023.面接
「前職はアサシンメイドとありますが」
「はい、アサシンメイドです」
「アサシンメイドとはどんなクラスですか?」
「はい、アサシンとメイドを合わせたようなクラスです。暗殺したりお世話をしたりします」
「では、そのアサシンメイドは弊社において働くうえでどんなメリットがあるとお考えですか?」
「はい。殺りたい敵に対する鉄砲玉になれます」
「鉄砲玉を送るような相手はいませんよ」
「でも、警護もできますよ」
「警護」
「メイドもできますし」
「身の回りの世話は間に合ってます」
アサシンメイドってどんな生活をしていたら就くことができるのだろうか。
黒髪、ショート、前髪ぱっつん。どこにでもいそうだが、よく見るとそうでもない。姿勢がやたらよく動きが優雅。体幹がしっかりしているのだろう。多くの人は第一印象では真面目そうと感じるだろう。
こんな子が上乳見せつけるような衣装を着ていたと考えるとエロい。
こんな子がアサシンメイドになれるような人生を送ってきたと考えると。
リュウイチは興味を持った。
尋ねた。
「それは秘密でお願いします」
「あ、はい」
同じ学校出身ということだから、学校で何かやっていたか、そういう素養を持っていそうなものを集めたのかではないか、などと想像するが、よく考えると深入りすると怖い目を見そうだと思い追求しないでおいた。
改めて確認したところ、『アサシンメイド』とは、盗賊系とサポーターの相の子のようなクラスで、気配を消して暗殺したり支援したりするクラスということだ。
リンゴは中でも偵察に必要なスキルを重点的に伸ばしていたらしく、パーティのメインスカウトとして活躍していたそう。
「そんな重要な役割の方が、パーティを抜けて弊社に来ていただけると?」
「それなのですが、期間限定で、というのは可能でしょうか。一年間『疫病のダンジョン』で活動するわけですから、そのうち忙しい期間をお手伝いできればと」
今が一番忙しい時期だよね、とリンゴはリュウイチを見る。
「新人探索者の習熟訓練を請け負うはずが、世界をひっくり返す方向にかじを切ったのは何か理由があると推察します。どうでしょう。私では、お手伝いできませんか?」
「正直ありがたいんだけれども。こちらに都合がよすぎて判断をためらいますね」
豊富な実戦経験を持つトップ探索者。リュウイチたちが持っていないものだ。
さらにこのリンゴというアサシンメイドさんは警護もできるとそういった。
今日不安を覚えた身内の身の安全をカバーできるのはあまりにタイミングがいい。ある種運命的な者すら感じ――。
「って、マッチポンプじゃねえか」
「え?」
「ん?」
小首をかしげるリンゴ。ぱっつん前髪が揺れる。目が何のことですかと言っている。
誘拐をにおわせて呼び寄せたのはこの交渉を有利にするための布石ではなかったのだろうか。
リュウイチの人となりがわからないのであれば、そしてそれでも動く必要があるのなら、リュウイチを計ると同時に危険を知らしめることで次に打つ手を効果的なものにする、という。
「あ、いえ、残念ながら我々はそこまで考えておりませんし呼び出し方はあの金髪巨乳女の独断ですし。仲間内のノリで。コスプレも。多分この間スパイ映画見たから。濡れ場のシーンって照れますよね」
急にリンゴが慌てだした。言っていることがいまいちつながってない。リュウイチの懸念に気づいたらしい。
でもこれは白だな。リーダーのモモはわからないが。
そう考えてリュウイチは改めて尋ねる。
「あなた方の立場だと弊社に属する価値はあまりないように思います。リンゴさん、あなたが仲間を育てれば短時間で活動を再開してトップに戻ることもできるでしょう。一年間の契約で拠点は一時的に移してもらわなければならないとしても」
「理由ですか」
「そうですね」
リンゴはうなずいてから続ける。
「一つはあなた。ですがあなたには懇意にしている女性がいると今日の聞き込みで確認しました。改めて謝罪いたします。乗り換えるつもりならいつでもどうぞ」
「謝る気ないなあんた」
「もう一つもあなた。この事態の中心にいるのはリュウイチさん、あなたです。今後世界は変わります。サポーター中心に動くようになる。他にもスキルポイントを増やすクラスが見つかるかもしれませんがこれまで不遇だったサポーターの地位が上がることは間違いありません」
「それは同意見ですが」
「まあそれはひとまずいいんです。重要なことではないので」
「なんで言った」
「世界が変わる、その始点があなたであるということ。ここに居れば面白いことが起きるでしょう。いろいろな人と会うこともできるでしょう。そうすれば」
「そうすれば?」
「いい感じの連れ合いに出会えるかもしれない!」
力強く拳を握って言い切るリンゴ。
リュウイチはようやく気付いた。この子見た目に騙されてはいけないタイプだと。
「というのは置いといて」
「置いとくだけ?」
「必要ならあとで深堀しましょう。その時は覚悟してください。」
「結構です」
「今後はチキンレースになると考えます。どれだけスキルポイントを貯めこんでからレベルを上げて攻略に入るか。より多くのスキルポイントを持っていけるかで到達可能階層は変わってくるでしょう」
「それはまあそうなるか」
ちゃんと探索をする探索者の視点はリュウイチたちには欠けていた。
スキルを増やせば大喜びでダンジョンの奥に突っ込んでいくかと思っていたところはある。
その先の到達競争は、確かにリンゴの言は一理ある。
「トップに戻ることを望むなら一瞬では意味が薄い。追い抜かれれば育て直しが必要になります。今までと比べてそれが有効ですから。ずっとトップを維持するのは難しい時代になる」
リュウイチは息をのんだ。
トップ探索者の迫力、すごみとでも呼ぶべきか。それを感じ取っていた。
「いろいろな意味で見極めが必要です。もっと柔らかく様子見と言ってもいいですが。それには中心にいるのがよい、と考えました。そしてR・ダンジョン支援合同会社こそがこの事態の中心です」
「なるほど」
リュウイチはかろうじて言葉を返した。
短時間でリュウイチにたどり着き、電光石火で動いたピーチガールズにしては慎重だと思わなくもなかったが、言っていることに説得力も感じる。
互いに利があるのであれば協力するのが理であろう。
リュウイチは決断した。
「リンゴさんのR・ダンジョン支援合同会社への入社を歓迎します」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
リュウイチとリンゴは握手を交わす。
そして早速書面等の手続きを進め、必要なサインをすべてもらった後。
「実は……」
と、R・ダンジョン支援合同会社の機密。黄昏の世界と氾濫の予言についての情報を共有した。リンゴの経験と立場が役に立つと考えたからだ。
「はあああああああ!?」
リンゴは大いに驚いた。
そして翌日、リュウイチが驚かされることになった。
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