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65 枯れた花びら

「将軍、この薔薇の伝説はご存じだろうが、王家にはそれとは別に長い間継承されてきた秘密があるんですよ」

 もったいぶった言い方をして、第一王子は将軍に王族らしい威厳のある笑みを浮かべた。


 将軍は身を乗り出し、次の言葉を待つ。


 この人、剣で戦わせたら強いのかもしれないけど、世渡りはへたくそなんだろうな。

 第一王子の口車に、まんまと将軍は騙されているようだった。


「兄上、それは何かわかりませんが、何であろうとこのような危険が迫っている中で明かしてよい話ではないのではないですか?」

 レオンの言葉に、将軍も瘴気が迫っている状況を思い出したのか、残念そうな顔をした。


「レオンも当然、王妃から聞いて知っているものと思ったよ、このような時だからこそ、伝説の真偽を確かめ危機を乗り切らなければ」


 もっともらしいことを言っているが、こいつに全く危機を乗り越えようなどと言う殊勝な気持ちなどこれっぽちもないことは明白だ。


 だって元凶はこいつだもの。

 そう叫んで将軍に言ってやりたかったが、声にならず。私はエルフを睨むことしかできなかった。


 そこへ、将軍と同じ色の深緑色の制服を着た騎士が、風が強くなり、瘴気が城壁へ迫っていると、報告してきた。


 将軍は素早く立ち上がる。


「殿下たちは城にお戻りください。瘴気が迫っている以上、魔力量の多いお二方は危険です」


「将軍、心配いらないよ。民を守るのが私たちの職務だからね。そうだろ、レオン」

 第一王子がそういうと、将軍は感動しているのか、目じりに涙をためている。

 ちょろすぎるでしょ。

 大丈夫なのこの国?


 砦に陣が組まれ。第一王子とレオン、そして将軍が並ぶ。レオンは少し離れたところに立つ、エルフと私を気にしてチラチラ見ているが、今は将軍が瘴気を食い止める作戦を話すのを黙って聞いている。


 瘴気は、城壁にぶち当たると魔術師によって生み出された上昇気流に乗り、上へと拡散されていた。


 一人一人は強い力を持っていなくても、城壁に等間隔に並んだ魔術師のおかげで、大量に瘴気が流れ込んでくるのを防げている。

 シエの砦の先にも、シスターたちが並んで食い止めているのが見える。


 馬鹿だと思った割に、なかなかの作戦である。

 少し見直してやらんこともない。


 いや、まって、そもそもこんなに手際がいいのは、レオンがいる格技場に瘴気を送るために準備していたからだ。

 称賛の価値はない。



 私が一人考え込んでいると、いきなり真後ろにいたエルフがガッツンと音とともに、前に倒れこんだ。


 それと同時に、手に持っていたガラスの薔薇が石畳に投げ出され、ガッシャンとガラスの割れる音が響く。


 誰もが、こちらを振り返ったが、割れたのは薔薇ではなく鉢だけだった。


 私は、それを確かめることもなく、エルフと一緒に倒れていたところを強く引っ張り上げられる。


「アラン」


 姿は見えなかったが、間違いなくアランの手だ。


 すぐさま、アランは私と共に転移しようとしたが、私とエルフを繋ぐ鎖に邪魔をされ、転移ができない。


 驚いているアランの隙をついて、立ち直ったエルフが私の鎖を引っ張り、腕の中に囲われる。


 すかさずアランが剣を抜き、エルフに襲い掛かるが、エルフは私の喉に剣を押し当て、ニヤリとアランに笑いかける。


 え?

 アランの姿が見えてる?


「エルフは人の気配に敏感なんですよ。不意打ちなんて卑怯ですね。この鎖は魔獣用に、魔術師が何重にも逃げられないよう魔術がかけられています。この鎖をつけたまま転移はできませんよ」

 卑怯者はあんただ!

 と心の中で毒づく。


 アランの舌打ちが聞こえたが、気配が消える。


 大丈夫。アランが来てくれたんだから。あの馬鹿王子をざまぁしてくれるはず。


「何の騒ぎだい?」

 第一王子が近づいてきて、地面に落ちるガラスの薔薇を見て、眉を寄せる。


「これは、見過ごせないな。君の仕業?」

 わたしは、肯定も否定もせずに第一王子を見返した。


「ネズミが一匹潜り込んでいるようです」


「ふーん。まあ、いい。さっさと試してみよう」


 第一王子は無造作に、薔薇の茎をつかみ目の前に掲げた。

 どいつもこいつも、もっと丁寧に扱えないの?


 それから、無造作に花びらを一枚むしり取った。

 なんて、乱暴に引きちぎるのよ!


 ただ、引きちぎるだけでは、薔薇の花びらは宝石には変わらない。

 どうやら、知らないらしい。

 だからと言って、教えてやる気は毛頭ない。


 何の変化もない花びらを訝しく見て、透かしてみたり、表裏を確かめたりしていたが、不意に自分の手のひらに載せて、眺めだした。


 うわっ、まずい。

 と思った瞬間。

 第一王子の手のひらの上の薔薇が、どんどん輝きをなくし、七色の光が、ただの透明の花びらに変わり、それから徐々にくすんだ色へと変化して、最後にはとうとう黒く枯れ果てた。


 その変化を王子は真っ青な顔で見つめていたが、ギュッと手を握りしめると、今度は真っ赤な顔になりエルフに詰め寄る。


「これは一体どういうことだ?」



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