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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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041.タナカ氏、無茶ぶりの相談をする

「代表、よかった。今お呼びしようと。内閣調査室のタナカ様がいらしてます」

「お、ありがとうカミエさん」


 今日何度目の移動か。

 108人の面接とか頭がおかしい。4人ずつ進めて27組、1組10分から15分ですすめ、合間合間に別の仕事の様子を見ながらようやく終わりにたどり着く。

 そして、ダンジョン協会の屋上から事務所へ移動したところをカミエが迎え、伝えてきた。


 タナカがこのタイミングで何のようだろうか。車爆発炎上事件の続報か。わざわざ足を運んで?


「内閣調査室ってどんな部署なんすかね」

「よくしらないけどカバー範囲広くてめちゃめちゃ忙しそうだよ」

「聞こえますよ二人とも……」


 合成樹脂のパーティションで部屋の一部に作られた応接区画に入ると、苦笑いのタナカが、待っていた。


「いやどーもどーもお待たせしました」

「どーもどーも急にお邪魔しまして」


 先日はパリッとしたスーツだったが、今日は若干くたびれて見える。

 中身は元気そうなので『健康』スキルをとったのだろう。忙しくてアイロンをかける余裕もないのだろうか。そう見せているだけかもしれない。

 ただ、サポーターに就けるくらいなので仕事から性格がうかがえる。苦労人だろう。

 であれば忙しいに違いない。

 リュウイチはそこはかとない仲間意識を感じていた。

 忙しいよね、わかるよ、と。

 その原因の一端が自分にあることは棚の上の角度的に見えないところに押し込んで。


「今日はどういった? 先日の件ですか? 直接連絡いただいてもよかったですが」


 未開封のお茶のペットボトルを出す。お茶セットを用意していなかった。もう、この方向で統一してしまおうかとリュウイチは思う。


「いえ、今回は別件でして。R・ダンジョン支援合同会社で我が国の国民すべてにスキルを取得させることはできますか?」

「は?」






 詳しい話をきいたところ。


 この度のスキルポイント大量獲得法の発見によって高レベルのスキル取得が可能になり、高レベルスキルの効果が新たに確認された。

 その中に汎用的かつ有用なスキルがあった。

 ようするに『健康』スキルである。


「『健康』を全国民に取得させればいい、という提案が出まして。実現可能性と予想される効果を調査することになったわけです」

「それでうちに」

「ええ。現在確認されている中で最も規模が大きくまた実績もあるスキルポイント獲得業者は個人も含めてR・ダンジョン支援合同会社さんしかいませんからね」

「自衛軍はどうです?」

「必要とあれば動かす選択肢もありますが前提として不要な状況では動かしたくないというのが基本方針です。警察も同じく、内閣調査室は規模から戦力外ですね」


 誰だそんなことを言い出したやつは。

 いやまあ、内閣調査室が動いているんだから内閣の誰かだろう。

 

 リュウイチは頭痛がしてきた。ような気がしただけだった。幻痛かな。


「ええと。法的な問題、手続き的な問題、反対者への対応についてはこちらでは考慮しないとしてよろしいでしょうか?」

「はい。ただ参考意見はいただきたいのと、一応、不測の状況への対策を組み込めるよう計画に冗長性を持たせたうえでの見解をお願いしたい」

「ダンジョン攻略への影響は?」

「専門家としての意見をいただきたいと」

「答えはいつまでに?」

「詳細は別途、ひとまず現状の見解ということで大まかな予想をすぐにでもいただきたいです」


 なんというか。

 リュウイチは言葉に詰まった。

 いろいろと想像はできる。

 こうなったのはどういうことがあったのか。

 『健康』スキルは便利すぎるというのはわかっていた。

 これを全人類が取得したら大変なことになるだろうという想像はした。

 だが実際にそれをやろうと言い出すとは、すくなくともこれほど早く動き出すとは、想像していなかった。


 ダンジョンを胡散臭いものと見る考えも未だある。

 実際突然現れたダンジョンだ。突然なくなってもおかしくない。それを頼って何かを行うというのはやはり不安が残る話だ。

 ダンジョン産の物資やそれを前提とした技術の開発は進み、D式コンピュータなども作られ生活の中に存在してきている。

 だが――。


 リュウイチは考えるのを()めた。

 それは今必要なことではないし、リュウイチが考えるべきことでもない。

 たぶんないだろうと思っていたことが起きただけのこと。

 粛々と対処するだけだ。リュウイチ自身の思想は参考意見にしかならない。



 わかりやすい数字から考えてみよう。興味なければ★マークまで読み飛ばしてもらいたい。


 この国の人口は1億うん千万人。これを平均寿命の約90年で割るとざっくり130万。

 仮に『健康』取得事業とよぼう。

 人口を維持し、全国民に『健康』取得事業を適用し続けるならば、一年あたり最低130万人を受けさせ続ける体制を維持する必要がある。

 これはまあ可能か。365で割って一日3600人ほど。ダンジョン協会が管理している国内のダンジョンは100とされている。手分けすれば36人。一年の半分をかけてやるとしても72人。

 もう少しまとめて処理したいだろうか。学校の検診や身体測定、予防接種などのようにまとめてできるほうが日常やほかの物事の兼ね合い上、都合がいいか。

 逆から考えてみよう。

 現在の事業は1コマ90分で行っている。

 だが『健康』を、そう30取るくらいならリュウイチなら10分で可能だ。40、50となるともう少し欲しいが、スキルレベルを上げれば可能になる。

 1セット4人10分。1時間で24名。並行して100組動かせれば2400人。8時間稼働で19200人。130万人を68日で処理できる。

 使用するダンジョンを交通や安全度から1/3程度に絞り、1つのダンジョンで5組程度動かせば41日。

 国民は一生に一度。事業者は週1程度この事業に時間をとればいい。

 最低限必要な人数は引率1パーティ2名、安全確保役をダンジョン全体で10名ほど、顧客の案内誘導は他者にも頼めるので計算に入れない。34ダンジョンに二人掛けることの5組と10人。340人が最低限必要な人数か。安全確保役はサポーターでなくとも可能なので実際は170人からだ。

 1ダンジョンに1時間120人1日960人のお客様が集まるが、それは『疫病のダンジョン』の現状を考えれば可能だろう。




 ★ ★ ★


 可能だ。

 計算上は。


 90年かけて全国民に『健康』を取得させそれを維持し続ける事業とすれば数字上は可能。

 ただしダンジョン外の誘導や説明、手続きに必要な人員は考慮していない。

 それはサポーター、つまりR・ダンジョン支援合同会社の人員でなくてもできるからだ。

 引き受けるならそこのバックアップはやってもらいたい。

 そして探索者でない人間を相手にするなら対応する従業員の教育期間が欲しい。最低1年、できれば3年くらい。

 そうでなければ先に対応できる人員を用意してもらってその人たちをサポーターに育成するほうがいい。会社としては競合するのでよろしくないし、予約している者たちをさばいてからでないと探索者から大量のクレームが来るだろうが。


 つまりできそうだけれど時間はほしい。


 ということを伝えた。


「それとは別に現在いる国民を可及的速やかに、そうですね1年程度で可能な人数はどの程度見込めるでしょうか」

「ですよね」



 考えたくなかったが、当然先方が求めるのは「今すぐ全員やってくれ」であった。

 知ってた。

 そんな恐ろしい仕事量を考えたくなかったので勘違いしたふりをしたのだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] >興味なければ★マークまで読み飛ばしてもらいたい。 うっかりポイント評価に一気に行きそうになった。
[一言] とりあえずは不健康な人を優先してみては
[一言] ネズミ算的にサポーターを増やせるから、災害上等でダンジョンへの戦力投入後回しにしたら早期実行自体は可能でも、実現後は医療技術の衰退がほぼ確実に起こってしまうせいで、重度の障害者や新生児〜幼少…
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