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ダンジョン協会をクビになってものすごいレベルが上がったけどヒーローにはなりたくないのでなんとかしたいと思います  作者: ほすてふ


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30/70

030.燃え方

 よく燃えた。

 車ってあんなふうに燃えるものなのだと知った。


 市役所の駐車場で、リュウイチの車が爆発炎上したのだ。

 帰宅のために近づくと、突如ドカンと爆発してさらに燃え上がったのだ。

 リュウイチの国産最大手のトールワゴンはお亡くなりになった。見た目のわりに車内スペースが広めで気に入っていた。もう生産していないしモデルチェンジ前のものだったので再入手は難しいだろう。


 警察に連絡しているうちに、例の警備会社の警備員と合流。事情聴取に付き合ってくれた。

 警備は何をしていたかといえば、夜中に突然、リュウイチたちが市役所に走り出したせいでフォローが遅れたらしい。これはリュウイチたちも悪い。

 そしてリュウイチの車に工作を仕掛けていた犯人と遭遇し、制圧を試みたところ逃亡したため追いかけてその場を離れたところにリュウイチたちが戻ってきてドカン。ということだったそうだ。

 車の確認をすべきだったところを相手が手練れでうまく引き離されてしまったと謝罪された。

 原因がリュウイチたちにあるので恐縮した。夜中に勢いで物事を進めるもんじゃないという教訓だ。ただしこの二人、後悔はしていない。


 ともあれ、リュウイチたちは服も含めて無傷だった。

 ミイナはリュウイチの後ろに居たのでともかく、リュウイチにも焦げ一つない。

 いや、ともかくもなにもない。爆発炎上に巻き込まれて人体一つ程度では壁にならないはずだ。

 だが事実としてなんともなかったのはスキルの効果だった。

 『パーティ受ダメージ減少』二人分の守り。そのほかにも常時効果がある防御スキルはいくつか取得してある。

 爆弾だかガソリンの爆発だかでは傷つかないほどの守りを獲得していたのだった。


 逆にそのせいで『危険感知』スキルが反応しなかったものと思われる。

 レベルが上がり敏感になった危険感知は辺りのものすべてを危険と判断するようになるため、感度を調節する必要がある。直接自身へのダメージや状態異常などを与えない物には反応しないようにしてあった。


 それらの結果ただものすげえびっくりしただけ。

 客観的に見ればそれだけだ。

 いや、車を失ったのは痛いが。


「これ車保険下りるかな」

「というより犯人に請求するんじゃないです?」

「出してくれると思う?」

「ないですね」


 警備員と警察の間で状況説明が難航している間、リュウイチとミイナは手をつないで駐車場の車止めに座って話をしていた。

 『危険』でなかったとしても、暗殺あるいはテロの対象になったことは人生初めて感じる種類の恐怖だ。


『こういうのを避けるために何とか逃げ切ろうと思ってたんだが』

『追いつかれちゃいましたね』


 犯人が何者かはわからないが。

 誰かが動くということは他の誰かも動くかもしれない。

 味方が必要だ。だが誰を信用するべきか。


『探ってみるか』


 リュウイチは携帯端末を取り出し、目的のアドレスを探し、通話ボタンを押した。






「お待たせしました。お怪我は?」

「無傷です。肉体的には」


 10分で現れたのは、朝会って夕方まで行動を共にしていた内閣調査室の人、その名もタナカさんだった。リュウイチを迎えに来て、スキルポイントを稼いだアラサー男性。

 ダンジョン帰りでコンビニ弁当と缶ビールを買って帰宅中だったという彼は、リュウイチの車が爆破されたと聞くと同僚らしき人員を4名連れて飛んできた。非常用の『帰還』ネットワークがあるらしい。リュウイチの自宅から市役所まで移動するより早く来れるのだから驚きだ。おそらく今日の一件があってリュウイチたちが住む街をマークしていたのではないだろうか。


「では改めて状況を」


 というタナカに、リュウイチは事情を話す。

 近くの別の場所では、タナカの同僚が警察や警備員のやり取りに混ざっている。


「なるほど、おめでとうございます。その矢先にこれは何ともですが」

「ありがとうございます。ほんとですよ。どこが糸を引いているんでしょうか」

「あ、聞いてくださいます?」

「聞きたくなーい」

「「あっはっは」」


 ミイナが何笑ってんだこいつらと冷たい目でにらむのでリュウイチとタナカは姿勢を正して話をつづけた。


「犯人を確認しましたが、おそらくあの国かその国の工作員ですね。別に雇われている可能性があるので断言はできませんが、持って帰ってこちらで調べさせてもらいますがいいですね?」

「ええと、警察とかと話は」

「こちらで付けます。それと、しばらくのあいだダンジョン近辺とR・ダンジョン支援合同会社関係者の行動範囲の取り締まりを強化します。仲間がいる可能性が高いので」

「あー仕方ないですね、いや、ありがとうございますかな」

「なに、仕事ですので。一応、落ち着くまで不用意な行動は避けておいてください」

「デートくらいはできますかね」

「あー、ダンジョンの近くのほうが安全ではありますが、ここの市街までなら」

「ありがとうございます」



 こうして、厄介な問題をタナカに任せることに成功した。

 ますます窮屈な思いをすることになったが、残念ながらやむを得ないと考えるしかなかった。

 好きに遊んで暮らせる生活とは程遠い。

 車も失ったし幸せな気分も吹き飛んだ。


 取り戻さなければならないだろう。

 自宅まで送ってもらったリュウイチたちは遅くまで励んですこしばかり取り戻した。


 翌朝の話になるが、この件でいくつかのリアクションが起きた。

 まず『疫病のダンジョン』がある市の警戒が強化された。他の都市からも警官が増員される。

 また、『疫病のダンジョン』を含む近隣のダンジョンに、自衛軍人による探索者パーティがダンジョン研修に派遣された。一か月の間、各ダンジョン協会を拠点として活動するらしい。

 また、外務省から某国に抗議文が送られた。さらに外国人探索者による爆発が起きたことが公表され、いくつかの国からの一時入国禁止を宣言。それらの国からは処置に対する抗議が送られてきたが、政府はこれを突っぱねた。

 珍しい政府の強硬かつ迅速な態度に、各所で混乱が起きたり陰謀論がささやかれることになる。


 タナカ氏いわく。

「緊急事態宣言は時期尚早だということになりました。幸いといいますか、人的被害はありませんでしたからね。リュウイチさんたちは活動を続けてください。何人かキャンセルが出るかもしれませんがそこは大目に見ていただければ」


 どうやら国の方針は定まったらしい。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 叙述トリックとまでは言わないかもしれないが、前回のラストと今回の導入で笑ってしまった。
[良い点] 燃えた(物理) [気になる点] その後2人がちゃんと燃えたのか否か [一言] 楽しく読ませていただいてます
[良い点] まさか燃えたの意味がそういう… 予想できるわけあるかい!!!
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