目覚めて、朝
「むー……何か、妙な夢を……見たような」
目を覚ました私は、そんな事を呟く。楽しいでも恐ろしいでもない、妙な夢。
けれど、それがどんなものかはサッパリ分からない。
思い出そうとしても無理だろうな……と何となく思う。
そしてそういう時は、サッパリ忘れてしまうのが一番なのだ。
それよりも……なんだろう、何か圧迫感を感じた。
まるで何かが圧し掛かっているような……絡みついているような感覚。というか、実際に何かに絡みつかれている。そしてその正体を、私はよく知っている。
「むにゃー……すぴぃ。うふふふふ……」
「こいつ、また私のベッドに……起きろコラ!」
私を抱き枕にしていたリーゼロッテを蹴り落とすと、「むぎゃっ」と変な声をあげてリーゼロッテが目を覚ます。この駄魔女め、私をタダで抱き枕にしようとは。
「何するんですの⁉」
「起こした。おはよ」
「あ、おはようございます……ではなくて!」
「何するはこっちの台詞なのよねえ……私のベッドに入ってくるなって言ってんでしょ」
「いいじゃありませんの! 私達親友でしょう⁉」
「百歩譲って親友だったとして距離感おかしいのよねえ……」
私の記憶だと、親友ってのは夜中に人の部屋のベッドに潜り込んで抱き枕にする存在じゃなかったと思う。
「だって私、今まで親友とか居ませんでしたし……」
「うーわっ」
「なんで引いた顔するんですの⁉」
「ぼっちを拗らせた成れの果てを見たから?」
「もうぼっちじゃありませんもの!」
「期待と希望を一身に背負わされて正直重い」
「ひどくありません⁉」
でも重いし。めちゃ重い。ヤンデレとかになったらどうしようコイツ。
でもポイ捨てするわけにもいかないしなあ……。
溜息をつきながら、私はここ最近のことを思い出す。
誘拐事件の主導者であると思われる「鉤鼻の魔女」とその配下のオウガを私がやっつけたのは、数日前のことだ。
鉤鼻の魔女のアジトから見つかった書類の数々は「鉤鼻の魔女による誘拐事件」の全容を示すような内容だった……らしいけど。魔国の捜査機関の出した調査結果を魔王ハーヴェイが一蹴したらしい。
これでは終わらない。そう言ったらしい……んだけど。そのハーヴェイから「しばらく魔女リーゼロッテを匿ってやってほしい」と頼まれたのだ。
ハーヴェイ曰く「鉤鼻の魔女が死んで転生魔法の欠片が何処かに散らばった可能性を考えて、しばらく追跡調査をする」とか、そういうことらしい。
で、リーゼロッテをどうにかしようと思う奴がいた場合、私の家に隠しておくのが世界で一番安全だとか何とか。正直詳しい話はアルヴァに任せて私の意識は途中から宇宙の果てに跳んでいたのであまり覚えてない。
ともかく、リーゼロッテがしばらく居候するということは確かで。その結果、このぼっちこじらせ魔女は私と友情を深めようとしているらしいのだ。
「ていうか、仲間の魔女は? 友達じゃないの?」
「違いますわよ。魔女は横の繋がりはありますけど、基本的にライバルですもの」
「基本的に……ってことは」
「敵ですわね」
「そっちかあ……」
「仕方ありませんのよ。魔女は皆研究者ですもの。他の魔女が自分の研究結果を奪いにこないか常に警戒してますのよ」
「ふーん」
「かといって、人間は皆私を見るとぶしつけな視線を向けてきますし。他の魔族も似たようなものですわ」
なんか色々苦労してんだね。でもそれってモテてんじゃないの?
うん、つっこんでみよう。
「それってリーゼロッテにお近づきになりたいって話なんじゃないの?」
「優秀で美形な魔人ならともかく、他の連中なんてお呼びじゃありませんわ」
魔人ねえ。魔人って角ついてる連中よね。
うーん、つまり。
「ハーヴェイとかのこと?」
「畏れ多すぎですわ。といいうか貴女、魔王様とやけに親しげですわよね」
「そう?」
「そうですわ。普通、魔王様とあんなにフランクに話せませんわよ?」
えー、そうかなあ。私は最初からあんなもんだけど。
「じゃあ、もしかしてアルヴァ?」
「ダークメイガスはちょっと重すぎますわね……」
「リーゼロッテも重いからいいじゃん」
「重くありませんわよ!」
そういやダークメイガスが何かってのも聞いてなかったなあ。
なんか興味がもてなかったっていうかどうでもよかったっていうか……でもなんだろう、今は聞いておいた方がいいような気がなんとなくしてる。
……うーん?
ていうか、話してる間にリーゼロッテが当然のように横に座ってるのはどうしようね。
ほんと距離感おかしい。どんだけ友達いなかったのさ。
そもそも私、リーゼロッテの好感度的なものを上げた記憶ないんだけどなあ。
「ま、いいか。着替えて朝ごはんにしよっと」
「そうですわね!」
「……」
「どうしましたの?」
「自分の部屋に帰れ」
「ええー!」
なんで当然のように居ようとしてるのよ。まったくもう。
「何なのかしらねー……あれ」
「卵から孵った雛にも似ているな。貴様の規格外を目にした結果というところか」
「意味わかんないんだけど」
「そうか」
うん、ていうか。
「なんだ貴様⁉ 突然剣を……うお⁉」
「着替えようとしてる乙女の部屋に入ってきてんじゃないわよ! 死ね!」
「落ち着け! 何をそんなに怒ることがある⁉」
「その手のボケが通じると思ったら大間違いだからね! 私は殺すといったらマジに殺す女よ!」
「うおっ、ボムマテリアル⁉ この馬鹿!」
「ちっ、転移したわね⁉」
アルヴァの気配が消えたのを感じつつ、私は手の中のボムマテリアルを見る。
「……んー?」
なんだろう。何か忘れてるような、そうでもないような。
なんだったかな……?




