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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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033.大漁

「は? これ全員入社希望? 63人? 嘘でしょ?」

「とりあえず明日57人会ってください」

「マジだった」


 ダンジョン協会の会議室。リュウイチとリンゴ、ミイナ、今日最終コマに出勤していた従業員。そしてピーチガールズからモモとスイカが見学に来ている。

 木曜の報告会。

 リュウイチは驚くべき現実を目の当たりにすることになった。


 リンゴから勧誘の結果として渡された希望者の資料が63枚あったのだ。


「上限決めたような覚えがあるんだが……いや、それよりもなにがどうなってこうなったのかわかるか?」

「その資料にもありますがこちらにまとめておきました」

「仕事が早い」


 まず、一つは報酬だ。

 最低時給を基本給として、1コマごとに出来高賃金を加算する。現在は1万円で計算している。プラス各種手当。R・ダンジョン支援合同会社の就業規則から給与規定を大雑把にまとめるとこうなる。

 出来高部分が給与の多くを占める。1コマ1万円。1日4コマフルで働けば1日4万円である。

 この額はある程度稼げる探索者にとっては大した額ではない。探索者は出るのも入るのも大きい。限界のちょっと手前に戻って堅実に稼げば安定してそれ以上の収支を得ることができるだろう。

 だが普通の職場と比較すると破格に見える。拘束8時間程度。実労働時間6時間と報告書書く時間分。報告会への出席は報告書さえ出していれば任意だ。

 1コマ出勤でも最低限。2時間ほど。

 おまけに仕事中のドロップ品は頭割り。

 おいしいお仕事に見える。


「でも、自分で似たような条件で募集すればもっと稼げるだろう?」

「それなんですが」


 R・ダンジョン支援合同会社のやり方をまねた者はいた。

 うまくやっている者もいる。

 『疫病のダンジョン』とは別のダンジョンでやれば競合もない。需要はまだまだあるのだから売り手市場のはずである。うまくやれるなら入れ食いで稼ぎ放題のチャンスなのだ。

 しかしうまくいかなかった者もいた。

 原因はいろいろあるだろうが、単純に料金でもめたり、サポーター蔑視の影響だったり、無理な勧誘を受けたり。原因は探せばいくらでもあるだろう。


 同時に詐欺が出現した。

 例を挙げると、依頼ネットワークとは別の場所で募集があり、先払いで受付順を入札させたらしい。もちろん金は持ち逃げだ。よくまあそんなのに引っかかるなと思わなくもないが、人間焦ると馬鹿になるものだ。

 これにより個人のスキルポイント獲得支援業の信用が引きずり落された。

 R・ダンジョン支援合同会社はというと、ダンジョン協会のコネがあり、巻き込むことに成功したことで一定の信用を確保できていた。

 顧客であるトップ探索者、準トップ探索者の扱いに関しても前職の関係で慣れていたし、新人にはサポーター育成を担当させてスキルポイント獲得支援業務にはリュウイチとトップ探索者であるピーチガールズで当たっている。

 初めて上位の探索者と接する人とは事情が違った。


 どこかのチームに入る選択肢はどうだろうか。

 その場合、サポーター蔑視が足を引っ張る。

 今後サポーターが中心になるだろうというのはあくまで少し先の未来の予想だ。状況が変わってまだ1週間。情報が錯綜していることもあり、サポーターへの見方が変わるにはあまりにも時間が足りていない。

 サポーターは低く見られており、その固定観念が崩れるにはまだ時間がかかるだろう。

 入れてもらう、という立場をとると蔑視の影響をそのまま引きずって関係を構築することになってしまう。


 では自分から募集するのはどうだろう。

 サポータークラスに就ける者はそういう気質があるということで、中心となって動くより人を助けるほうがやりやすいと感じる者が多い。

 以上。

 サポーターだけでパーティを組めば理屈の上では現状最も将来性があるパーティになれるかもしれない。副産物として伸ばした基本4職を手分けすれば問題なく組める。

 だが中心になれるものがいなければ早晩身動きが取れなくなるだろう。


 そんな話がサポーター界隈で流れているらしい。

 サポーター界隈ってなんだよとリュウイチは思ったが、聞けばSNSや掲示板などでちょっと調べれば見つかる範囲にある情報ということだ。

 今、つまり募集から1週間以内というこの時期にサポーター育成に応募する者は、もともとある程度サポーターに関する情報にアンテナを張っていたということである。

 そこにちょうど刺さる情報が流れていた。それは初日や二日目の体験談であり、さっそく自ら動いた者の失敗談と成功自慢である。


 これらの情報を総合し検討した結果。


 給料悪くない。

 ダンジョン協会の後ろ盾があって信用がある。

 何かあったら会社として対応してくれるだろう。

 保険も出るし掛けられる。

 とりあえず会社に所属して変革期を乗り越えつつノウハウを学んでから物足りなければ独立するなりすればいいかな。

 新しいこと始めるよりそれを支えるほうが性に合ってる。


 といった考えとなり、そこに勧誘がきたので乗った。それがこの人数となった。


 のだろう、というのがリンゴによる総括だった。

 そうなのか? と今日からの新人に視線で尋ねると、こくりとうなずいて答える。


「『ピーチガールズ』の知名度もいくらか後押ししているとは思います」

「それはあるだろうな」


 ダンジョン協会だけではない。

 トップ探索者パーティとして知られているピーチガールズが与している、それどころか勧誘を手伝っているのだ。

 その点を重視する者もいるだろう。

 アイドルに会える会社、みたいな。

 モモがドヤ顔で胸を張っている。


「明日以降は勧誘しなくても入社希望者がくるかもですねー」


 ミイナが恐ろしいことを言う。

 仮にそうなったら――リュウイチは方針を決めかねていた。そういう情勢であれば、この際増やせるだけ増やしたほうがいいのか。いや、管理できる規模を超えれば手に負えなくなるだろう。

 現状のR・ダンジョン支援合同会社は極めてルーズな組織だ。

 社員が代表であるリュウイチ一名、中心になっている従業員が契約雇用のリンゴ。あとは皆、平の従業員である。現場要員ばかりなり。


「デスクワーク手伝ってもらいたいんだけど。事務職と管理職経験者がほしいな」

「それは面接で提案してみればよいかと。ですが」


 デスクワークを手伝っているリンゴも応援が欲しいところだろうが。


「まずスキルポイントを十分稼いでもらうほうがいいだろうな」


 R・ダンジョン支援合同会社が注目を浴びているのであれば、その従業員になにかしらの接触があるかもしれない。これに対応するためにピーチガールズ経由で警備を頼んでいるし、警察の巡回も増え、自衛軍まで動いている。

 だがあまりに人数が増えればどこかに穴ができるだろうし、まあつまり危険があるかもしれない。

 実際に狙われたリュウイチとしては、爆弾くらいは耐える程度に身の安全を確保してもらいたいと思う。爆発事件の被害者は伏せられているので口には出さないが。


 それに貴重なサポーター適性者を現場に出さないのはもったいないというのもある。


「明日は新人さんパーティでスキルポイント稼ぎしてもらうか」


 6人で組めば6倍速である。いや、通常は2人1組なので3倍速か。

 人数が増えすぎて新人教育の手が足りない。マニュアルを渡して一日練習してもらいつつスキルポイントも稼いでもらう。ついに教育までセルフになってしまった。ブラックすぎる。

 その後リーダーシップを発揮した人を自薦他薦問わずで選び出して、班長にして大人数をまとめる手伝いをしてもらえば、とリュウイチが皮算用していたところ。



 会議室の扉がノックされ、ミイナが応対に出る。


 客は今回派遣されている自衛軍の指揮官だった。

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