夜のパーティー
「くそっ! なんだあいつ等は!」
「陣形を整えろ! 拘束魔法で合わせるんだ!」
家の前に出た私が振り向けば、私の拠点を覆う半円状の結界の上で何かやってる連中が見える。
……実のところ、あれは結界でもないし、あそこにあるのは私の拠点でもない……っていうのはアルヴァの台詞だったかしら。
まあ、それはともかく。
「ぐあ! こ、拘束魔法を引きちぎっただと⁉」
あ、やっぱりダメっぽい。
私は即座に結界の上へと駆け上がり、衛兵に襲い掛かろうとしていた呪薬人間の1人に蹴りを喰らわせる。
「ガアッ!?」
「ぐっどいぶにーん、ジャンキーども。夜更けに乙女の家に随分な訪問方法じゃないの」
「お、お前は⁉ そこで何をしている、危険だ!」
おっと、この衛兵さんに事情をどう説明したものか……んー。
「ごめん、これ私の客だから。文句は王城の方に言えばいいと思う」
「は⁉」
秘奥義・丸投げ! これで良し!
「さあ、来なさい! 私はこっちよ!」
どうせこの区画に住んでるのは私くらいだけど、衛兵さん達もいるしね。
誘うように屋根を飛び移ると、呪薬人間たちも追うように屋根を飛び移ってくる。
そうして、幾つかの屋根を越えて。周囲に誰も居ないのを確認して、私は黒の波動を放つ。
「ギギッ……」
「ガアアアア!」
おおっと、ちょっと怯んだくらいかあ。ほんっと役に立たないわねコレ。
しかもそのうち1人は私へと魔力弾を放ってくる。
「よっと」
でも、そんなもの喰らったりなんかしない。アッサリ避けると、その場にあった廃屋の屋根がバキバキと音をたてて壊れていく。
うーん、人の居る場所でやんなくてよかった……けど。さて、どうしたもんかしらね?
「……ま、殺さず倒すには……これかしらね」
次々飛んでくる魔法攻撃を避けながら、私はその言葉を唱える。
変異……私ではない私になるスキルではなくなった、その言葉を。
「フォームチェンジ:ブラックアリス」
私が染まっていく。黒い私に、変わっていく。私が私のまま、何も変わらないままに。
……いや、変わっている部分はある。何が出来るのかが、明確に私の中に浮かんでいる。
変身中だろうとおかまいなく飛んでくる魔法を回避しながら、私は手の平を呪薬人間たちへと向ける。
「コールシャドウ!」
呪薬人間達の影から闇色の男達が伸びあがって、抱きしめるように拘束する。
「グオオオオオ!?」
「グギイイイイイ!」
拘束を抜け出そうとして暴れるけど、呪薬人間達の抵抗空しく闇色の男達は彼等を離さない。
「じゃ、これで終わりね……ナイト……」
ナイトメア、と。そう言おうとした瞬間。何かが駆け抜けて、呪薬人間たちの首が空を舞う。
「……は?」
「フン。役に立たん実験体どもが。所詮は失敗作か」
声のした方向……上空へ視線を向けると、そこには……1人の男の姿。
確か、アイツは……。
「ナジム、だっけ?」
「覚えていたか。まあ、当然だろうな。俺を忘れられるはずもない」
そう、そこに居たのは私に「鑑定」とかいう魔法を放ってきた魔人の男の姿。
うわあ、めっちゃ浮いてるし……何なのアイツ。
「……コレやったのはアンタってことでいいのよね」
転がる呪薬人間達の死体を指すと、ナジムはフッと笑う。
「どれのことだ。それを廃棄したことか? それとも、それが失敗作になったことか」
「全部よ」
「前者なら俺だ。後者は違うがな」
「……」
今のをどう解釈したらいいのかしら。黒幕はこいつじゃない?
それとも投薬した奴が違うってだけの話?
そもそも、こいつ……。
「アリス。お前は中々見込みがある」
「は?」
「失敗作とはいえ、それをアッサリと退ける実力……殺すつもりなら、もっと簡単だっただろう?」
「モンスターでもない人を無闇に殺すほど血に飢えてないのよね」
「くくっ……アレを人とぬかすか。ますます面白い」
はあー……ほんっとにもう。
「その『面白い』ってのさあ……私、この世で一番嫌いな言葉になりそうだわ」
「ほう?」
「それ言えばカッコいいと思ってんじゃないでしょうね。こっちは何も面白くないのよ」
どいつもこいつも「面白い」だの「面白い女」だのと……私はお笑い芸人かっての。
「そうか、ますます面白いな……どうだアリス。俺と共に来る気はないか?」
「何言ってんの?」
「難しい話でもないだろう。お前はもっと強くなれる。呪薬で、人間などという脆弱な枠を抜け出し魔族に生まれ変わるんだ」
「……呪薬はそういうのじゃないでしょ」
「いいや。そういうものになった。この俺達の手によってな」
何が楽しいのか、ナジムはニヤニヤと笑いながら腕を広げる。
……!? ヤバい!
瞬間的に広がった破壊の魔力を、私はガードオブダイヤを全開で防ぐ。
くっ、これって……!
なんとか防ぎ切りながらも、私は崩れた瓦礫と共に地面へと落ちる。
「素晴らしいだろう? 以前強大な広範囲攻撃を観測したことがあってな。俺なりに再現してみた」
やっぱりボムか……! 全然性質は違う気がするけど!
「まあ、形を真似ただけに過ぎんがな……」
でしょうね。でも、これは厄介だわ……!




