めんどくさっ
ジョゴダの町に転移すると、ざわざわとした街の喧騒と……ちょっと懐かしい風景が視界に飛び込んでくる。
周囲から見れば突然現れた形になる私だけど、大きな町ではさほど他人に興味はない。
気にされるとして、せいぜいが「あれ、あんな美少女さっきまで居たっけ?」ってとこだろう。
うん、私の美少女っぷりがこんなデメリットになるとは。美しさは罪ってこういうことなのかもしれない。
『……』
『何よ。言いたいことあるなら言いなさいよ』
『いや。余程の事が無ければ口も出さん』
『勇者を見守る賢者とか、そういう立ち位置にでもなりたいわけ?』
『賢き者、という点においては大きく間違っていないが」
「……貴方も結構アレよね』
自分で言うかなあ。ちょっとないわー。
勿論私は言ってもいい。だって事実だもの。
……まあ、それはともかく。
「このジョゴダの町も久々よねー」
王都の広さや発展具合に慣れるとジョゴダの町は意外に小さかったんだって分かるけど、此処には此処の良さがあると思う。まあ、それが理解できるほど滞在しなかったけど。ていうか田舎だわ。王都に慣れるとあまり住みたいと思う場所でもないわよね。
そんな事を考えながら、私はグレイたちが泊まっていたはずの『魔女の鉤鼻亭』を目指して歩き出す。
「えーと、何処だったかな」
「お、そこのお嬢さん。何してんの? 暇なら俺と」
「探し物。暇じゃない。またね」
なんか話しかけてきた奴を手をヒラヒラさせながら適当にスルー。
ナンパ男に目的の場所聞いたって面倒なだけだし。
「探し物? それなら俺が手伝うって」
「要らない」
「そう言うなって。俺、役にたつよー? この辺全部知ってるからね」
うわ、前に回り込んできた。ウザいなー。
つーかこいつ、やけにヒョロっとしてるけど……オウガ、よね?
鬼みたいな顔と角は、ミニミと同じだ。まあ、印象は全然違うんだけど。
「いいからどいてくれる? 知り合いでもないオウガと長々と話してるほど暇じゃないのよ」
私がそう言えば、ナンパオウガ男は驚いたように目を見開く。
「アレ? 俺がオウガって分かるんだ?」
「分かるも何も。そのツラでオウガ以外の何だって言うつもりなのよ」
「あはは。いやー、よく魔人とは間違われるんだぜ?」
「あー、魔人も角あるものね」
「そうそう! で、魔人って高給取り多いからさー。オウガだって言うとたいてい残念がられんの!」
「なんで? オウガは貧乏なの?」
「ほら、オウガってパワー馬鹿だから。ひょろっちい俺がオウガでございってなると、ことさら貧乏野郎に見えるんだろねー」
「ふーん。くだらない奴が多いのね」
「そう言ってくれる人は意外と少ねえんだぜ? ハハッ」
「あはは……って! だから暇じゃないって言ってるでしょうが!」
ナンパオウガをぐいっと押しのけて私は歩く。
まったく、危ない危ない。つい盛り上がっちゃったわ。
「ま、仕方ねーな。また遊ぼうぜ、お嬢さん」
もう会わないっての。ったく、なんなのよ。
『……アリス』
『何よ、アルヴァ。別にナンパなんかに引っかからないわよ?』
『今の男の事だが……いや、いい』
『何よ。気になるじゃないの』
念話で聞き返すけど、アルヴァは答えない。うーん。何なのかしら。
結局言わないってことは、どうでもいいことなのかもしれないけど。
それより、魔女の鉤鼻亭よね。魔女の……魔女の……ん?
『ねえ、アルヴァ。そういえばこの世界って魔女とか居るの? 鉤鼻なの?』
『鉤鼻の魔女というのは、実際に居た。高名な魔法使いでもあったが、気分屋でな。多大な功績も上げ続けるので、討伐するかどうか死の瞬間まで天秤にかけられ続けた奴でもある』
『ふーん』
『ちなみに魔女というのは魔女族のことだ。魔人と違い角がないが、目の中に星のような輝きがあるから見間違えることはない』
『魔女族……名前からして女しか居なさそうね』
『実際その通りだ。魔女族との間に出来る子も全て魔女族になる。種族的特徴としてはプライドが高い事が多く、貴様とはあまり合いそうにない』
『分かった。目の中に星がある奴が居たら関わらない』
『そうしろ』
魔女かあ。やっぱりホウキで飛んだりするのかしら。ま、そのうち会う事もあるかしらね。
「ちょっと、そこの貴方!」
「む?」
「この町は私の縄張りでしてよ⁉ いったい誰の許可を得て来ているのかしら!」
え、何? 急に縄張りとか、いったい何事?
混乱しながら振り返ると、ホウキを持ってローブを着込んだ銀髪の女の子が明らかに私をロックオンして向かってきてる。
何やら怒りに満ちた……というにはなんか可愛らしい怒り方してる顔だけど。
うわあ……なんか瞳がキラキラしてるっていうか星があるんですけど。
魔女だあ……すっごい魔女だあ。
「めんどくさっ。逃げよ」
「あっ、待ちなさい! 魔女協会に話は通していらっしゃるの⁉」
「ていうか私は魔女じゃないし!」
「その容姿でそんな言い訳が通じると思って⁉」
「美少女でごめんね!」
「いいから待ちなさい!」
「関わったら負けな気がするからヤダ!」
ってうわ! ホウキで飛んできてる!
ボム使ったらダメ? ダメか!




