020.メイド服風ゴシックドレスを着ていた探索者
誤字報告ありがとうございます。とても助かっております。
「それでどうしたんですか?」
「ちょっと話して聞き出したんだが、誘拐された身内はいないみたいだったから、現在は直接のお取り扱いはやってませんのでご用はダンジョン協会の依頼を通してくださいつって『帰還』でこっち来たよ。あんまり待たなかったろ?」
「不能です?」
「なんだァ? やる気かァ?」
誘拐犯の魔の手から辛くも脱出したリュウイチは、ダンジョン協会でR・ダンジョン支援合同会社あての問い合わせへの返信作業をミイナから引き継いだ。
その際予定に少し遅れた理由を説明していた。
「思い出したけど連中あれだ、隣の県のトップ探索者パーティ。名前忘れたけど」
「え、もしかしてピーチガールズですか?」
「あ、それそれ。そのピーチガールズのやり口はあれだが、注目を集められたことは証明できたな。……ミイナとマリカさんの身辺警護したほうがいいだろうか」
ピーチガールズはお隣の『桃太郎ダンジョン』で活躍する探索者パーティで、全員女性で実力もあるということで一般にも人気がある。
リュウイチもダンジョン雑誌でデビュー5年かなにかの特集を見た覚えがあった。
ただ、あんな痴女まがいの真似を普段から見せているわけではないはずだ。それなら雑誌の特集でもその方向で推されていただろう。
つまり最速で動いて空回ったということだろうか。
「ピーチガールズなら応募してきてますよ。1件だけ早くて5件少し遅れて同時に。先の方は様子見の人身御供でしょうね」
「マジですか」
「マジです」
見ると、なんと最初から3人目の応募である。サポーターにクラスチェンジするとある。
とりあえず、日時の打診をしておく。基本的に受付順で入れていく作業だ。初回は今日の午後から。
「初回に入りそうだなこれ」
「誘惑に負けないようにしてくださいよ」
「知らんがな」
「身辺警護は、手が足りないですよね。できるだけ一緒に動くようにします。『帰還』でなんとかならない場合は助けてくださいね」
「……互いに『ロケーション』できるようにしておこう」
『ロケーション』とは特定の何かの位置を探る魔法使いスキルである。
「今日一日乗り切れば、そこまでする価値もなくなると思いますよ」
「そうありたいね」
スキルポイントの価値は現在は天井知らずだが、今日暴落する。
そして同じことができる人材もばらまく。
リュウイチたちの価値も暴落するはずだ。
ならば誘拐などしてくる相手はいなくなるはず。
この点は希望的観測だった。
「それじゃ、そろそろ第一陣を行ってきますよ」
「ああ、よろしくな」
ミイナはマリカとともにダンジョンへ向かう。
リュウイチはデスクワークを進める。
ダンジョン協会依頼局留で受け付けているために、ダンジョン協会の一角を占領しており、一部職員の視線が痛い。
部長にもアポを取ったのでその時間を待つ意味でもちょうどいい。図太く生きよう。リュウイチは気にしないことにした。
課長と部長に挟まれての昼食。元とはいえ上司二人とはなかなかの重圧環境である。
その中で、嘘感知使いの部長に黄昏の世界と氾濫の件を話すと、部長は頭を抱えた。
「君はほんともう……厄介ごとしか持ってこれないのかね?」
「まあまあ部長。今回は不可抗力でしょう」
「詳細な予定は課長に聞いてください。午後の予定があるのでお先に失礼します。ごちそうさまでしたー」
部長とはあまり馬が合わないことは在職中からわかっていたので、課長に任せる。
昼を奢ってもらって次の準備。午後からはダンジョンだ。
だが、その前に打ち合わせがある。
土曜日にも借りたダンジョン協会の会議室。リュウイチが昼食の後、探索装備に着替えて向かったところ、すでに5人が万全の探索装備で待っていた。
予定時刻よりはもちろん早い。10分前だ。
「ああ、どうも遅れて申し訳ございません。R・ダンジョン支援合同会社のリュウイチです。そちらの方は今朝ぶりですね」
「あ、はい、そのどうも……」
5人のうち一人は今朝会ったメイド風ゴシックドレスの女性だった。視線が熱かった人である。いい女は目で殺す、みたいな話を耳にして実践していたのだろうか。現在は探索用の装備に着替えている。視線は冷静だ。
ほかは男性ばかりである。
「おいアンタ、スキルポイント100ポイント増やせるのは本当なのか?」
「はい、ええ、可能です。その前に、時間より少し早いですが始めてよろしいでしょうか? この打ち合わせの時間を合わせて90分を基本単位とさせていただいておりまして、取得できていなければ後日追加とさせていただいております。現在12時50分ですから、14時30分までですね」
「そんな短時間しか時間をとらないのか!?」
「ええ、はい。すぐにわかることですから。皆様には満足する成果をご用意できると確信しておりますよ」
参加者の一人が怒鳴るように問うてくるのでリュウイチは答えた。
筋肉質で大柄なベテランの探索者である。
この場にいる参加者は、どこかのパーティの偵察か、もしくは金持ちの道楽かだろう。
あの募集内容で最速で応募してきた5人だ。
とにかく、R・ダンジョン支援合同会社の真偽を確かめたい者たち。
このおじさんも、不安なのだ。
クラスチェンジ、つまりレベル1にならなければならない。
今まで積み上げてきたものを自ら崩す行為といえる。
所属パーティのためとはいえ、よくも体を張れるものだ。人身御供そのものである。
リュウイチはここにいる者たちを尊敬する。
が、それはそれとしてやるべきことをやらなければならない。
「確認させていただきます。サポーター以外の方は皆さん100万円はご用意いただいていると思いますが、100ポイントを超えた場合、100ポイントごとに追加で100万円を請求させていただきます。端数はおまけいたしましょう。お支払いの余力はいかがでしょうか? それによって」
「は……? 何を言ってるんだアンタ?」
おじさんは、リュウイチの言葉が理解できないかのようにうろたえた。
そこに、10代後半と思しき少年が口をはさむ。
「ちょっとおじさん、黙っててよ。時間限られてるんだよ? ここで問答する暇あったら早く出発したいじゃん。あ、お兄さん、僕は5千万まで出しますよ」
「2億です」
「1億2千万」
「私サポーターです。全部で1万円になるんでしょうか? 100ポイントごとでも1千万ほどはすぐに」
「みんなお金持ちですねえ。で?」
それぞれが支払い余力を申告し、最後に
声を荒げていたおじさんに5人の視線が集まる。
「さ、3百万だ」
「了解いたしました。それぞれに合わせて調整いたします。パーティを結成するので受諾をよろしく。はい、OKです。では準備宜しいですね? 『帰還』」
5~6階の帰還の水晶の場に出るとまたひと悶着起きかけたが、すぐに収まり、全員にクラスチェンジをしてもらう。
「皆さんクラスチェンジしてください。今回はどのクラスでも構いません。10まで上げてからもう一度クラスチェンジをしていただいて、本命のクラスに就いていただく形になりますね? 報酬の計算はそこからとさせていただきます」
「私は一度目のクラスチェンジでサポーターになるのですが」
ピーチガールズの女性が手を挙げる。
「サポーターの方は2回に1度サポーターについていただいて、経験値増加スキルをとっていただければ。一万円ぽっきりです」
そして駆け足で6階を移動する。マヒ鬼と毒餓鬼を見つけ次第倒す。
6人パーティの状態であれば、2層の魔物を3体倒せばレベル10になるよう調整してある。
取得スキルポイントは料金の都合1レベル当たり100とした。
まずレベル10になるところで皆愕然としていた。
つなぎのクラスで900ポイントを得て何に使えばいいかわからなくなっていたので『健康』『睡眠』を勧めておく。クラスにかかわらない汎用スキルだからだ。
騒ぎながらスキルをとり終わり、一人を除いて本命のクラスに戻る。
そして1体のモンスターを倒して告げた。
「はい、それではおひとり様これで解散です。端数が出ましたからその分はサービスということで。請求はダンジョン協会から行きますのでよろしくお願いします。いったん『帰還』しまーす」
「あ、ちょっ、待っ――」
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