「始めて1週間のバイトにそんなことやらせるのってめちゃブラックじゃね?」


 そう言われると確かに相当やばいなとマリカも思う。

 ほとんど立ち上げからかかわっていて事情を知っているけれど、客観的にみるとかなりブラックだろう。

 給料は多いし時間は短いが二日目から新人を教育する側になることもあるとか、どうかしているのではないか。

 何よりその状況を受け入れないと会社がまずいというのがまずい。


 とはいえ、今回のこの件はまた少し事情が異なる。


「あいや、バイトじゃなくなったんよね」

「え、どういうこと?」


 マリカは学業と並行で正規に雇われ、なおかつ肩書だけ見ると会社のナンバーツーになったということをかいつまんで話した。


「アンタ騙されてない? そんなうまい話あるわけないじゃん」

「そう思うかもじゃけどほんまなんよ」


 突然社員にされたことにはマリカも戸惑っているところはある。

 マリカが不安を口にした結果である。きっとマリカにものすごく気を使ってくれているのだと思うのだ。


 なぜマリカを、というのは心当たりは一つ。もちろんそれはマリカの体や人格が目当てというわけではない。ミイナもいた場所でそういう話であるはずがない。

 始まりをあの黄昏の世界と考えると、つじつまが合う。

 あの世界を共に経験したマリカを外すことでなにかよくない影響が出る可能性を否定するのは難しい。

 マリカが独自に状況に貢献するような動きができていたならリュウイチも放っておいたかもしれないが、マリカは特に何もできていなかった。

 あの世界の経験を共有しているからという一点なのだ。


 そしてそんなことは他の人にはわからない。話しても信じてもらえるか怪しいし、信じたとしてあの危機感を共有できるかというと、きっとわからないと思う。


 なので友人を安心させるにはそれ以外の理由が必要だ。

 マリカは少し考えて、ひねり出した理由を話した。


「まあ、コネみたいな感じで。お給料もいっぱいくれるんよ」

「ウリとかやってんじゃないよね?」

「ちがうよ!」


 ぷんすかと怒りをあらわすマリカ。

 ごめんごめんとなだめる友人。


「それで企画ってどんなこと? あ、言えないことだったらいいけど」

「ええとね、社内研修みたいな? 規模とかスケジュールとか」

「飲み会の幹事より大変そうじゃん。ていうか学生じゃなくても、新人にやらせることじゃないんじゃね?」


 新人に飲み会の幹事をやらせる会社があるというのはまあまあ知られている話で、マネジメント能力を図るためだとか、新人いびりだとか、就活生からはいろいろ言われている。

 そしてもちろん、マリカが任された仕事は飲み会の幹事よりよほど重責である。場合によっては人命がかかわるのだ。

 ダンジョン深部にはいってみよう、とか。そんな簡単な話ではないはず。なんといっても先日までトップ探索者が行き詰っていた場所より先に行くのだ。


 だからこそ、マリカは悩んでいる。

 ついでに言うとそこまで友人に打ち明けられないことにも。


「しかもそれ言われたの昨日の終わり際でね」

「それでか。上司さんももうちょっと考えろよねー。頭一杯になるじゃんね」


 まさにそれ、とマリカはうなずいた。


 帰る前、しかも休み前に仕事を振られたので、昨日の夜から、どうしたらいいのだろうかと頭がいっぱいなのだった。


「でもさあ、いきなりマリカにやらせるくらいだし、そんな重要でもないんじゃない? 失敗してマズいことを学生の新人に任せないじゃん」

「そうなんかな……」

「いやアンタへこむんじゃないの。もっと気楽にやったらって言ってんの。わかれ」

「えぇ……?」


 マリカは頭のてっぺんを掌で押さえられてぐるんぐるんと回された。

 抵抗すればピクリとも動かなくもできるのだけれど、マリカは友人の厚意に身を任せた。

 友人はマリカが抵抗しないので辞め時を失い、疲れるまでぐるんぐるんしていた。


「ありがとね。ちょっと気が楽になったわ」

「ぜぇぜぇ。いいってことよ。それよりちょっといい?」

「なぁに?」

「お給料いいってどれくらいもらえるの? それに、マリカのダイエット、今噂になってるやつじゃんね? 福利厚生でやってもらえるんかな? 無理だと思うけど紹介とかって――」


 マリカは就活に苦戦しているという友人からの質問は保留にして脱出を図った。










『だったら明日時間とって考えましょう』

「あ、いいんですか。助かりますけど」


 友人と話した日の晩、仕事終わりでなおかつまだリュウイチと合流していないだろう時間を狙って、マリカはミイナに携帯端末で連絡を取った。

 すると、ミイナはあっさり相談に乗ってくれると言ってくれた。


『リュウイチさんも言ってたでしょ、頼っていいって。いきなり一人で全部やらせたりはしないわよ』

「任せるとおっしゃったので。なんというか、難しいですね」

『まあねえ』


 マリカの感覚だと、任せると言われたら一人でやるものだった。

 しかし、リュウイチは初めから頼れと言っていたし、ミイナも協力的である。

 社会人と学生の間の認識の差か、それともマリカがずれていたのか。逆にリュウイチたちがおかしいのか。

 いずれにしても、R・ダンジョン支援合同会社でやっていくならばマリカが認識を変えたほうがいいことは間違いない。


「今のうちに考えておくべきことはありますか?」

『そうね、大体のイメージを持っておくことかな。大体の規模、いつやるか、どこでやるか。どういう目的だったかを念頭に置いてね』

「鬼を狩ること、経験を積むこと、混雑回避、人手の有効利用、トップパーティの支援に資源の回収、でしたよね」

『ちょっと欲張りすぎよね。どこに重点を置くのがいいかな』

「重点ですか」


 一石二鳥、三鳥と狙えるならたくさん狙ったほうがいいようにマリカは思う。

 ただ欲張りすぎといわれると、二兎を追う者は一兎をも得ずという言葉も思い起こされる。


「最初の1回なんですよね」

『そうよね。そこも大事なところだと思うわ』

「ありがとうございます。考えをまとめて、明日またお願いします」

『はい、こちらこそね』


 ミイナとの会話で、マリカは少し考えがまとまったような気がした。


 マリカは思い付きをメモ帳に書き出した。羅列されたそれらの順番を入れ替えたり追加したりしながら、ミイナに言われた通り、イメージを固めていくのだった。

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