また火種
そして、翌日。絡みついていたリーゼロッテをベッドからいつも通りに蹴り落として朝食の準備。
台所で卵を殻ごと鍋に入れると目玉焼きが出来る。どういう理屈かは知らない。
ちなみにパンはいつも通りに畑から。ベーコンは豚肉放り込めば完成品が出てくるのよね。
「よーし、出来た! いつも通り完璧な朝食よ!」
「ああ、いつも通りにイカれた調理風景だ。頭が痛くなるな」
「あらアルヴァ、おはよ」
「……その腰に張り付いたポンコツ魔女はどういう遊びだ?」
アルヴァが言いながら指さすのは、私の腰に抱き着いてるリーゼロッテ。
うーん、そんなこと言われても。
「だってアリスさんが今日も私を蹴り落としたんですのよ……」
「何度言っても私のベッドに潜り込んでくるからでしょうが」
「いい加減ガールズトークとか、そういうのを目覚めにやってもいいと思うんですのよ!」
「え、やだ。何が悲しくてリーゼロッテとそんなのしなきゃいけないのよ」
「親友ですのにい……」
「じゃあ親友、朝ご飯運んで」
「扱いが雑ですわ……」
ブツブツ言いながら朝ご飯を運んでいくリーゼロッテを見送りながら、溜息1つ。
「ねえ、アルヴァ」
「なんだ」
「魔女って、皆『ああ』だったりする?」
「概ねあんな感じだ」
「分かった。迂闊に魔女には近づかないわ」
どういう生き方してんのよ、魔女。もっとコミュニティとか形成しなさいよ。
「ちょっと、2人だけで何話してるんですの⁉」
「めんどくさいなあ」
「めんどくさいって言いましたわね⁉」
「今体感していると思うが、心を許した魔女は概ねこうして重くなる」
「アルヴァさんまで!?」
「恐らく魔女誘拐事件には、こうした種族的なチョロさも無関係ではないだろう」
ぎゃあぎゃあと騒ぐリーゼロッテを適当にいなしながら、朝食。
うーん、今日も美味しい。あ、でも魔女誘拐事件っていえば。
「魔女の誘拐自体はあれでしょ? 鉤鼻の独断」
「恐らくはな」
「なら、それ自体は解決したってことでいいんじゃないの?」
「そう考えてもいいはずだが、何事にも絶対はない。それに……」
「それに?」
「猜疑心を強くした魔女は、別の意味で面倒だ」
ええー……これ以上面倒になるの? やだなあ。
「傾向としては全てを疑い、自分自身で事態を進展させようと暴走する」
「あー……なんか覚えあるわ」
主に私とリーゼロッテの出会い的な意味で。あの時はリーゼロッテが私を魔女だと疑ったんだっけ。
「いや、でも解決したじゃない」
「呪薬の問題が残っているだろう」
「呪薬!? 禁じられた薬ですわよ! ちょっと、何があったんですの⁉」
「アルヴァ、迂闊じゃない?」
「そうだな……ついウザすぎて存在を意識から排除していた」
「ちょっと!?」
「はいはい、落ち着いて。どーどー」
リーゼロッテを適当になだめると、そのままリーゼロッテが抱き着いてくる。
うーん、どうしようコレ。ていうか勝手に私の膝を使うんじゃないわよ。
「はー……落ち着きましたわ」
「そりゃよかったわね。で、呪薬の問題がどうしたってのよ」
今さらどうしようもないので話題を続けると、アルヴァは「見ての通りだ」とリーゼロッテを指さす。
「魔女どもは基本的には薬師として生活している。そんな中で呪薬のような危険なモノが出回れば、猜疑心の強い状態の魔女は『自分たちに罪を着せようとする何者かがいる』と考えるわけだな」
「種族全体でめんどくさいって、どうなの……?」
「全体数は少ないから最終的には許容範囲内に収まるようだな」
「そういう問題かしら……」
まあ、いいけど。つまり、そうなると魔女が問題解決に乗り出してくるってことよね。
いや、でも呪薬の話って何処まで広がってるのかしら?
話を聞いた感じだと、まだ表には出回ってない感じだけど……。
「分かっていないようだから言うが、呪薬の話が大々的に広まれば、必ず魔女が首を突っ込んでくる。そうなれば……そこのポンコツ魔女が数十人単位で魔国全土で活動開始するようなものだと思え」
「うわあ……」
「凄く酷い事を言われてる気がしますわ……」
あ、コイツおねむになってるじゃないの。さっきまで寝てたでしょうが。メンタルどころか行動が子供になってない?
「ええい、起きなさい。ほら、早くご飯食べなさい」
「うー……」
「うー、じゃないわよ」
「まるで母親だな」
「こんなデカい子供持った覚えはないわよ」
まったくもう。こういうのが増えると思うと……リーゼロッテ1人で充分って思うのよね。
絶対魔女には関わらないでおこうっと。
「とにかく、そういうことならこの件は早めに解決したいわね」
「そうしろ。呪薬など、この世に害しかもたらさん」
「その言い草だと現物知ってる風に聞こえるけど」
「知っている。アレは大分昔の人間が魔族を超える生き物を目指して作ったモノだからな」
「……は?」
今、なんて?
「大元は潰したはずだが……何処かの馬鹿が蘇らせたのだろうな。まったく、面倒な事だ」
「あー……つまりこれって……」
まーた人間と魔族の確執案件かあ……火種転がり過ぎでしょ。
どうなってんのよ……




