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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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034.説明会

 金曜日。

 R・ダンジョン支援合同会社において朝1コマ目にあたる時間帯に、リュウイチはダンジョン協会の大会議室を借りて入社希望者30名の前に立っていた。

 他にダンジョン協会から支部長と、自衛軍から派遣部隊の指揮官がオブザーバーとしてリュウイチの斜め後ろに設置された椅子に座っている。

 57名面接の予定だったが、希望者の時間の都合に合わせて午前午後の2回に分けることになった。会議室の容量からしてもそのほうが都合がいい。

 かといって30名同時面接というのも無茶なので、まず説明会からはじめることにしたのだ。

 この場に居ない従業員は通常業務である。これを止めたら順番待ちのトップ級探索者からクレームの嵐が舞い込むのは目に見えているので止められない。


「こんにちは。R・ダンジョン支援合同会社代表のリュウイチです。この度は足を運んでいただいてありがとうございます。皆さんは弊社に入社希望ということで、お話を伺う前に、今後の弊社の体制と活動予定についてご説明いたします。その後5名ずつ面接を行い、入社の最終判断を行っていただきます。順番待ちの時間が生じますので、皆さんを半数ずつにわけ、待ち時間の間、ダンジョンで皆さん自身のスキルポイントを稼いでいただきたいと思います。これはもちろん入社されなくとも料金は発生しません。お客様の時は引率の従業員がモンスターを討伐したと思います。皆さんも従業員になったら自らモンスターを討伐していただくことになりますので、適性審査の一環とお考え下さい。また、報告書を提出していただきます。臨時でパーティを組んでうまくやれるかどうかというのも業務上大事なことですのでダンジョン内でのご自身と、パーティメンバーの様子をよく見ておいてください。そしてもう一つ、この場にいるのは競争相手ではありません。これは試験ではなく、人数上限での足切りはありません。判断基準は各自の適性ですのでそこのところご留意いただきたいと思います」


 途中から別の話になったことに気づいたリュウイチは一旦話を止めて室内をぐるりと見まわして時間を稼いだ。その間に何を話すのだったか思い出す。


「はい、では説明会を始めます。資料を配布しますので後ろに回してくださいね」


 資料を配布すると、気の早いものがページをめくって目を通し始める。

 すると各所から、驚きの声があがった。


「はい、まず弊社、R・ダンジョン支援合同会社はダンジョン協会及び自衛軍ダンジョン派遣部隊と提携を結ぶことになりました」


 部屋全体から驚きの声が上がった。






 昨日。

 自衛軍からある申し出があった。

 R・ダンジョン支援合同会社のパーティに自衛軍人を同行させないか、というものである。

 自衛軍は現在ダンジョン内を巡回している。

 これは他国の工作員対策であると同時に氾濫の兆候を確認するため、そしてスキルポイント稼ぎのためである。実はさらにR・ダンジョン支援合同会社の保護及び監視という任務もある。

 いずれも自衛軍にとって重要な任務だ。

 だが、現状の『疫病のダンジョン』は混雑しており、自衛軍がパーティ単位で巡回するだけでは不十分だ。工作員を探すにも、スキルポイントを稼ぐにも、R・ダンジョン支援合同会社の保護・監視のためにもだ。

 氾濫の兆候調査は深部を攻略中のパーティが主なので混雑とは無縁だからまだいいのだが。


 そこで提案されたのが、R・ダンジョン支援合同会社の育成パーティに自衛軍人を一人ずつ組み込むというものであった。

 これならば薄く広く監視の目が届き、なおかつスキルポイントを稼ぐこともできる。

 隊員が一人で行動することになるのがネックではあるが、同階層に複数のパーティが存在すること、人数を増やすとR・ダンジョン支援合同会社の業務に支障が出ることなどからここは必要な措置として妥協する形となった。


 この提案のR・ダンジョン支援合同会社側のメリットは、自衛軍と協働する実績と、それ自体、自衛軍人による警護を受けられること、そして金銭である。パーティに参加する自衛軍人一人当たり1日1万円。特別料金だ。

 デメリットは業務用の育成枠が減ること、自衛軍と協働する実績、自衛軍に監視されることである。


 この提案をリュウイチは受けた。

 自衛軍人がいればお客様が無茶を言い出す可能性が減るだろう。枠が減ることに対する苦情は便を増やして対応すればいい。

 なにより安全を提供してくれる。しかも金までくれるというのだ。

 自衛軍がリュウイチに害をなすという可能性はある。しかしリュウイチは今回はそれを無視した。そうなったらお手上げだからだ。家族も友人もいるこの国で自衛軍、いや国を敵に回した時点で身動きは取れない。ならば敵対しないようにすることで対応するべきだ。

 仮にすべてを失った後なら違う判断になるかもしれないが、まだ何も失っていないのだ。


 そして契約をダンジョン協会を通じて行った。

 ダンジョン協会の職員のスキル育成を先に受けていること、第三者をかませることで契約の安全性を高めるため、そして税金対策。ダンジョンにかかわる収入はダンジョン協会を通すことで税制優遇がある。


「R・ダンジョン支援合同会社のみなさんにはご不便をおかけしますが、ご協力お願いいたします」


 そういって自衛軍の指揮官が敬礼をすると、入社希望者たちは戸惑いながらお辞儀を返した。

 そこで指揮官は、リュウイチと握手ののち退出していく。

 それを見届けてから話は続く。


「現在、弊社ではサポーター育成支援、スキルポイント獲得支援の業務を行っております。ですがこれとは別に、新人探索者の研修をダンジョン協会から委託されることが内定しています」


 新人探索者研修。

 初めリュウイチが目をつけていた隙間産業だ。簡単に言えばダンジョン探索の常識を教える仕事である。これはダンジョン協会にマニュアルがあったので、それをそのまま流用すればいい、はずだったのだが。


「ご存知の通り、現在スキルポイントバブルによって探索者の常識が変わりつつあるため、研修マニュアルをダンジョン協会と協力して策定中です。状況が落ち着き次第話を進めることで合意を得ています」


 サポーターの『パーティ取得スキルポイント増加』によって今までのセオリーが変わってしまった以上、手探りであたらしい普通を探すことになってしまった。

 一方で変わらないこともある。ダンジョン協会の利用ルールであるとか、ボスエリアへの侵入の暗黙の了解だとか。

 ダンジョン協会と連携しながら要不要、新しく必要になることを検討するところから始めなければならない。


「マニュアル策定は私が担当しますがこれに手を貸してくれる方がいれば助かります。おそらくそのまま新人探索者研修部門の責任者候補になるでしょう。責任者はもちろんお手当付きますよ」


 何人か興味深そうな反応を示したのを見て、リュウイチは安堵した。やる気がある人がいるのは助かる。リュウイチをサポートしてくれるまとめ役が早くほしいのだ。


「つづきまして、よそのダンジョン協会から、人材派遣もしくは支部の誘致の話が来ていまして、これも時期と人数を検討中です。派遣にしても支部にしても、現状では責任者の数が足りておりません。現在の従業員、あるいは皆さんの中から適任者がいれば可能になります。私と、その地のダンジョン協会と、探索者の方と、話ができなければ始まりませんので。興味がある方はこの後の面接時に」


 よそはよそで個人なり法人なりでがんばってもらいたいところだが、トップ探索者を連れ出したせいで『疫病のダンジョン』のダンジョン協会に苦情が来ているらしい。

 その対応として、R・ダンジョン支援合同会社の派遣という案が出たそうだ。

 リュウイチとしては無茶言うなといいたいところだが、入社希望者が膨れ上がったことで考えを変えた。

 うちで管理しきれない人間を外に出すことができるのではないかと。

 そうすれば直接管理する人数は無理のない数に抑えられるだろう。

 そのためには責任者になってくれる者が必要なのだが。


「というわけなので、幹部候補生を募集します。派遣、支部の設立ができれば地元で働きたいという希望も叶えられますね。それと、私個人の秘書と事務、経理などのデスクワークを担当してくださるかたも募集しているのでよろしければ面接の際にお願いします。給料はフルで現場勤務する場合より下がってしまうのですが……」


 ちなみに先に述べるが今日のところはデスクワークの立候補はなかった。


「で、ですね、勤務時間についてですがパートタイムと正規雇用の待遇は次のページのように――」



 なお、今回説明した会社の展望は近い将来変更を余儀なくされることになる。

 

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