048.会議4
本日は2話投稿予定です。これは1話目です。
会議会おわりです。
「あとはそれぞれへの対応、ダンジョン協会はずぶずぶで行きたいということを覚えておいてくれ。それと、ついでじゃないが、ピーチガールズともいい関係を続けていきたい」
「なら一緒にご休憩でも行きますか」
「ダメですよリンゴさん。それはダメです」
リンゴとミイナがじゃれているのをスルーしてリュウイチは続ける。
「web対策だけど、募集してないのに売り込みに来たから雇った。今まで個別に趣味の範囲でやってたSNS対策とスキルデータベースの管理をやってもらう」
「信用できるんですか?」
「持ってきた提案とサンプルはよさそうに見えた。スパイかもってことならすでにガバガバだからな」
「自慢げに言うことではないです」
近辺のスパイ対策は内閣調査室に丸投げしている。
R・ダンジョン支援合同会社にノウハウはないし情報もない。
外国籍の応募者が何人もキャンセルしているうちの一部はそういうことなのだろうとリュウイチは想像していた。
入社しなかったサポーターを確保したものもいるだろうが。
冷たいようだがそこまで面倒を見る気はない。
「とりあえずweb対策部部長にしておいた。方針だけ伝えて丸投げする。要望があったら伝えるので言ってくれ。仕様変更があったらどうすればいいか訊いたら先に全部言ってほしいが無理ならできるだけ早くとのことだ」
「嫌なクライアントだー」
「あと作業は自宅でしたいっていうから週1出社にしておいた。別に呼べば来てくれるそうだ。ミイナとリンゴで現状の引継ぎ資料を頼む」
「嫌な上司だー」
カミエが渋い顔をしているのは過去に何かあったのかもしれない。
R・ダンジョン支援合同会社のweb対策としては、情報のリークとSNSの会社公式アカウントの管理、それからスキルデータベースの管理だ。
データベースはアフィリエイト嫌いなSNSユーザによって炎上中であり、驚くほどのアクセス数をたたき出している。借りたのがD式サーバでなければダウンしていただろう。
炎上していなくても情報の質を考えれば十分注目を浴びていただろうが。
いままで10未満だったスキルレベルが3桁後半まで確認されつつあり、その情報と使用感まで記載されたデータベースは他にない。ダンジョン協会のものは更新が追い付いていないので国内唯一といってもいいかもしれない。
また公式SNSも炎上している。ただガンスルーで一方的に情報を公開しているだけなのでこれはまあいい。
大型掲示板やSNSを経由しての草の根情報操作、ミイナがコツコツやっていたものだが、これも丸投げすることになる。
得意分野だということなので何の問題もあるまい。
現在は『健康』のダイエット効果、美容効果などを推しているからそれを引き継いでもら――。
「資格取ってもらってスキル取得してもらった方がいいかもしれないな。さて次」
アラサーアラフォーのお姉さま方が探索者資格を取りに群がっているのはミイナやリンゴたちの成果だと思うと、リュウイチはなんだか忙しさに輪をかけてガソリン注いだような状況のダンジョン協会に申し訳ない気がしてきたので次に行く。
「自衛軍とは護衛兼監視を派遣してもらっている状態だと認識してくれ。氾濫やテロ対策でもあるが、うちが何かやったら抑えるためでもある」
「こちらもお客様のやんちゃを抑える盾になってもらっていますけどね」
リンゴの言うように、自衛軍人という肩書と、軍服という装備で同行していることで攻撃的なものは委縮し、やましいところがなければ安心感を覚える者もいるだろう。
任務はともかく、個人としては気さくな兄さん姉さんが多い。自衛軍としてもその上の国としてもR・ダンジョン支援合同会社ともめたくはないはず。少なくとも今は。
まずまず良好な関係といっていい。
「それと、新人探索者研修マニュアルの参考に自衛軍人の勉強会に参加させてもらっている。ここにいる人数くらいなら増えても大丈夫だから気が向いたら声をかけてくれ。仲良くしとくといいことあるかもしれないぞ」
「どういうことやってるんすか?」
「昨日は受け身の訓練だったな」
「五点着地すか!?」
「それは難しかったからもうちょっと基本的なのから」
「結局短期間でやるには向いてないし教官なしの自主練習も危ないので研修向けではないねってことになったんですよ」
ミイナが補足する。
20時から21時の社会人のクラブ活動のような勉強会でどれほどのことができるかはまだこれからだが、研修の項目を検討するなら逆にちょうどいいかもしれない。
そして昨日は参加できなかったコウジが今日は行ってみたいというので道連れが増えたことにリュウイチは喜んだ。
「最後、国への対応。これはまあやれと言われたらやるしかないだろうから、無理を言われたときはこちらの権利を主張していこうと思う。この国で生活できなくなるのは困るから基本は友好路線だ。『健康』関連で医療業界を巻き込んで厄介ごとが持ち込まれるかもしれないが、なんとか受け流していこう」
「担当者育成頑張ってください」
「自分事務なんで取次はしますね」
「経理なので」
マリカを見るとさっと目をそらされた。
部下が冷たくてリュウイチは肩を落とした。今日は落とす機会が多いことだ。
「……話が分かる人が天下りしてこないかね」
「そんな実績がまだないですね」
対応押し付けられるものが降ってわいてくれればいいのだが、そんな都合のいい話はなかった。
いや、都合のいい話ばかりではなかった。
「で、ほかに何かあったかな」
サポーター取得業は要検討。
ダンジョン資源収集部署は社内研修として試すところから。マリカが企画。
『帰還』ネットワーク。派遣してホーム地点の確保。運用はダンジョン協会に提案。
国から何か言ってきたらリュウイチが担当。マリカが補佐。
内勤は募集。カミエ、コウジが担当。
新人教育はダンジョン協会の手を借りられるように打診する。新人探索者研修とともにリュウイチが担当。
webは対策部長に丸投げ。
各組織へは友好的に接する。要求はする。
今回確認した情報をまとめつつ、リュウイチは最後に皆を見回して尋ねた。
すると、リンゴが手を挙げる。
「あ、そうでした。例の大統領の名前の応募、キャンセルされてました」
「そうか……そうか。あれ本物だと思う?」
同盟国大統領と同姓同名の応募があったのである。今のペースだとキャンセルがなければ来週になりそうな順番だった。
それがキャンセルになったということで、リュウイチはほっとした。
外国語の応対には自信があるとは言えないし、本物でも同姓同名の別人でも、厄介なことは間違いない。本物だったらより面倒を連れてくるだろうが。
キャンセルされたなら一安心だ。
「強力なコネになるかもしれなかったのに、惜しかったですね」
「いや、ないない。他はどうだ?」
しばらく考え事をしてるようだったマリカが、何かに気づいたように、慌てた様子で手を挙げた。
「従業員の方が、勧誘されているときはどうしたらいいでしょうか」
「あーそれな。各自の判断に任せる方向で。業務中はやんわり注意してもいいけど」
「引き抜かれてもいいんですか?」
リュウイチの答えに、マリカは驚いて訊き返した。
「班長クラス以上は困る。ただ活躍の場が別にあるならいいよ。引き抜かれる場合移籍金をうちに払うように書いてあるし。もちろん通常の退職は2週間前の申告が必要だからな。逃げるようならまあどうにもならないでしょ。身元もわかってるんだし、相手と本人の名前を告知して取引禁止にする。全部就業規則に書いてある」
いいよと言いつつ周到な体制を用意していることにマリカは驚いた。
「え、引き抜かれていいのか悪いのかどっちなんですか」
「ちゃんと手続き踏むならいいよ。これちゃんとしとかないと面倒らしいからきっちりやる」
なおそういうリュウイチは実質1日で自主都合退職しているが、書類上は適切に処理したことになっている。
ちなみに、移籍金は探索者パーティ、チーム間の引き抜き行為における慣例で、現状のサポーターの価値を鑑みて相場より高いレートを設定してある。とはいえある程度以上の探索者なら余裕で払える額であるため、本気で引き抜くつもりなら可能だ。
「だからまあ本人の意思があって相手方が本気ならだね。おかしなところだったら止めはするけど」
例えば内閣調査室や自衛軍からストップがかかるような相手などは止める。
「わかりました。これみんなに伝えておいた方がよくないですか?」
「引き抜かれてもいいよってスタンスを積極的に広めると士気が下がらないかな?」
「下がりそうな気がしますね」
「とはいえ何もしないというのもどうでしょう?」
話し合った結果、勧誘の事例があることと、勧誘を受けたら一人で考えず上司に相談すること、それとは別に就業規則は確認しましょうと告知することになった。
「これでいいかな。他には――」
「はい、代表」
今度は、カミエが手を挙げる。
「代表とミイナさんの式はいつやるんでしょうかね」
「それ関係ある?」
リュウイチが返事するのとミイナがすっと距離を詰めてリュウイチにぴたりと張り付くのは同時だった。
「出席者とか日程の調整とかありますよね。仮に現状で、ここにいるメンバーをみんな呼んだら会社が止まりますし」
「リュ・ウ・イ・チ・さ・ん?」
ミイナがリュウイチの二の腕を右の人差し指でぐりぐりしながらプレッシャーをかけてくる。
リュウイチは座ったままミイナを引きはがしその勢いを使ってくるりと横抱きに膝の上に設置するとミイナは動きを止めた。
「何か月か準備が要るだろ。まず100階踏破までは落ち着かないからそれから打ち合わせ開始かな。とりあえずまだ気にしなくていい」
「今のどうやったんですか」
「ひゅーひゅー!」
「ひゅーひゅーって古くな――」
何か式の話そっちのけで驚かれたリュウイチは、腕の中のミイナの頬を親指と人差し指で挟んでアヒル口を作ってミイナにはたかれた。
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