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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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043.自衛軍式

「一日一時間てダイエットかな?」

「そんな生ぬるいわけないだろ、自衛軍だぞ」


 ここは秘密の自衛軍基地、ではなく。

 『疫病のダンジョン』の裏山に設営された自衛軍野営地である。

 臨時編成の対ダンジョン部隊が駐屯しており、多くの自衛軍人がくつろいだりトレーニングしたりとそれぞれの時間を過ごしている。

 ここは野営地の中でも待機中あるいは休暇中の部隊員が体を動かすために確保されたスペース。

 そこにリュウイチたちR・ダンジョン支援合同会社の関係者がお邪魔していた。


 リュウイチとミイナ、マリカ。そしてなぜかピーチガールズから『気功使い』カリンと『ガンナー』シトラスというメンバーだ。


 時間は夕方。ライトによって十分明るい。今後さらに設備は増強されるらしい。


 自衛軍の訓練を経験してみようという企画である。

 リュウイチはあれは冗談だったらいいなと思っていたが、海の人ことエイコ二尉が積極的に動いてくれたので半分ほど実現してしまった。ちなみに陸の人は別のダンジョンでお仕事中である。


 リュウイチたちは業務終了後に一時間、この野営地にお邪魔して体験してみるということになったのだ。


「はい、というわけでえ。こちら、R・ダンジョン支援合同会社の皆さんで、そちらはオフの軍人ですね。今日の勉強会は軍人と一般の探索者の方の違いを勉強させてもらおうと思います。よろしくお願いします」

「こちらこそ、よろしくお願いします」


 エイコの手招きで5名の自衛軍人が寄ってきて、物珍しそうにあたりを見回していたリュウイチ混合チームの前に並ぶので、リュウイチたちも向かい合う形であいさつを交わす。


 この勉強会は、対ダンジョン活動で有益な意見を抽出するためにエイコたちが自発的に開いているものらしい。

 似たような集まりは他にもあり、学校でやるクラブ活動のようなものだとエイコ談。

 とはいえ自衛軍公認であるし、リュウイチたち民間人を野営地に連れ込む許可を取れる程度に真面目な集まりである。


「私が思うに、自衛軍と民間の探索者の最大の差は訓練してお給料をもらえるかお金を払わないといけないかではないでしょうか」


 今回は音頭を取ったエイコが会を主導するようで、リュウイチたちと参加する自衛軍人の間に立って話を進めている。


 なるほど、エイコの言っていることは一理あると、リュウイチは思った。

 探索者にとってダンジョン探索は基本的には生活のためにお金を稼ぐ手段である。

 趣味でやっている者もいるが、大半はそうではない。

 お仕事なのだ。

 探索者として稼ぐには、ダンジョン内で資源を入手して持ち帰らなければならない。

 そうすると実戦経験を積むことができるが訓練をする時間的金銭的余裕は少ない。稼がないと食っていけないからだ。時間は金になる作業に費やしたいところ。


 一方、自衛軍人は訓練も仕事のうちである。また国で有数の組織のバックアップがあり訓練以外の事前準備も行う

 民間の探索者だって事前準備は行うが、軍と同等のレベルで詰めるかといえばそこまではできないし効率も劣るだろう。


「ですがダンジョン攻略の最前線にいるのは民間の探索者の方ですね。ピーチガールズさんとか。あとでサインください。できれば、はどー拳も見せてください」

「お任せデース」

「気功波はダンジョン内でですねー」


 格闘ゲームやバトル漫画のような、手から発せられる気功波を使うカリンの人気は高い。自衛軍でもそれは同じようで、リュウイチが声をかけて同行が決まったとき、エイコは黄色い声を上げていた。


「話を戻しますが、そういった事情から、民間の探索者の方に共通の技術を教えようとしても、あまり時間をとれないし、そういう用意をしても受講者は来ないと思います。だから、行軍訓練とか山中行軍訓練とかフル装備行軍訓練などは早々受け入れられないかと思います」

「歩いてばっかですね」

「基本ですね」「基本です」


 例が歩くばかりだったので冷や汗を流し、しかしそれはやらないといわれて内心ほっとするリュウイチ。

 自衛軍の人たちそんな様子のリュウイチをよそに、うなずきあっていた。


「探索者も歩くのは基本デース」

「でも卒業してからは歩く訓練はしなくなったねー」


 ダンジョン内には狭い場所もある。乗り物は基本持ち込めないので何日も野営しながら歩き回ることはざらだ。

 しかしそのための訓練となると、よほど意識高い探索者でなければやってないかもしれない。

 実践の現場で鍛えられることの方が多いだろう。


「なので! 探索者の研修に組み込めるのは、重要なことに絞ることになるでしょう。短時間でできる訓練、あるいは訓練の方法、教本などで伝えられるもの、つまりすぐできることか、持ち帰って自習できることになるかと思います。ということで」

「ということで?」

「探索で重要なのはなんでしょうか。はいそこ」


 エイコが自衛軍人の一人を指して回答を求める。


「はい。そうですね、負傷をいかに回避するか、でしょうか。カバーする人員が限られているので」

「なるほど。では皆さん、探索者の間でなにか負傷を回避するための知恵などはありますか?」


 リュウイチたちに水を向けてきたので、まずリュウイチが考えながら口を開く。


「うーん。防具に金をかけるとか防御系スキルをとるとかですね。格闘技とかやっている人はどうですかね」

「そうですねー。受け身は重要じゃないかなーと思いますねー。それとー、柔軟でしょうかー。怪我対策といえばまず基本はこれだと思いますねー」

「カリンはめっちゃ柔らかいデース。タコか雑技団かわかんねーデース」


 『気功使い』に就ける経験をもつカリンはやはり格闘技の経験があるようで。

 格闘技の経験だけでエネルギー波が打てるのかというとファンタジーだけれども。


「そうですね、地面や壁にたたきつけられることもありますね。では今日は、自衛軍式の受け身訓練と柔軟体操をやってみましょうか。はい、二人組作ってー」

「一人余りますけどどうします?」

「その辺から連れて来ましょう」


 哀れ木陰で携帯機のゲームをしていた自衛軍人が一人連れてこられてしまった。


「ならサインください」

「ならってなんですか。いいですけどー」


 哀れではなくなったので続ける。


 それから、自衛軍体操を教わり動画のアドレスを教えられ。

 そして受け身の訓練を行った。

 自衛軍人がいくつかの見本を見せる。

 ぴょんとはねてころんと転がる軍人さん。

 ぴょんとはねてころんと転がる軍人さん。

 ぴょんとはねてころんと転がる軍人さん。

 その動作はともすれば滑稽にも見えるかもしれないが、極めて真面目な表情と態度で挑むのを目の当たりにすると、自然とリュウイチたちも真面目な顔になった。


 いくつかの例を見せた後、基本的なものを実践。

 一時間はあっという間で、なんやかんやと延長になってしまった。

 身に着けていたジャージは汗と泥でどろどろになるし、失敗したら間抜けに見えるしで大変だ。

 そんななか、上手かったのはやはりピーチガールズの二人である。

 カリンは格闘技の修練の中で受け身の訓練もしているそうで。

 シトラスは超大国の海兵隊式の訓練を受けたことがあるらしい。父親が軍関係者らしく、そのつてで。


 ど素人のリュウイチ、ミイナ、マリカは初めは恐る恐るだったが、失敗してもスキルの効果でさほど痛くないことに気づくと思いきった動きができた。


「ではここからはスキルの効果なしでやりましょう」


 という言葉がエイコの口から発せられるまでは。

 痛みと恐れがなければ覚えませぬ、と言っていた。


 リュウイチたちが疲れてフラフラになったころ、ようやくそろそろ終わりましょうかということになった。

 照明の範囲外はもう真っ暗だ。


「あーもー。疲れた」

「もうだめです。帰って料理したい」

「私はお風呂がええわあ」


 力尽きそうな3人に対し、自衛軍組とピーチガールズ組はまだまだ余裕そうである。

 リュウイチはトップ探索者や自衛軍の方たちの力のほんの一端を感じ取り、いやほんとすごいなと他人事のように思い、尊敬の念を抱いた。


 そんなときエイコが寄ってきて口を開く。



「ただイチから訓練するならきちんとした教官が欲しいですから1回限りの研修にも自習にも向いていませんね」

「じゃあダメじゃん」

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