75 エピローグ 1
ここまで読んでいただきありがとうございます。
エピローグ少々長くなってしまい3話あります。
楽しんでいただけると幸いです。
あと数日でリリィ様とイスラを去る予定でいるのだが、その前にアリシアに会いたい。
私は一人、アリシアの店の前に立つ。
開いているようだが、外からではアリシアがいるかどうかわからない。扉から中に入ると店の奥からアリシアが顔をのぞかせた。
「アリス」
嬉しそうににっこりとほほ笑むが、いつものように抱き付いて歓迎されたりはしなかった。
まあ、ここ最近は学院でずっと一緒だったから。ハグはなくても不思議じゃない。
「元気そうでよかった。あれから話ができてなかったから、今日はどう?」
私は想像以上に固い表情をしていたのか、アリシアが気遣う様に笑う。
「アリス、そんな怖い顔しないで、最近は本当に忙しかっただけだから。それに、はじめは動揺したけど今は大丈夫」
何か動揺することがあったんだ。
「座って、店の看板下げて来るから」
私は言われた通り、テーブルで待つ。
アリシアはお茶と手作りクッキーを持って来てくれる。
「さて、前に私の前世の話をしたよね」
前世の話?
乙女ゲームの話かな? 私たちの年の話か?
「ふふ、私に子供がいたという話よ」
ああ、あの爆弾発言か。
え、ちょっと待って今なぜその話?
「会っちゃったの、その子に」
会った? その子ってどの子?
「えーっ!!」
私は動揺のあまり、ガチャリと持っていたカップをソーサーにこぼしてしまう。
「あら、大変。拭くものを持ってくるわ」
立ち上がるアリシアに、思わず私も腰を浮かした。
「待って、その子って、前世での子供ってこと!」
それで、あの日城壁の上でアリスの様子がおかしかったのか。
あの時はルークを見ていたのよね。
「子供って、ルーク!?」
「は? どうして魔王? ライトよ」
「ライト?」
おうむ返しに聞き返す私に、アリシアは頷く。
「光と名付けたのは私」
「うそ………」
「本当」
「そんな偶然ってあるの?」
「あるのね。私も驚いた。私が最後に光を見たときは10歳だっだ」
「10歳………今ライトは確か13よ!」
どういう事情があり、最後に会ったのが10歳なのかはわからない。ライトの顧客表にも母親のことは書かれていなかった。
でも、そんなの今はどうでもいい。
「ライトを連れて来るわ」
ライトとアランは一足先にアンダルシに帰ったのだ。
勢いよく立ち上がると、アリシアが困ったように首を振る。
「アリス。今はまだ会えない」
「なぜ?」
「光は元の世界に帰りたいのよね。私がこちらにいることが分かれば、迷うでしょう。あっちには父親と妹がいるし」
アリシアの言っていることはわかるけど。こんな偶然ありえない。
運命としか思えない。
ズキっと何かかが心に刺さった。
運命に勝ったと思っていたアリシアがまた運命に巻き込まれているんだ。
黙り込んでしまった私にアリシアは、淹れなおしたお茶を差し出した。
「アリス、私はどんな風に見える?」
どんな風に?
「日本人に見える?」
私の目の前には絶世の美女がいる。
「日本人には見えない………」
「そうよね。しかも16歳だし。私が名乗りを上げても、今は混乱するだけじゃない」
確かに、その通りだけど、でも………。光はお母さんに会いたいはず。
「もう少し時間をちょうだい。このことはアランにもないしょ。結論が出たら教えるから」
私は頷いたが、どうそても言わずにはいられなかった。
「アリシア、私が異世界間転移できるのは前に話したよね」
アリシアは以前さらりと異世界間転移できる事を話してあった。
「ええ」
「私が16の時にアリシアは向こうでは確か35歳。その時光は幾つだったの?」
「私が35歳の時? 8歳よ。それがどうかした?」
「私は20歳の春こっちの世界に召喚されるの。つまり私が異世界間転移できるのは簡単に言うと16の誕生日から20歳まで、光が8歳から12歳まで、光が13歳で召喚されると言っていたから、すでに私は向こうの世界には存在していないけど」
アリシアはきょとんと私を見ていた。何が言いたいのかわからないようだ。
「つまり、13歳の光には会いに行けないけど、12歳の光になら今すぐではないけれど会いに行ける。もっと言えば10歳までの光にしか会った事のないあなたにも会いに行って警告ができるの」
「………」
アリシアは黙って考え込んでいた。
私の言いたいことが理解できたようで、ノートを持ち出し私や光、自分の年齢を書いて確かめている。
「そんなこと許されるの? 世界が大きく変わってしまうかもしれないってことよね」
大げさだけど、否定はできない。
「確かに、ガリレには人の生死には手を加えるようなことはしてはいけないと言われている。その時に何が起きるかわからないし、この世界での存在自体消えてしまうかもしれない」
自分で言って、ちょっとビビっているのも事実だ。もしかしたら、以前から考えていたことを一人で抱えていたくなかったのかもしれない。
「光がこの世界に来て、帰りたいと言った時。できれば返してあげたいと思った。ただ、8歳の時の光に言っても理解できないだろうし、召喚を回避できるとは限らない。でも、アリシア、大人であれば前世の運命を光ごと変えられるかもしれない」
私の突拍子もない話を、アリシアはじっと聞いていた。
「アリス。アリスが私たちのことを真剣に考えてくれているのはわかった。でも、私の死は変えようがないわ。それにもしそれができたとしても、私はそれを選択しない」
あまりに迷いなく言うので、私の方が驚いた。
「どうしてそんなに簡単に決めることができるの? 人間だもの少しくら迷うでしょ。だってずっと愛する子供達と暮らせるかもしれないのよ」
私の言葉にアリシアは悲しそうに窓の外を見た。
「アリス、私はこの国に転生して生きてきた。前世の記憶があるけれど、以前の私とは同じじゃないの。私が生きているのはこの世界。大切な人がいて、やりたいことがある。もしも私が転生者じゃなく召喚者なら違っていたかもしてないけてど」
アリシアの瞳には迷いはない。
そうだ、私の知っているアリシアらしい答えだ。
「本当にそれでいいの?」
「ええ。私が光に名乗るかは、もう少し考えるけど、アリスが異世界間転移のことを話すかはアリスに任せる」




