022.ピーチガールズ
ピーチガールズは、控えめに言って成功者だ。
探索者デビューから7年間、快進撃を続けてきたといってよい。
縄張りである『桃太郎ダンジョン』の最深探索記録タイというレコードホルダーであり、国内トップ探索者として盤石な地位を築いている。その地位と能力は金を生み出してくれる。攻略最深層から資源を持ち帰ることができる者は限られているのだ。
また、構成員がみな、うら若い女性ということもあり、目立つ存在だ。アイドル探索者として名前を挙げられることもあるし時折そういった仕事を受けることもあった。
探索者の男女比率は男性に偏っている。
景気のいい話も聞くとはいえ、ダンジョン探索という仕事はやはり3K仕事だ。日帰りならまだましで、ダンジョンに泊まり込みとなると負担は大きく増える。本格的に打ち込みたいと考える女性は少ないのだ。
そんな中燦然と輝く女性オンリーパーティ。若く同じ女子高出身、学生時代からパーティを組んで活躍し地元にも貢献している。しかも全員が珍しいクラスというストーリーまでついてくる。目立たないはずがなかった。
ピーチガールズは、地位も、名声も、力も、金も、兼ね備えた成功者なのだ。
「さて、そんなあたしたちですが。現在危機にさらされています、なぜでしょうか!」
「モモがなんか飽きてきたとか言い出したからデース」
「ちげーわよ! それじゃないのよ! そのまえからよ!」
第何回だったか忘れてから16回ピーチガールズ会議。
ピーチガールズのリーダー、『鬼殺し』のモモは髪をかきむしりながら叫んだ。
ハーフで外人キャラを演じている『ガンナー』シトラスの言う通り、モモが飽きてきたとぼやく姿を見ることは確かに増えていた。もちろん仲間内でいるときだけだが。
「もう一年も先に進めてないですからねえ」
『巫女』スイカが頬に手を当てて吐き出すように言う。
ピーチガールズの快進撃は、実は一年前で止まっていた。
『桃太郎ダンジョン』42階。
犬猿雉に加え桃男が現れるようになり、またそれらと別勢力の鬼と抗争を続けているこの階層を突破できずにピーチガールズをはじめとする探索者たちは足止めを食らっていたのだ。
帰りは帰還の水晶を頼るとしても、42階まで足を運ぶだけで数日は時間がかかる。
そこから探索に入る。時間をかけて調査しようと思えばやはり日をまたぐし、往路にかかる時間を考えると少しでも長く調査したい。
女性特有の事情から、それだけでも条件が厳しかった。女性6人で体調をそろえるだけでも命がけの戦いをするという前提だと機会が限られてしまう。
そんな中トップ探索者でいるのだから彼女たちの努力と能力を察することができるというもの。
とはいえ、行き詰っているのは事実であり、進展のない状況は彼女たちの中にあるものを呼び覚ました。
地位と名声と力と金があり、仕事は停滞していてつまらない。
そんなとき。
「それもあるけど、あんたたち彼氏欲しいとかいい男居ないかなとかいっそ女でもいいとかぼやいてる件よ! こっそり合コンとか行ってるの知ってるんだからね!」
「自分もじゃん」
「そーだそーだ!」
『シャーマン』ナツメと『気功使い』カリンがモモの叫びに反発する。
誰が最初に言い出したのかはもう誰も覚えていない。
ただ、生活に不自由なく、しかし先が行き詰っている状態で。
仲の良い仲間といても、最近なんだかちょっと面白くない。
そんなとき、自分を省みてしまい、また一般的な幸せ、というものと比較してしまったのだ。
今の時代、20代前半はまだまだ余裕があるといえる。
とはいえ、このまま探索者を続けた場合どうなるだろうか。
このまま仲間と一緒に年を取っていくのだろうか。
色気のある話をすることもない仲間と。命がけの話はよくする仲間と。最近愚痴が増えてきた仲間と。
だけ?
そう考えた時、あれ、もしかしてやばくね、と思ってしまったのかもしれない。
それから彼女たちは出会いを求め始めた。
しかし、学生時代を女子校で過ごし、ストイックに探索者に打ち込んできた彼女たちは他人と仲良くなる方法を見失っていた。
コミュ障というわけではない。当たり障りのない関係を築くことはできる。自分たちをよく見せる方法も身に着けている。
だが、さらに踏み込んでもっと仲良くなろうとすると、物足りないと感じたり、金や名声に目がくらんでいるように見えたりして踏み込む気がなくなってしまう。
彼女たちの基準は自分と仲間。
言うまでもなく彼女たちはある分野でトップクラスに数えられる逸材である。
また長年連れ添ってきた一切の遠慮が不要な仲間にも恵まれている。
へたな人間では彼女たちの眼鏡にかなわなかったのだ。
「いまいちビビッとくる人が居ないデース」
「ね。顔はよくても体が貧弱なのはちょっと」
「体力は最低限ないと困りそうねー」
「最低限って言えば、面白い人じゃないとだめよ!」
「というかそろそろガールってどうなの」
「女は一生少女でいいのではない?」
「今がギリじゃないかなー。アウトっていうやつも居そうだけど」
やいのやいの。
「今日もいつも通りっと」
『アサシンメイド』リンゴはそう書いて議事録を閉じた。
というように停滞していたピーチガールズ。
探索に行って、体調を調整中は集まってだべってを繰り返す日々。何か変化のきっかけを欲していた。
42階の突破口でもいい。
それ以外の何かでもいい。
もう十分働いたし貯金もあるし引退してもいいけれどまあ続けられるし続けていればほめてくれる人もいるし。
うにゃうにゃと続く日常を変える何かを。
そこに現れたのが、スキルポイント100ポイント100万円であった。
これを見つけたのはリンゴで、すぐにモモに報告した。モモは即座に応募するように指示し、パーティに招集をかけ『疫病のダンジョン』のある街に乗り込んだ。
それとは別に募集者の情報を集めた。
トップ探索者となると、様々なコネクションがある。場所が近いこともあり、ある程度の情報はすぐに集まった。
日曜深夜のことである。巻き込まれた側は迷惑この上ない。
「なんか面白そうだから乗らなきゃ損でしょ」
モモの直感はピーチガールズを導いてきた原動力の一つだ。大事な時は外さない。そうでもない時はちょくちょく外すが。
事実であれば待ちに待った停滞を破壊する者であり、インチキであれば叩いて気分良く帰ればよい。
ピーチガールズが即座に動いた裏にはこういった事情があったのだ。
「というわけでして」
「いや、どういうコメントを求められてるんですかね」
月曜日の晩、リュウイチは時間外労働を強いられていた。選択したのはリュウイチ自身だったが。
ピーチガールズのメイド服風ゴシックドレスを着ていた女性、リンゴの採用面接のためである。
リンゴ女史の早いほうがいいという意向と、現状なら判断も行動も早いほうがいいかというリュウイチの判断が合致した結果、第2陣の後に会議室を借りて面接を行ったのである。
「うちのモモが『絶対これなら好印象を得られるから! 資料で見たから!』と主張した行動をとった結果、リュウイチさんにおかれましてはドン引きしてお帰りになったので、もう怖いものはないなと思い全ぶっぱしたんですが何か問題でも?」
「何の資料なんですかね。いや、なんかお疲れ様です」
「あれでみんなノリノリでした」
「ソウデスカー」
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