040.念願
本日は2話投稿しています。この話は2話目です。
休みが明けて月曜日。
あの日から丸1週間である。
ひとまず氾濫の兆候は確認されておらず、油断はできないとはいえ一安心。
今週も長くなるだろう。
そんなことを考えながらリュウイチは出勤した。
「おうリュウイチ。会議室埋まっちまったからどっかよそでやってくれや。事務所借りてるんだろ?」
「課長!?」
「おはようございますリュウイチさん。今日はリンゴさんが休みなので引き継ぎは私からやりますね。まず今日は面接が108件」
「マリカ!?」
「あっ、指輪!」
『リュウイチさんたすけてアリスせんぱいがめっちゃからんでくる』
『自慢した?』
『当たり前じゃないですか。幸せ煽りは義務ですよふふん』
『甘んじて受けてどうぞ』
「あの、リンゴさんから経理事務を頼まれたんですけど」
「あなたが神か」
「敬え人の子よ」
「あの自分も実務経験あるって言ったら」
「ナイス神よろしくお願いします」
「いやなんすか神て」
出勤そうそう大事件である。
なんと事務仕事を頼める人材が現れたのだ。二人もだ!
めっちゃノリがよさそうな女性カミエさんと真面目そうな体育会系コウジくん。どちらもリュウイチより少し年上だろうか。
「こちら社員のマリカさん。学生さんですが、内勤の見習いなので雑務を任せつつ支障が出ない範囲で仕事を教えてあげてください」
「よ、よろしくお願いします」
「はい、よろしくねマリカちゃん」
「よろしくす」
「というわけでまずは引っ越しからだな。スキルで運ぶか」
置いてあった荷物を『秘密のポケット』に片端からつっこんで。
パーティを組み、『帰還』で3人と一緒に事務所へ向かう。
使っていなかった事務所だが、内装は完成しているし、掃除も管理人が手配してくれている。
今日からは資料なども入れるので任せきりにできなくなる。仕事が増えた。
「じゃあまずこれとこれとこれ、手分けしてお願いします。留守にするときは鍵もよろしく。私はダンジョン協会で指示出して戻ってきます。マリカさんはこっち」
「いってらっしゃいませ」
最低限必要な設備は納品されており、パソコンもネットワークも稼働を確認。
リンゴが今日を見越してリンゴがやっていた仕事の範囲ですぐに入れる仕事の内容をまとめておいてくれたので、リュウイチが担当していたものと合わせて任せる。
会社の代表であり、またノウハウとしてもリュウイチでなければできないことは多いが、人が増えたこともあってそうでない仕事はもっと多い。
他の人でもできる仕事を任せられるのはすばらしい。
端的に言って超助かる。
あとはこれから信頼関係を築いていく彼らが、その前におかしなことをするような人間ではなければ完璧だ。
とはいえまだわからないのでひとまず暫定でヨシとする。
改めて、ダンジョン協会に向かう。
会議室で行っていた当日の指示だしをどこでするか考えなければならない。
なぜ会議室を追い出されたかというと。
ひとつは他のダンジョン協会から順次派遣されてくる応援要員とのミーティングや待機室に使う。ピーチガールズをまねてねじ込んできたパーティがすでにいくつかあり、当初の人数よりも増えてしまったのだそうで。
次に、ダンジョン協会の採用面接に使う。常時出していた募集に急激に応募があったそうで。忙しいのに困ったものである。
それから、探索者資格試験の申請が大量に来たらしく、ペーパーテストの会場に使うらしい。
探索者資格試験は学生でも取れるだけあり、原付免許程度の勉強で十分合格できる。試験は随時(一日2度締め切りがある)行われるので申請があれば対応しなければならないのだ。全国で申請が激増していてどこのダンジョン協会もてんやわんやなのだそう。ちなみに女性が特に多いとのこと。忙しいのに困ったものである。
この状況で居座るわけにもいかなかった。
とはいえどうするか。
「考えてみれば『帰還』するなら場所はどこでもいいんだよな」
「そういえばそうですね」
引率するのはサポーターなのだ。皆『帰還』を使えるのだからどこにあつまってもよい。
ダンジョン協会の職員と自衛軍との合流をどうするか問題だが。
「ところで今日はどこに集まりますか?」
「そうだな……。とりあえず、今日のところは屋上を開放してもらおうか」
今日は集合場所をダンジョン協会として連絡してしまっているので場所を変えると混乱をきたすだろう。
そうでなくとも通常の利用者、面接を受けに来た人、試験を受けに来た人がわんさかいるのだ。
リュウイチは、元同僚の職員たちと話をして、屋上を借りる交渉とともに人の流れを制御するために各所に張り紙と誘導員を用意した。これでまた人手を取られるわけだが仕方がない。
それから屋上に従業員を集めて状況を説明した。
「……というわけで会議室を使えなくなったので、今日はここを拠点とします。明日以降についてはまた連絡しますので今晩メッセージを確認しておいてください」
お客様との合流はダンジョン協会のロビーで行っていたが、今日はロビーも混み合っている。
『帰還』で屋上とロビーを接続し、職員と自衛軍には足を運んでもらうよう手配。
人手が余計にとられる分は従業員と従業員かダンジョン職員と自衛軍で3人のところを、従業員か職員を抜くことで抽出する。給料は補償しなければならないが当初の予定より増えるわけではないので問題ないだろう。
また、スキルポイント獲得の側でキャンセルが続いており、ここは圧縮できる。
サポーター育成はそろそろ打ち止めるかと思っていたのにまだ増えているが。
「それと、先日の報告書と自薦他薦を踏まえて、皆さんのまとめ役、班長を任命しました。各5人ずつ、シフトが合う人と班を編成しましたので確認してください」
土曜に作り日曜に手直しされた班分け表を配布する。
今後は基本的に一堂に集めず、班長に連絡事項を回すことになる。
人選は面接時のリーダーシップをとったり自発的に動いた人たちだ。
その班長をまとめるのはまだリュウイチとリンゴがやることになるのでここにも中間管理職を置きたい。
「班の編成の問題があったら連絡をください。合わなければ無理に我慢することもないです。まだ従業員が増えるので班長やりたい人も言ってきてくださいね。手当付きますから」
ということで、班ごとに仕事を振り分けて業務を開始。しばらくは現場で様子を見つつ問題が起きれば調整だ。
『帰還』が飛び交うなか、事務所に連絡を入れる。携帯端末ではなく、自身も『帰還』でひとっとびである。
自分が帰る場所という認識が必要だが、スキルレベルが上がって複数個所移動先を選べるようになって実に便利になった。今思うと10レベルまで変化なしの仕様が意地悪く思える。
「旧体育館かどこか、300人規模で人を収容できる場所を借りられるかさがしてもらえるかな」
当座の拠点にしようと考える。休憩、点呼、集合場所と広い空間が欲しい。
今日は仕方がないが、さすがに屋根がないのはつらいだろう。
公共施設は予定が入っていなければ金で借りられるし規模も十分だしで都合がよい。
空いていればいいが。
こういう仕事を任せられるのほんと助かる。
リュウイチは事務所の二人に感謝した。願わくば長く信頼できる関係を築けますように。
この日の夕方。
事務所でリュウイチは唖然とすることになる。
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